第二百二十一話:呪具・Ⅰ
ベルリ領の南東部の森林地帯にて。
ニールとエリザベスは言葉を交わしていた。
「こいつらは……間違いない、
「わかるのか?」
「これでも幹部の一人なんだぞ? ……まあ、ほとんど仕事らしいことはしなかったけど」
「それはどうなんだ」
「部署の違いだよ。
「だとしても聞いた限りだとエリザベスはかなり――いや、今はいいか」
「なにか言いたそうな顔をしているね? 遠慮せずに言ってみるといい」
などとエリザベスに言われるもニールはそれを受け流し、彼女は冷静に辺りを見渡した。
そこに複数の人が倒れていた。
彼らはベルリ領へと侵入を試みた者たちだ。
「しかし、何故……彼らが」
最近、幾度も行われた領地への侵入、その度にヤハトゥによって追い返されていたわけだが今回に限っては対応が変わることになった。
「まっ、つまりはそういうことなのだろうさ」
そう言いながらエリザベスは辺りを見渡した。
辺りには戦闘が繰り広げられた痕跡と破壊された魔導機兵ファティマが二機ほど転がっていた。
「偽装化した魔導機兵を倒すとはな」
「恐らく前に追い払ったやつから話を聞いて対策をしてきたんだろう」
魔導機兵単体であればそれ用に対策を用意して立ち向かえば、エリザベスやニールほどの腕が無くても倒すこと自体は難しくはない。
ただ、それはあくまで用意が出来ればという話だ。
「ふむ……間違いないね、対物攻撃魔法だな」
「ああ、聞いたことがあるな。それで魔導機兵がこんなに……」
「魔導機兵の強みはあの頑丈さだ。上級の
「まあ、普通はそれで事足りるからな」
「そう。だけど、それじゃあ上級の
揶揄うように問いかけてきたエリザベスにニールは肩を竦めた。
「さっきお前が言った通りだ。対生物、対人間であれば≪
「その通り。物体を破壊することに特化し過ぎた魔法で過剰だし、それに何より貴族的な見栄え……とでも言うべきかな、ともかくそういうものも足りないからあまり好まれる魔法じゃない。そんな魔法の使い手がこうもすぐに用意できるなんて――ああ、やっぱり」
倒れていた者たちの身体を調べていたエリザベスは何かを見つけたのかそんな声を上げた。
「どうしたんだ?」
「これを見てくれ」
「これは?」
彼女に見るように促され、侵入者たちの腕を見たニールは眉をしかめた。
そこには入れ墨のように魔法陣が直接人の肌に刻み込まれていたのだ。
「きみは魔導協会についてどのくらい知っている?」
「急にだな……まあ、私が知っていることといえば大体は革命黎明軍に所属していた時の受け売りだがいいか」
「構わないよ」
「そうだな、王国の魔法技術、知識を管理している巨大な組織で貴族や王家に対して強い影響力を持っていること。
「ああ、それも事実だね。才能があると引き抜いちゃうからね。それで問題になったって話を聞いたことがある。まあ、大体は権威で黙らせるんだけどね」
「それは……問題にならないのか?」
「ならないよ。上位貴族でさえ
エリザベスは実感の籠った言葉でそう呟いた。
「それほどなのか……聞いてはいたが」
「ああ、私も詳しくは知らないけどね。正直、
「他は……そうだな本拠である拠点がかつてダンジョンだったという迷宮を利用しているとかそれと――ああ、そうだ。
ニールは思い出すように目を閉じながら耳をぴくぴくとさせた。
彼女が考え込んでいる証だ、彼女自身はその癖を自覚していないが。
「確か――そうだ。「
「その通り。その部門を率いているのが
「まあ、こうして裏切っているわけだが」
「言葉が悪いな……まあ、加担していることは間違いないし裏切ってるといえば――まあ? まっ、そこら辺はともかくとしてさ。仮にベルリ領に対し
「思いっきり
「それはないよ。基本的に部署同士って仲が悪いし、
「ああ、確か魔導階級の認定のための試験やらなにやらも
「そう。あれは王国の魔導士にとって重要なものだし他にも学院の運営とか
「
「
「
「
それらが
動く可能性があるとすれば――
「――それは
「そうなのか?
「
「……思った?」
「ああ、これで確定だ。自身の配下にこんな魔法陣を刻み込むのはまず間違いなく
「デオドラ・ルードヴィヒ? 聞いたことがあるな……確か」
「ああ、
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