第11話 フィオナの依頼

 <タケミカヅチ>は彼女が乗っていた機体だ。気になるのは当然だろう。しかしここで大きな問題がある。

 僕が搭乗した時に機体のAIがパイロット登録完了と告げた。あれが本当だったとしたら、現在この機体を動かせるのは僕だけという事になる。

 本来のパイロットであるフィオナさんが意識を失っている間に別の人間にしか扱えない状態になっていたら彼女は何て思うだろうか。

 あ、ヤバい。何だかドキドキしすぎて気持ち悪くなってきた。


 外に出て<タケミカヅチ>の姿を確認したフィオナさんの動きが止まった。


「あれ……? どうして増加装甲が外れているの?」


 ですよねー! そこに気が付かないわけないですよねー。全身を覆う増加装甲が装着されていたのに、それがなくなっていたら不審に思いますよねー。

 何だか嫌な汗が全身から出てきた……。


 焦り顔になったフィオナさんはコックピットに入って操縦席に座る。けれど<タケミカヅチ>は動く気配を見せない。

 コックピット内で色々と試したが機体が動かない事が分かると彼女は青い顔をして降りてきた。

 そして僕は本日二度目の土下座をした。


「重ね重ね申し訳ありませんでした! フィオナさんが寝ている間に動かそうとしたらパイロット登録が完了してしまって……」


「え……登録……できたんですか? ――そっか……それなら……しょうが無いですね」


「へ……?」


 思わず顔を上げるとフィオナさんは諦めのような、それでいてどこか嬉しそうな複雑な表情をしていた。


「分かりました。……カナタさん、<タケミカヅチ>はあなたに託します」


「いいんですか!?」


「はい。でも、その代わりにお願いがあるんです。――私を『ヨモツヒラサカ』に連れて行って欲しいんです」


「『ヨモツヒラサカ』? 爺ちゃん知ってる?」


 聞き覚えのない場所だったので爺ちゃんに話を振ると渋い表情をしていた。<ランドキャリア>に戻ってマップを確認するとそこはとんでもない場所だった。


「大罪戦役の後、この惑星『ネェルアース』の土地は『ノア11領』と『ノア3領』に二分された。フィオナちゃんの言った『ヨモツヒラサカ』はここから遙か北の二つの領の境目にある。この辺りは火山区域になっていて付近には海があるだけで他にめぼしいものは何もないはずじゃが、ここに何かあるのかね?」


 爺ちゃんが訊ねるとフィオナさんは真剣な眼差しで地図に表示される『ヨモツヒラサカ』のポイントを見ていた。


「はい。私にとってとても大事な……私が果たさなければならない事がそこにあるんです」


「そうか。――それでどうする、カナタ?」


 決定権を委ねられ驚いて二人の顔を交互に見る。


「彼女に依頼されたのはお前なんじゃからお前に決める権利がある。そうじゃろ?」


 フィオナさんは不安そうな顔でこっちを見ているし爺ちゃんは目で「お前が決めろ」と言っている。

 今日は色んな事が次から次へと起こって頭がパンクしそうだ。いい加減ゆっくり休みたい。でも、こんな状況で女性一人を放り出すなんてことはできない。

 それに<タケミカヅチ>を託された以上、僕にはやらなければならない義務がある。そして何よりも今まで漠然としていた生き方に初めて意味が見出せたような気がした。

 だから――。


「――分かりました。フィオナさん、あなたを『ヨモツヒラサカ』までお連れします」


 フィオナさんの顔が花が咲いたように明るくなる。それが眩しくて直視できなかった。


「ありがとうございます。よろしくお願いします。カナタさん、ノーマンさん」


 これで当面の目標が出来た。フィオナさんを『ヨモツヒラサカ』へ連れて行く。かなり距離があるけれど地続きなので<ランドキャリア>で到達できる。

 でもその前に話しておかなければならないことがある。

 

「あの、フィオナさん。まず最初に言っておかなければならないことがありまして……今は新星歴300年でして……あなたがコールドスリープしてから百年ぐらいが経過していると思います」


「え……?」


 ――こうして僕たち三人の旅が始まった。フィオナさんとしては時期が百年経っていても問題はないらしく目的地は変わらない。

 そして懸念は他にもある。それは僕と爺ちゃんが管理局からお尋ね者にされてしまった事だった。

 それに関しては今の世界情勢と合わせて彼女に説明して大丈夫との返答を得られた。

 本当にこんな調子で無事に『ヨモツヒラサカ』に辿り着けるのか分からない。けれど少なくとも僕の中では今まで感じたことの無かった高揚感が芽生えていた。

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