第二百五十四話:千変万化・Ⅱ
「
「それがコード名だったって話だ。当時の技術を全て使った最高傑作でヘノッグスの迷宮の攻略に投入され、そしてその後の行方は不明。破壊されたのか、なんらかの要因で停止したのか……」
「それが二度目の失敗」
「そう、技術者は「まだ破壊が確認されていない。破壊されていれば信号が来るはずだから」と訴えたが、あらかじめ予定されていた時刻までに
作戦が失敗した。
そして、そのあとに起こるのは責任の追及だ。
「要請に従い用意された
「えっ、それって一回目の時はどうだったの? 魔導工学に基づく魔導兵器が投入されたんだよね」
「その点に関してはうやむやだな。アーガイル将軍は責任を取る形となったらしいけど」
「それって変じゃない?」
「だな、要するにヘノッグスの迷宮攻略の失敗をすべて押しつけることを目的に二度目の作戦はおこなわれたのだろうさ。気に食わんがちょうどいい生け贄に選ばれてしまったということだ」
恐らく当時、すでに国としての今後の方針として魔導工学を中心にすることは裏で決定していたのだろうとディアルドは推測する。
そして、その前提で話は進んでいた。
そうなると工場の建設やらなにやら準備も進んでいた可能性が高い。
「そうなると魔導工学の粋を集めておこなった大規模な軍事行動が失敗した、というのはあってはならないことなのだ」
〈投資が無駄になってしまうことを恐れたということでしょうか?〉
「さてな、詳しいことまではわからん。だが、責任を押しつける相手が必要だった」
「それに選ばれたのがギースの?」
「そういうことなのだろう。全部の責任を押しつけたあとは二度目の作戦に関することを隠蔽、そういうことにした以上は生体魔導工学も不干渉という立場になった。そう考えれば今の扱いにも合点がいく。つまるところ、政治的なパワーゲームによって生体魔導工学は廃れていっているわけだ」
醜聞を押しつける形にしたのだ、言ってみれば国にも軍にも睨まれているような技術体系のようなもの、当然そんなものを学んだとしても認められる可能性は低く、多くの技術者はその道を捨てることになっただろう。
(道理で話を聞かないわけだな……)
「まあ、話はわかった。生体魔導工学が廃れる切っ掛けとなった二度目の軍によるヘノッグスの迷宮の攻略作戦の失敗について。そして、その時に投入された
ディアルドの言葉にギースは答えた。
「私が欲しいのはその
「もう壊されたんじゃないの?」
「かもしれない。だけど、その一部でもいいから手に入れることができれば私の研究も進むはずなんだ」
「研究……つまりは生体魔導工学のか」
「ああ、そうだ。私の目的はなんだって聞いたな? なら、はっきり言っておくけど私の目的は生体魔導工学の再興だ。廃れようとしているこの技術を新たに日の目に出して証明すること」
「曾祖父たちの復讐?」
「そんなんじゃないさ、ただ偉いやつらの事情で排斥されて消えていくなんて……なんというか納得がいかないだろ? きっとまだ先があるはずなんだ。それなのになくしてしまうなんて惜しいなって」
ギースの言葉にディアルドは笑った。
「ふーはっはっは! いいな、俺様としては好きな考え方だ。要するに度肝を抜くような発明をして見返してやろうというやつだな! 気に入った!」
「お、おう……?」
「ふむ、つまりは
「ああ、そっか。軍から睨まれているんだってね」
「それなら問題ない。私は組合に入っているからコルテオに出品できるからな」
その言葉にディアルドは思い出した。
こちらに来てから知ったのだが、どうにもイザベリオスでは自作した魔導具を出品する品評会のようなものが存在するらしい。
その品評会の名前がコルテオ。
年に一度の開催でしかもちょうどすぐだったのでそれを知ったときはディアルドも喜んだものだ。
ギースはどうやらそこで自身の作品を見せるつもりらしい。
「なるほど、そこで見せつけてやろうというわけか。ふむ……面白そうだな、よし協力しよう!」
「いや、こうして地下にまで連れてきてくれているだけで十分助かっているというか。どちらかといえばこっちがどう報酬を支払うべきか悩んでたぐらいで」
「ふっ、そんなことを考えていたのか? まあ、そこら辺は貸しでいい。あとできちんと返して貰うが……それはともかく。目的に関しては理解した。とりあえず、その
「そういうことになるな」
「でも、もう壊れているんじゃないかな。いくらなんでも古すぎると思うんだけど」
「さて、それはどうだろうな。
「オリジナルと言えばオリジナルだが、家に残っていた資料から作り上げたものだ」
「となると曾祖父の時代ならもっと技術水準も高かっただろう。その当時の技術の粋を集めたものならまだ原形を保っていてもおかしくはない」
「ああ、それは私も同意見だ。さすがにまだ動くとは思っていないけどある程度原形をとどめていれば吸い出せるものもあるからな」
「やってみる価値はある。なんならまだ動いているという可能性も」
「いや、それはないな」
「むっ、なぜそう言い切れる?」
「すべてを知っているわけじゃないが
「なるほど言いたいことは分かった。どういったものかは不明だがこうして遺跡の奥に行って、そのまま帰ってこなかった以上、生体部分が耐え切れないはず……ということだな」
「ああ、生体パーツ……というと言い方は悪いかもしれないがそれがなければ活動できない。だから、機能を停止したのではないかと推察している」
「ふむ、なるほどな。
死ぬときは死んでしまう。
そして、使用者がいなくなれば論理的に考えて
「…………」
「マスター、なにか気になることでも?」
「……いや、ともかく進むとしよう」
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