第六章
―アズガルド連邦国編―
第二百三十五話:巨兵・Ⅰ
ブレジオフ山脈、それは大陸でも有数の山岳地帯であり鉱山地帯としても知られている。
良質な鉱石、そして魔導具を作る際には必須な魔鉱石が採掘でき、長年その一帯を取り合うために国々は争った歴史を持つ。
位置は王国領の北東に位置し、ブレジオフ山脈を挟んだ向こう側にアズガルド連邦国は存在している。
当然、両国間ではブレジオフ山脈の奪い合いが発生し、長きにわたり幾度も争いが勃発した。
近年においてはブレジオフ山脈の一部をそれぞれが支配下に置き、互いに所有権を主張しつつも冷戦状態になっているというのが現状だった。
それぞれが支配下に置いているブレジオフ山脈の一部にハインリッヒ鉱山という場所が存在した。
そこはアズガルド連邦国の管理下におかれた場所で日夜、採掘作業などで賑わっていた。
「来たぞー!!」「くそっ、またか!」「冒険者たちを呼べー!」「衛兵もだ!」
坑道で採掘するための鉱夫、良質な魔鉱石を求めて寄ってくるモンスターたちを撃退するための冒険者たち、そしてそんな彼ら相手に商売をするための商人たち。
多くの人が行き交い賑わうのがハインリッヒ鉱山の周辺の常であったが――ここ数ヶ月、とある事態に悩まされていた。
「
ハインリッヒ鉱山の南には森が広がっているのだが、その方角から朝靄に紛れるように一つの巨大な影が現れた。
それはまるで人のように二足で歩いていたが明らかに大きさが人間のそれではなかった。
木々をなぎ倒しながら重い足音を響かせ、大地を震わせながら進む姿は
「今日こそはぶっ倒してやる! 毎日毎日来やがって! 魔導士隊準備はいいか!? 迫撃魔砲の装填は?!」
「万全だ! いつでもいける!」
「ならば、よし! 撃てー!!」
「「「「≪
「砲撃開始!!」
男の声とともに一斉に放たれる炎の矢と砲撃。
それらは確かに
「ええい、全然効いておらんではないか!」
「ああっ、やっぱり……」
「くそっ、魔導士の冒険者をかき集めたというのに。それに迫撃魔砲も……っ!」
「ああ、傷一つ付いてないな。軍からの支給品なのに」
「なんなんだあのモンスターは!?」
「というかモンスターなのかアレは? あんなの見たことも聞いたこともないぞ」
「モンスターじゃなければ何だってんだ。魔物か? それとも魔法によるものだとでも言いたいのか?」
「馬鹿なあんな巨大なものを作れるわけがない」
「ならば魔導兵器とか?」
「王国にそんな技術があるわけがないだろう」
攻撃が全く効かなかったというのに彼らはどこか呑気な様子だった。
それもそのはず、この
鉱山街を襲うわけでも人々を狙うわけでもなく。
ただ、やってきては周辺を歩き回って帰っていく行動を繰り返すという謎の存在。
「いったい何がしたいんだろうな」
「わからん。あの攻撃性の低さ、やはり新種の魔物というわけでもないようだな」
「こうして攻撃しても無視して歩き回っているだけだからな。無害といえば無害だが……」
「いや、無害ではないだろ。地響きはうるさいし、揺れるから坑道での作業はやめないといけないし、あいつが来るたびに周囲のモンスターたちが気が立つし」
「まあ、それでも攻撃を仕掛けて来ないだけマシだろう? あれが害意をもってこっちに攻撃を仕掛けてきたらと思うとゾッとする」
「そうだな。初めに来た頃は総出で攻撃したものだ。何とか倒そうってな」
「剣は折れるし、矢は刺さらないし、魔法は効かないわで苦労の末に撃退したと思ったら……次の日には普通にやってくるし」
「何度かやってようやく
「本当に何をしたいんだか」
「ただひたすらに鬱陶しいな。おい、これ一斉攻撃も効かなかったわけだけどどうするんだ?」
「どうするもなにもいつも通り帰ってくれるまで眺めているしかないんじゃないか? それともおまえ、立ち向かってみるか?」
「冗談だろ。あんなのもう冒険者たちでどうにかできる相手じゃないだろ、軍はどうした軍は……」
薄々予想はしていたものの準備を重ねていた攻撃も徒労に終わった彼らはそんな会話をしながら各々で休み始めた。
なにせ相手にはこちらの攻撃が通用せず、しばらくすれば帰っていくのだから下手なことをせずに待っていればいい――というかそうするしかない、といった方が正しい。
「おっ、坑道から鉱夫たちがでてきたぞ。あいつらも慣れたもんだな」
「まあ、ここ最近ずっとだからな。朝に一回、夕方に一回。毎日毎日決まった時間にやって来やがる」
本来であれば望ましいことではないのだが何をしても
もはや、休憩の合図のようになっているらしく広場の方で食事をとり始めている。
昼には帰るのでその前に英気を養っているのだろう。
「まったくあんなのが出てくるなんてな」
「元々、ここから南はあの
「たしか倒されたんだったか?」
「そうらしいな。十代のガキが領主となって治めることになったって話だ。なんでもベルリ家の血を継ぐ女って話だ。子爵の地位を賜ったとか」
「はー、王国も末期だな。王位を巡って兄弟で争って、十代のガキが子爵とは。……ベルリってたしか一度絶えたはずじゃなかったか?」
「遺児だって話だ。どこまで本当かは知らないがな」
「まあ、どうとでも言えるからな」
「ははっ、違いない。王国の貴族なんて気位の高いろくでなしだと決まっているからな。」
「まったくだ、
「確かにな。それにしても
「なんでも古い伝説にでてくる機兵からとった名前らしい。かつて、ここら一帯を支配していた国は仰ぎ見るほどに大きな機兵を操ったという話があってだな。そこから取ったんだと」
「なるほどねぇ、あの大きさなら確かにその名に相応しいか」
「それにしてもなんで軍を動かさないんだろうな。直接的に被害を与えて来ないとはいえ、採掘作業にも影響を与えているのにさ」
「さぁな、上の考えていることはわからんな。ただ軍用の大砲を支給してくるあたり、別に気にしていないわけではないんだろうけど」
「軍を派遣することで王国を刺激するのを嫌がっているんじゃないか? 連邦国の支配下に置かれているとはいえ、王国はそれを認めているわけじゃないからな」
「でも、その王国は王族同士でやり合ってて大変って話じゃねーか。別に軍を派遣したところで何ができるとも思えないけどな」
「まあ、国には国の考えがあるんだろうさ。何が何でも倒せといわれているわけじゃないし、こうやって駄弁ってるだけで金が貰えるならそれにこしたことはないじゃねーか」
「それもそうだな」
男たちがそんな会話をしている間、
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