第2話 サルベージャーの少年
◇
『ようやく到着したのう。カナタ、<ランドキャリア>のコンテナ部分を開放するぞ。<ソルド>の起動準備は出来ておるか?』
コックピットのモニターに爺ちゃんこと【ノーマン・グラス】が映っている。
仕事中、僕が
「こっちは既に起動完了してるよ。いつでもどうぞ」
<ランドキャリア>の後部はAF二機を搭載できるコンテナになっていて、普段はその中の簡易ハンガーに機体を仰向けにして固定している。
機体を出すためにコンテナが直立するように稼働し動きが止まるとコンテナのハッチが開いた。
僕が登場しているAF<ソルド>のコックピットモニターにコンテナの外の風景が映る。天気予報の通りに今日は快晴だ。
今回の仕事は百年前の戦争――『大罪戦役』の際に行方不明となった兵器を海中から引き上げ回収すること。
海が荒れていたら仕事に響くため天気が良いに越したことはない。
「ハンガー
コックピット側からハンガーの固定ボルトを解除し<ソルド>を歩かせる。仕事の都合上、現在機体は海中用装備に身を包んでいるため地上では動きが鈍い。
コンテナから外に出て『目的の物』が沈んでいる最寄りの海岸まで進んだ。予想通りに波は穏やかだ。これなら思っていたよりも簡単に引き上げられるかもしれない。
『この辺りじゃな。そこから真っ直ぐ前方に一キロメートル、水深三百メートルの位置に百年前の輸送機が沈んでいるらしい』
「そこまで分かっているならサルベージャー管理局はどうしてうちみたいな末端のサルベージャーに依頼したんだろ? 海中専門のサルベージャーがいくらでもいるはずなのに……」
『それは分からん。だが、どうも嫌な予感がする。こういう繊細さが必要な仕事の裏には強奪を
「いやいや、『するからのう』って実際そうなったら、うちみたいな弱小サルベージャーは無抵抗で盗られて終わりじゃないか。そしたら今回の水中用モジュールに掛かった資金の返済はどうすればいいのさ?」
『そうなったら……しばらくは水で飢えをしのぐしかないのう。この歳で随分と世知辛い話じゃ』
爺ちゃんが遠い目をしている。こういう時の爺ちゃんは何を考えているのかよく分からない。一見おどけているように見えて実際は最悪の状況にならないように予め手を回していてくれたりする。
そのお陰で何度危険な状況を回避する事が出来たか……考えていたら仕事が手に付かなくなりそうなので頭を左右に振って気を取り直す。
今は仕事に集中しないと。ただでさえ海中の仕事は神経を使うんだ。
「それじゃとっとと仕事終わらせてここを離れた方が良さそうだね。――海中引き上げセットの準備よし。爺ちゃん行ってくるよ」
『うむ、気をつけてな』
海に沈んでいる物を海面に引き上げる水中用リフターを持って海へとダイブした。モニターには海中の映像がクリアに映し出され、その美しさに感嘆の声が漏れてしまう。
色とりどりの魚の群れが近くを通り過ぎていく。海面から注ぐ日光が鱗に反射してキラキラ光っていた。
仕事帰りに魚を捕っていけばしばらくうちの食糧問題は改善されるかもしれない。
ただ残念なのは僕も爺ちゃんも料理が下手だという事だ。多分美味しく調理できないだろう。
目標が沈んでいるポイントに向けて機体を進ませる。海岸から約一キロ離れたので、情報通りならこのまま沈んでいけば到着するはずだ。
ゆっくりと機体が沈んでいく中、少しずつ暗くなっていく周囲を見ながらこれまでの事を思い出していた。
僕の名前は【カナタ・クラウディス】、十七歳男性。日本人の血が流れているらしく黒い短髪、『ノア11』に所属するサルベージャーだ。
爺ちゃんと出会ったのは僕が保育装置から出たばかりの十三歳の頃だった。
首都である『クレイドル』が定めた遺伝子適正のある職業がAFのパイロットだった為、就職先は軍人かサルベージャーであったのだが、僕はサルベージャーに回された。
そんな時に僕を引き取ってくれたのが爺ちゃんだ。
爺ちゃんは元々、軍でAFの整備士をやっていたそうなのだが色々とあったらしく軍を辞めた。
その直後に僕と会ってそれから四年間一緒にいる。
今は新星歴300年なので『ノア11』がこの星に入植してちょうど三百年になる。
百年前に入植を希望してきた『ノア3』との間で戦争が勃発し、『ネェルアース』に築かれていた都市群は壊滅的な被害を受けた。
『ノア3』は地球から人類を追ってきた<クロノス>によって中枢システムが侵食されていて、最初から『ネェルアース』に入植していた『ノア11』を滅ぼすためにこの惑星にやってきた。
『ノア11』と『ノア3』による戦争は惑星環境に甚大な被害を与え今では『大罪戦役』と呼ばれている。
『ノア11』は入植後、移民前の戦争関連の技術を封印していたが『ノア3』に対抗するためにその封印を解き様々な軍事技術を復活させた。
戦争は痛み分けに終わり惑星を二分する形で冷戦状態へと突入した。それから百年が経過し散発的な戦闘はあるものの戦争と呼べる大規模な戦いは起きていない。
僕たちサルベージャーは管理局の指導のもと大罪戦役で行方知れずとなった兵器などを回収し生計を立てている。
また、回収した物のレベルに応じて貢献ポイントというものがあり、それが一定値に達すると『クレイドル』への移住権が発生するらしい。
実際のところ『クレイドル』に移住したサルベージャーに会った事が無いので真偽は定かじゃない。
『クレイドル』は元々は移民戦艦<ノア11>の中枢居住ブロックだった部分にあたる。
最初は地表に設置されていたが、大罪戦役で奇襲を受けたのを教訓に現在は地中深くに埋められている。
だから『ノア11』の首都と言っても恐らくこれから先も行く機会はないので自分とは関係のないものと思っている。
きっとこの先も僕はサルベージャーとして働き続け、この命を終えたら保育装置で別の僕が再生されて『クレイドル』の中枢システムが定めた運命に沿って生きていくのだろう。
予め敷かれたレールに従って生を全うする。――それって本当に『生きている』と言えるのだろうか? 最近はそんな事を考えるようになった。
「いけないな、また余計な事を考えてる。今は仕事に集中しないと……」
その時レーダーに反応があった。丁度この機体の真下に大きな金属反応がある。
僕が搭乗している<ソルド>は『ノア11』における一般的な量産型AFだ。性能はそこそこだが、豊富なオプションモジュールによって様々な任務に適応できる。
現在装備している水中用モジュールによってメインカメラの保護と水圧防御、推進装置が強化されていて水深三百メートルでも問題なく機体が動く。
「あれが金属反応の正体か……」
ライトで照らすと全長五十メートルはある輸送機だった。左翼は折れて後部のメインスラスターも破壊されている。
どうやら攻撃を受けて海中に落下、そのまま沈んでしまったのだろう。
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