外伝:一方その頃なベルリ子爵の一日・昼
貴族において何が重要か、と問われれば色々と答えはあるだろうが一番重要なものは何かと言われればそれはやはり「魔法」の存在と大半の人間答える。
この王国においてそれぐらい、魔法は特別な存在だ。
だからこそルベリもその鍛錬をおろそかにはしない。
「≪
というわけで今日も農地の区画一つ分の時を彼女は進めた。
「これぐらいかな?」
〈回答します。――これで今日の分の目標は達成です司令官〉
「これ、鍛錬って言うか形を変えたただの農作業だよな? いや、ベルリ領の為になっているから別にいいんだけどさ」
ルベリ式に行われる魔法の鍛錬。
それは非常に単純明快で魔法をたくさん使うことだった。
具体的に言うと農地の時間を進めて成長を促すこと、彼女はそれを毎日のように続けていた。
それ自体に文句があるわけではない。
ルベリの魔法が人の……領民の為になっているのだから。
ただ、鍛錬と呼ぶのはいかがなものかと彼女は常々思っていたりはする。
魔法の鍛錬というのはエリザベスらのように理論を追求するものではないのだろうか、と。
〈回答します。――いいえ、これは立派な鍛錬です司令官。司令官が極めて鋭敏な魔力感性を持っているので下手に座学を優先するよりも使い続けた方が良いのです〉
「そういうもんかね?」
奇跡使いと呼ばれる知識を用いずに魔法の行使が可能なルベリのような人種は、非常に魔力に対する感受性が高いとされている。
そのため、下手に知識を詰め込むよりも何度も実際に使った方がより洗練された形になるらしい。
〈――とはいえ、一般的な魔法に関しての知識があるに越したことはないのは事実。自身に反映するための知識というよりも常識的な王国魔法知識は身につけておくべきでしょう〉
「まっ、それを知っているエリザベスが今は居ないんだけどな」
〈――現状、セレスタイト式の魔法術式に関してヤハトゥとしても解析を進めているところですがやはり今はまだ知識不足としか言いようがないので申し訳ありません〉
「いいさ。それで次は領内視察かー。よーし、頑張って回るぞ!」
ルベリは日々のお勤めの中で領内視察の時間が一番好きだった。
勉学が嫌いというわけではない、むしろかつての身分だったら知ることも出来なかっただろう色々なことを学べてとても楽しいのだが生来的な気質的に身体を動かしている方が好きなのだ。
それに開拓……というか日々発展していくルベリティアの様子を直に歩いてみて回るのは得も言われぬ面白さがあった。
「領主様!」
「領主様だ! 精霊様もご一緒だ」
「ほら、頭を下げるんだ」
「…………」
「はははっ、どうもー」
〈注意を促します。――司令官、もう少し背筋を伸ばして堂々と。我が主からも言われていたはずです〉
「わ、わかっているって! ちょっ、ちょっとはマシになっただろ!」
ただ慣れないことはやはりある。
具体的に言えば今の状況のようなものだ。
ある意味で最初にベルリ領の領民となったハワードたちはまだマシなのだが、新たに移住が許された新しい領民たちは皆、ルベリに対して好意的というか敬意というか――何なら、崇拝されているまであった。
「お、拝まれている……」
「あれが精霊様……実在するんだ」
「俺も初めて見たよ。それを従えるなんて」
大体、理由は隣でふよふよと浮いているホログラム体のヤハトゥが原因だった。
色々と説明が面倒な彼女の存在は領民の大半には超常的な精霊であるとして周知させたのだが……それと合わせて異様に発展しているベルリ領、なんか巨大で時折動く石像のような何か、雄大な自然を思わせる
まあ、なんだ。
「なんか領民の私を見る目がただの領主を見る目じゃなくなっている気がする」
〈回答します。――好意的なことは良いことです〉
「そうかなぁ!?」
〈肯定します。――そもそも、領民の彼らかしても街中に自身の像を建てるかなりアレな御方である、と認識されているのでああいった対応になるのは致し方ないことだとヤハトゥは考えます〉
「あれ、私許可してないんだけどなぁ! 勝手に作られたんだけどなぁ!」
〈――しかし、便利ですよ?〉
「それはそうだけどさー」
実際、あの悪ふざけとしか思えないルベリ像は結構便利な存在だった。
具体的に何がと言えば、あの像は実際は像の形をしただけのファティマなので色々と機能があるのだ。
その一つに音を拾う機能もあったりする。
要するに堂々と街中に存在する盗聴器でもあり、それにより常にルベリティア内の様子を伺い続けることが可能なのだ。
なお、ベルリ像作戦を主導したディアルドだがそこまで考えていなかったらしく、ヤハトゥが盗聴網を敷いたと報告してきたときはドン引きしたとか。
因みにルベリは別に何とも思わなかった、街のことを伺えるなんて便利だなとしか思わなかった。
事実としてこのベルリ像の盗聴網は現状かなりの働きを示していた。
「それで昨日は何人?」
〈報告します。――北部訛りの強い行商人が二人ほど〉
「アスガルドの?」
〈――現状、断定できるほどではありませんが可能性はあります。彼らは一度、イリージャルを手に入れそびれた過去があります〉
「まあ、動向ぐらいは探りたいか……」
〈――いかがされますか?〉
「いつも通りで」
〈――了解しました、司令官〉
このようにルベリ像が記録したデータはヤハトゥによって解析され、領内の不穏分子などのピックアップに役に立っている。
やはり、交易を開始したということで人の往来が増えてきたとなると好ましくない人間も入ってくるようで。
「最近は知名度も広まってきたからな」
〈同意します。――交易のために行き来する商人も増え、その往来を守るために冒険者たちが雇われて訪れたりと〉
「話が広まるのも当然か」
ディアルドが新たな移住民に関してはかなり制限をかけてから移住させているのもその辺りが原因なのだろうとルベリは考えていると、いつの間にやら目的地へとついていた。
「ベルリ子爵様」
「やあ、アリアン。調子はどうだい?」
今日の視察はある区画だった。
まだ名前こそ付けていないが魔法の研究、そして魔導士の育成を行うために施設と研究所を作るための区画だ。
現状ではエリザベスが巣としている場所だが。
「ワーベライト様が居ないのを忘れてきてしまって……」
「ああ、いつもはこのくらいの時間にやってるからな」
「来てしまったものは仕方ないので練習をしようかと。一応、離れるからって予習用の課題は貰っていますし」
「へえ、案外真面目にやってるんだな」
「ワーベライト様はとても真摯に教えてくれますよ?」
「魔法に関することでは特に不安視はしていなんだけど、それ以外のところがあまり信用できないというか……」
「そうですかね? まあ、それはともかくディ……ー様が新しい魔法の指導ができる人材を手に入れるって王都に出る前に行ってたから、なんだか気になっちゃって」
「あー、あれか。そんなこと言ってたな」
細かいところならばともかく、王都へいく理由をルベリは大まかに聞いていた。
「いい人材ならいいんだけどな……」
候補であるその人物の過去が怪しいが、そんなのルベリの濃い事情に比べれば誤差なようなものだ。
優秀な人材であることを彼女は願った。
それさえ、クリアしてくれるなら他は何でもいい。
最近、得に思うのだが――本当に人が欲しい。
ルベリはその後も本格的に動き出した工業区や採掘場などの主要な職場を巡り、最後にベルリ領を訪れた商人たちと対談し凡その商談を成立させ、その日の昼の仕事を終えるのだった。
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