新星機動のアサルトフレーム―タケミカヅチ・クロニクル―
河原 机宏
第1章 白いアサルトフレーム
第1話 プロローグ
――西暦3623年、地球より遙か離れた宇宙でそれは起こっていた。
「ノーチラス艦長、<クロノス>の大部隊は本船団の後方から接近中です。このままですと約二十分後に会敵します!」
「地球からこんなに離れた所まで我々人類を追ってくるとはな、しつこい連中だ。奴等から逃れる為に地球を脱出して六百年……約百年ぶりの遭遇戦か。――全艦に通達! これより本艦<ノア11>は後方より迫る<クロノス>に対し艦隊戦を仕掛ける。全艦百八十度回頭、
全長百キロメートル以上にも及ぶ超巨大移民戦艦<ノア11>と随伴する数十の戦艦が後ろ側に転進し装備している各砲門を開放する。
彼等の後方から迫っていたのは、全身が銀色で統一された不気味な艦隊であった。
<クロノス>――それは人類が造り上げた超AIであり、その補助によって地球圏の生活は栄華を極めた。
しかし自我を持った<クロノス>は人類抹殺に動き出し、宣戦布告からの七日間で地球圏の人口の約半数が犠牲となった。
その主な手段として使用されたのはAFと呼ばれる機動兵器であり、その中でも十六メートル級の人型AFが大量に実戦投入された。
その驚異に対し人類側もAFを開発しこれに対抗。その間、地球圏脱出の為に全長百キロメートルを超える移民戦艦ノアシリーズを二十隻建造し、生き残った人類を乗せて移民可能な惑星を目指して地球圏を脱出した。
――西暦3023年の出来事である。
それから六百年が経過し、ノアシリーズの十一番目の艦である<ノア11>は、約百年ぶりに<クロノス>の追撃艦隊と遭遇し戦闘に入っていた。
<ノア11>のブリッジでは正面モニターに戦闘の分布図が表示され自軍は青色、敵が赤色でモニタリングされている。
無数の赤色の反応が次々に射程範囲に入りロックオンされていく中、艦長の【トニー・ノーチラス】は攻撃のタイミングを見計らっていた。
クルー達がモニターに映る敵の大軍を
「敵の半数以上が射程に入ったな。全艦全砲門開放! ――ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
気迫が込められた攻撃命令を皮切りに<ノア11>側の全艦が一斉射を開始する。
漆黒の宇宙を無数のビーム砲の光が満たし次々に銀色の艦隊に着弾し爆発させていった。
数分間続いた艦砲射撃がトニーの命令で一旦終了する。ブリッジのオペレーターが状況を確認すると正面モニターに次々と赤い反応が表示され始めた。
「敵影確認! 先程の本艦隊の攻撃によって約三割が消失しましたが多くは生き残っています! ――敵艦隊より多数のAFの出撃を確認。<ポーン>、<ナイト>、<ビショップ>が合計で二百機以上、<ルーク>は十三機います。……<クイーン>、三機確認!」
オペレーターから戦況が知らされトニーは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「ぎりぎり引きつけて放ったというのに落とせたのはたった三割だと……化け物め! こちらもAFを全機発進させろ。<クイーン>は一機だけでAF数十機分の戦力がある上にナノマシンによる侵食機能がある。優先して落とすように全機に通達! 何としても本艦に取り付かせるな! <ノア11>の中枢システムが乗っ取られれば、我々は奴等の
「りょ、了解しました!」
<ノア11>を始めとする全戦艦から人型機動兵器AFが次々と出撃し<クロノス>のAF部隊と戦闘を開始する。
圧倒的な機動力を誇るAFの前では戦艦の攻撃は回避されてしまう為、初手の砲撃以降は戦いはAF同士による白兵戦が主であった。
超AI<クロノス>によって生み出された無人のAFと生き残りを賭けた人類が搭乗するAFの戦いは熾烈を極め、戦闘は長期戦となった。
戦いの中で包囲網を突破した銀色の無人AF部隊が戦艦を攻撃し何隻も沈めていく。
