第二百二十二話:呪具・Ⅱ



天位フロードの魔導士……王国における魔導階級の最高位」


「その通り」


「つまり、王位キャッスルの魔導士であるエリザベスよりも上の魔導士というわけか」


「……いや、まあ、そうなるんだけどさ。それはあくまで階級上の話であってね? いろいろとこっちで作り上げた魔法術式とか、私の新作の魔法術式の功績があれば階級昇格ぐらいはできなくもないはずだと思わなくもないわけで――」


「では、仮にそのデオドラ・ルードヴィヒと戦うことになったら勝てるのか?」




「―――まあ、そこら辺は……私は研究部署。あっちは完全に戦闘部署だから」




 魔導士としての自尊心もあるのだろう、少し目線を逸らしながらそう話すエリザベスを横目にニールは考え込んだ。


(「絶氷のルードヴィヒ」――革命黎明軍でも一番話題になっていた。一番の敵として認識されていたな)


 それも仕方ないだろう革命黎明軍はその性質から執行コールが対応することが多く、直接的な被害も当然多い。


(王国の中で強者と呼ばれる人間は何人かいる。その中でも知名度の高い一人。それが魔導協会ネフレインが誇る四柱、そしてその一角がデオドラ・ルードヴィヒだ。その力は王国の誇る将軍に匹敵――あるいは上回ると聞く)


 ニールは口を開いた。


「それで――こいつらがデオドラ・ルードヴィヒの手先だということは」


「指揮しているのもルードヴィヒということになるね。……厄介なことになったもんだ」


「そんなに厄介か」


「だねー。……相手は魔導協会ネフレインの誇る最高幹部の一人、どう対処するにしたって後処理が面倒になる。敵対するわけだしさ」


「あくまで下だけが動いているって可能性は?」


「ないね。あの人の性格的に絶対に自分も動いている。配下だけに仕事をさせて満足するような人じゃないのさ。つまりはどうしたってベルリはデオドラ・ルードヴィヒと敵対することになる」


「想定されていた事態だとはいえ、些か早かったな。魔導協会ネフレインとの敵対は……」


「まあ、避けられない事態ではあったから予想外ってわけではないんだけど」


〈疑問点を提示します。――なぜ、この時期に動いたのでしょうか〉


「うわっ、びっくりした」


 急に現れたヤハトゥの存在にニールは驚きの声を上げた。

 今やベルリ領地内なら当然のようにホログラム体を発生させる彼女にいい加減エリザベスなどの古参の人間は慣れて驚きもしないが、ニールはその登場に慣れていないのかびくっと身をピンと伸ばして慌てふためいた。



〈失礼しました〉


「ほ、本当に失礼に思っているか? 何度も出てくるならせめて前から出てて来いと言っていたはずだがなぜいつも背後から……」


〈失礼しました〉


「あっ、うん」


〈では、話を続けます〉


「はい」



 ニールの講義は流され、彼女のリアクションを見てどことなく満足そうな表情をしながらヤハトゥは話を続けた。


魔導協会ネフレインが我が主の領地に目をつける理由については必然。魔法教育についても出入りする商人や冒険者から話を聞きだしてしまえばたどり着くことは難しくはないとヤハトゥは分析します〉


「まあ、それはそうだね。そもそも農耕人形ファーム・ゴーレムやらなにやら開明的な魔法の使い方をしていたのは周知の事実だから調査対象自体には前からあがっていたはずさ。そして、魔導協会ネフレインの力があればベルリ領地内における魔法教育用の学び場まで作っていることを調べるのは……簡単ではないにしろ、出来なくはない」


「だからこそのこの侵入者騒ぎ――だろ?」


〈肯定します。――大まかな部分では間違いないかとヤハトゥは分析します。恐らくこの時期に新領主に就任したリビアン家は……〉


魔導協会ネフレインの……というよりもデオドラ・ルードヴィヒが用意した隠れ蓑、といったところかな」


「隠れ蓑……」


「ああ、ベルリ領は王国領の外れにあるからな。お隣であるオーガスタの間にも森林部を挟んで通わないといけない」


「今は交易のために行き来の道をある程度整備して、それから冒険者を雇って商隊護衛させたりモンスターの間引きをさせたりとかで交易路は比較的に安全に管理されているんだけどね」


「とはいえ、後ろ暗いことをさせる連中をそんな正式なルートで行かせるわけにもいかない。……ベルリ領周辺に活動拠点を確保する必要があった」


「それがオーガスタで、そのためリビアンか」


「オーガスタとルベリティアを結ぶ行路以外を使って向かおうとするには、野生のモンスターや森林地帯が邪魔をするが……デオドラ・ルードヴィヒの配下ならばその程度の距離はさほど問題にならない。十分に行って戻ってくるだけの実力があるからな」


 まあ、ヤハトゥの活躍によってあっさりと阻まれて逃げ帰るぐらいしかできなかったようだが。


「デオドラ・ルードヴィヒはオーガスタを拠点にしてベルリ家に何かを仕掛けようとしていた。それが謀略なのか、あるいはもっと直接的な何かだったのか――は不明だが」


「……となると気になるのはだな」


、か」


 ニールの言葉にエリザベスが吐き捨てるように呟いた。


「アレに関して、出所はわかっているのか?」


〈回答します。――商人たちからの話を総合するに今市場に出回っていたのを購入しただけ……ということです〉


「……どこまで本当なんだかね」


〈ヤハトゥの所感としては大半の商人は恐らく関係ないかと、一部は……つながっているのやもしれませんが〉


「つまりはばらまいている奴がいてそれがここに流れてきた――っと?」


〈肯定します。――ヤハトゥは分析の結果、そう結論を出しました〉


 ニールはその言葉に考え込みながら呟く。



「ふむ……それがデオドラ・ルードヴィヒだとしたら」


「いや、どうだろう。個人的にあのデオドラ・ルードヴィヒがするとは思えない……アレらの魔法に関して魔導協会ネフレインは認めていないんだ。開祖たるセレスタイトのお言葉もあるしね。だからこそ、それを利用しようなどと……」


「だが、時期を考えるとどう考えても怪しい。侵入者が現れるようになった時にんだぞ?」


「それはそうなんだけどね」



 彼女たちが話し合っているのは一つの魔導具に関してのことだった。

 美しい蒼い薔薇を象ったペンダントの魔導具。



 ディアルドが一目で見抜き、しばらく領内で魔導具、ならびにマジックアイテムの交易品の売買を停止させた代物。





「――魔導具。本当に下劣な魔法だよ、全く」





 精神干渉系魔法術式。

 そう呼ばれる術式がその魔導具には刻み込まれていたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る