第二百四十話:悪巧み・Ⅱ
「んで、今度はなにを企んでいるんだ兄貴」
「ふーはっはっはァ! 唐突だな、急にどうした」
食事を終え、一段落した後でルベリは改めてディアルドに尋ねた。
「いや、ここのところイリージャルに籠りっぱなしじゃないか。どうせなんか企んでいるんだろうなって」
「そんなまるで俺様がいつもなにかを企んでいるような扱い……なあ、ファーヴニルゥ」
「そうだよ、マスターが企んでたからってなんだっていうんだ」
「おやー? 俺様的にはそういう擁護が欲しかったわけじゃないのだが……」
「そういうのはもういいから」
「大型陸戦魔導重騎兵シグマのことでいろいろ、こう……なんかやってたとかあるだろうが!」
「ふわっとしか言えない時点で嘘じゃねーか! というかそれだけならそれこそヤハトゥに任せればいいだけだろ!」
「ぐぬぬ、生意気な。――ふっ、成長したなルベリ」
「成長っていうか慣れかな……。放っておくとなんかやらかすって」
「失敬だな何を根拠に――「叡智の
「まったく……それで? 何をやるつもりなんだ?」
視線を逸らしながらそう主張するディアルドに対しルベリはため息をつきながら尋ねた。
「その話に戻るのか……まあ、あれだ。アズガルド連邦国にはいろいろとやられただろう?」
「うん」
「このまま領地を発展させるとなるとどうしたって向こうの支配圏に近くなる。となる問題が発生する可能性が今後は増えるわけだ」
「たしかに」
「だが、アズガルド連邦国のことは天才である俺様もそれほど詳しくはない。外国でそれも敵国だからな。これはいけない」
「なるほど」
「よし、じゃあ敵情視察して情報を集めよう。――つまりは不法入国だ」
「待て」
ルベリはたまらず突っ込んだ。
ディアルドの懸念点はわかったが、その結論が斜め上だった。
「それはどうなんだ色々と」
「しかしだな、現実的に情報を手に入れるなら直接手に入れるのが一番だ」
「そうかもしれないけどさ」
「安心しろ、行くの天才である俺様と最強であるファーヴニルゥ。これはもう完璧に任務を果たすとしか思えない」
「海外旅行だね、マスター」
「うむ、王都に行ったときは忙しかったからな。観光というわけにもいかなかったし」
「旅行気分じゃないか」
「いや、待て。たしかに観光とかもしようとは思っているが」
「思っているんだ」
「それだけでは決してない。内情を探るにはいい機会なのだ」
「……いい機会ってのは?」
「それは勿論、シグマのことだ。俺様が何故、ああもあからさまに巨大な魔導騎兵を嗾けているのか」
「趣味じゃないの?」
ルベリの言葉にディアルドはそれは六割ぐらいでしかないと返した。
「半分以上じゃないか……それで残りの部分は?」
「陽動だな」
「陽動……」
「ああもあからさまなやつが大事な鉱山の近くに頻繁に現れるようになれば当然、注目というのはそこの集中する――それはわかるな?」
「まあ、それは……」
「そして、そこに注目が集まればその分他所の警戒が薄まるのは道理だ。つまり、国境の警戒に乱れが生まれるというわけだ」
「国境の?」
ルベリはあまり意識したことはないだろうがアズガルド連邦国というのは大国だ。
少なくとも王国と長年戦い続けてきただけあり、その国力というのはかなり高い。
特に軍の完成度に関しては明確に連邦国の方が王国よりも上だとディアルドは考えていた。
王国でも軍は存在するが、王国の場合は貴族間の家の関係の取り扱いなどが難しく立場の力関係が色濃く反映されてしまうため、とても合理的とは言えない。
その点、貴族制を廃止し実力に応じて才あるものを引き立てる国家体制を基本とする連邦軍は王国軍に比べるととても合理的でシステマティックだ。
軍という組織の質が高いというべきか。
「だからこそ、国境警備もかなり厳重だ。まあ、無理に通ろうとすればできなくもないが下手をすればバレる可能性がある」
「だけど陽動があればうまく入り込める、と? んー、でも普通にびゅーって飛行魔法で侵入しちゃえばいいんじゃないのか?」
「飛行魔法は正直、隠密作戦には向いていない。あると想定すればその痕跡を見つける方法はそう難しくはないのだ」
「そっか、兄貴たちしょっちゅう飛んでるから……」
「というかイリージャルを奪い合った時に使って見せているからな。さすがに対抗手段ぐらいは用意して国境沿いには配置しているはずだ。やろうと思えばここからアズガルド連邦国の首都であるクラレントまで直行しようと思えばできなくもないからな」
さすがに山越えしてそのままとなるとディアルドは厳しいかもしれないが、ファーヴニルゥならば余裕だ。
こちらが飛行魔法を持っているということを知りながら、それでも対処をしていないほどアズガルド連邦国の軍は甘くはない。
(アズガルド連邦国の魔導工学があれば飛行魔法の反応をとらえるレーダーのようなものをつくるのはそれほど難しくはない。というかそれぐらいはするだろう)
その程度、読める。
だからこそ、それを利用して下から行く。
「地上からってこと?」
「そういうこと。「もし、侵犯をしてくるなら飛行魔法を使うだろう」という考えを逆手に取るわけだ」
「なるほど……悪辣だなぁ」
「ふーはっはっはァ! 賢いといえ!」
「ふーん……その話だと鉱山への嫌がらせを始めた段階でやってもよかったと思うんだけど待ったのは警戒を緩めさせるためか?」
「おー、正解。ルベリもマスターの考えをわかるようになってきたね」
「それって褒めてるのか?」
「うん? 最上級の誉め言葉ではないか??」
ルベリの言った通り、すぐに行動を起こさなかったのには訳があった。
一つは彼女の言った通り、警戒を緩めさせるためだ。
鉱山への嫌がらせとしてシグマを送った当初、当然向こうとしても警戒体制に入ったはずだ。
これをきっかけにベルリが何かをしてくるのではないか、と緊張を高めたはずだ。
だというのに一日、二日、一週間たっても巨兵は鉱山の周囲を歩き回って帰っていくだけ。
それ以外のリアクションは全くといっていいほどない。
「明らかにおかしな事態は起きているけど被害らしい被害は出ない。どうしたって気が緩む」
「感覚が麻痺するに十分すぎる。やつらが欲した古代兵器であるイリージャルを保有するベルリ、連邦国としては最大限注意を払っているつもりなのだろうがな。今ならまあ……うまくいくだろうさ」
「うわぁ、計画的犯行」
ディアルドのあくどい顔にルベリはちょっと引いた顔をした。
「私はてっきりあれで満足しているのかと」
「あの程度で満足できるほど俺様は寛容ではないのだ。やられたら十倍返し、舐められたと感じたら報復。それがドルアーガ王国の貴族の生きざまというものよ。それにちょうどこれも完成したところだしな」
「これって?」
そう言って彼はガサゴソと取り出したのは――
〈起動します。――おはようございます、司令官〉
「なんかちっちゃいヤハトゥ!?」
〈――遠隔端末外装ヤハトゥ/マークⅡとお呼びください〉
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