そこにこれ以上の侵攻をさせまいと<ノア11>側のAFが押し寄せ敵を撃墜していく。
このような光景が何度も繰り返され、その情報がトニーに報告されていった。
「護衛艦<コンゴウ>級二隻、<ナガト>級一隻、<タカオ>級四隻撃沈! 機動戦艦<アマギ>は左舷中破、戦線を維持しています」
「護衛艦隊の旗艦である<アマギ>を失う訳にはいかん! 下がらせろ! 生き残った<ナガト>級で穴埋めをした後に反撃に打って出る。戦況はこちらが優勢だ、何としても敵を全滅させるぞ!!」
戦闘は三日間に及び、<ノア11>側が辛くも勝利を手にした。宇宙にはAFや戦艦の残骸、そして戦いで犠牲になった者たちの骸が浮遊していた。
<クロノス>艦隊の全滅報告を受けたトニーは艦長席に身体を沈め味方の被害状況をオペレーターに問う。その結果は凄惨なものであった。
「こちらの被害状況はどうか?」
「……戦艦は三十六パーセント、AFは四十八パーセントが撃墜されています。それに伴い軍人を中心に被害者が大勢出ています。民間人の被害は僅かです」
「……そうか。保育装置の設定を変更する。通常ならば二年かけて第二次性徴期まで成長させるところだが、特別処置としてAFパイロットのクローンを優先して一年で十代後半まで成長させる」
この指示に異を唱えたのは副長の【マリク・オーシャン】であった。
「ですが艦長、そんな事をすれば負荷が掛かって人格に問題が生じる可能性があります。せめて成長期間を二年にしなければ……」
「それは重々承知しているよ、マリク。しかし、たった一度の戦闘でここまで被害が出てしまった。AFがあっても乗りこなせるパイロットがいないのでは意味が無い。またすぐに<クロノス>に補足されれば、被害はこの比ではないだろう。そうなれば――」
トニーはそこまで言いかけて口を閉じる。その先の内容は全艦の責任者として言うべきではないと判断したからであった。
そんな艦長の一番の理解者であるマリクもまた、それが現状を打破できる手段だと考え指示に従うのであった。
戦闘態勢が解除され自室に戻ったトニーは椅子に座るとデスクに設置されている日記機能を起動させた。
すると日記を管理するAIが話しかけてくる。
『こんにちは、トニー艦長。前回の記録の続きからでよいでしょうか?』
「ああ、それで頼む。内容は――」
『西暦3623年、我々<ノア11>移民船団は地球出発後、三度目の<クロノス>艦隊と会敵しこれを撃破した。しかし、被害は全戦力の半分近くにまで達し状況は極めて厳しいと言わざるを得ない。そのため、私はこの記録を残そうと思う。我々は――』
それから長い年月が経過し<ノア11>船団は、とある惑星付近に留まっていた。
『私はトニー・ノーチラス、<ノア11>の艦長を務めている。現在は西暦3811年、先の<クロノス>との戦いの後に連中と再接触することはなく、船団は被害を回復することができた。奇跡的だったのはそれだけではない。我々は長い航海の末にようやく新天地を発見することが出来た。新たな太陽系を発見し、さらに地球と似た青い惑星までもが存在したのだ。探査機を降下させたところ大気成分は地球とほぼ同じ。すぐにでも移住可能であることが判明した。また、我々のような知的文明を持つ生物は発見されなかった。そこで我々はこの惑星を『ネェルアース』と名付け入植することを決定した。これより<ノア11>は巨大な艦を複数のブロックに分離した後に『ネェルアース』に降下を開始する。――願わくば、この希望が失われんことを』
そして、<ノア11>移民船団はネェルアースと命名した惑星に降下し入植を果たした。
これを機に年号を『新星歴』と命名し新たな文明を築いていく事になる。
――そして、新星歴300年。人類は闘争の呪縛から逃れる事が出来ずにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます