第百四十七話:ある一般冒険者パーティーの来訪・Ⅱ
「おかしいな」
「おかしいわよ」
「おかしいぜ」
「おかしいですよ」
ベルリ領へと向かう道中、男たちは仲間とそう囁き合った。
彼らも若くとも名を上げた冒険者、道中の護衛という仕事についている中であるため普段なら余計な私語などもしないのだが……今回だけは事情が違った。
「上手くベルリ領へと向かうためにピッタリな依頼を受けれたから、そのままの勢いでここまで来てしまったがやはり向かう前に調べるべきであったかな?」
「でも、次に取れるかなんてわからないぜ? 話に聞くことによると人気の依頼らしいし」
「そう、そこだ。そこが気になっていたんだ」
男たちが気にしているの順調にオーガスタから出発できたからこそ、冷静になって考える時になってくる謎についての話だ。
「何が気になったんだよ。商人が行き来してるって噂通りだったてことだろ?」
「ああ、こうして行き来が普通になっている辺り嘘ではなかったのは間違いないようだが……想定外だったのはその多さだ」
「確かに……既に枠が埋まっていた依頼書が多くあったわね」
「それだけ人気ってことだろう。それを上手く取れてよかったなって話だろ?」
「そう単純な話じゃない。俺は最初、噂を聞いてもその商人の行き来ってのはそれこそ数日に一本とかその程度で、徐々にこれから拡大していく予定なんじゃないかなと推測していた。それが来てみれば思った以上の数のキャラバンがベルリ領へと向かっているとか」
「確かに思った以上に活発化しているのは事実みたいね。ベルリ領からオーガスタへと戻るキャラバンともさっきすれ違ったし」
「ただの開拓したての領地には不釣り合いなほど」
「それに見たか? オーガスタへ戻るキャラバンが運んでいた荷車」
「なんか満載に何かを乗せてたわね。布が被せてあったから、それが何なのかまではわからないけど」
「そこが重要なんだ。普通、ただ何かを売ってきただけなら帰りの荷車は軽くなるはずだろ」
「確かに」
「でも、荷車は満載に何かを乗せたままだった。売れ残り、というわけでもないだろう。何というか雰囲気も明るかったからな」
「となると……どういうことだ?」
「つまりは物の売買が行われて何かを仕入れたんじゃないかと思う。ただ物を売っただけでなく、更に商人側も何かを購入し帰路についた」
リーダー格の男の言葉にパーティの仲間たちはなるほどと呟いた。
それならば理屈は通る。
「それが妙に商人たちが行き来している理由なのかもしれない。現にこのキャラバンも空きの荷車を一緒に運んでいる」
「それだけ買い込むつもりってことか。しかし、何を?」
「さあ、そこまでは。開拓したての開拓都市に売るほどのものがあるとも思えない。まあ、有能な冒険者だったらしいからため込んだ討伐のモンスター素材ぐらいはありそうだけど」
「ああ、なるほど。なら、それじゃない? あの
「とはいえ、それにしたって限度はある。そんなの最初の数回の取引で無くなってしまいそうになる気もするが」
うんうんと皆で頭を捻りながらも納得できる答えは彼らには思い浮かばなかった。
「まあ、到着すればわかるんじゃないか」
「それもそうね」
「なにがあるんでしょうか?」
「ちょっと、興味が出て来たけど所詮はこんな辺鄙な領地。大したこともなさそうだからあまり期待するんじゃ――」
そして、男たちはベルリ領――ルベリティアへと辿り着いた。
◆
「おかしいな」
「おかしいわよ」
「おかしいぜ」
「おかしいですよ」
男たちは前には似た感じのことを言っていた気のする言葉を思わず呟いた。
そんなどうでも気にしていられない程に――ベルリ領はおかしかったのだ。
「ねえ、ここって本当に少し前まで荒れ地だった場所よね?」
「まあ、強大なモンスターの縄張りだったわけだから相応に荒れていてもおかしくはなかったず。……というかそれ以前に長年人の手が入って無かったわけで」
「じゃあ、この光景は?」
仲間の一人に聞かれてリーダー格の男は答えに窮した。
そこには異様なルベリティアと言う街の姿があった。
「この道路、凄い整備されてる。オーガスタよりも……というか下手したら王都よりも道が綺麗なような。凄い精密に整備されているというか」
「ああ、それだけじゃない。向こうに見えるのは農園か? それにしては規模が大きすぎるというか……あんなの管理できるのか」
口々に疑問を言いながらキャラバンを無事に届けた男たちのパーティーは、許された範囲での街の中の散策に移っていた。
街に入ったとはいえ、急なモンスターの襲撃などがあるかもしれないので本来であればちゃんと荷物番をするべきなのだろうが、依頼人の方から「大丈夫だ」と言われてしまえばどうしようもない。
依頼人の商人は商売の取引の話へしにどこかへ行ってしまった。
そのためやることもなくなったので、彼らはこうして街を見回ることにしたのだ。
すると次から次に見つかるルベリティアの異様。
思った以上にしっかり作られた家が並んでいたり、領主である子爵の姿の石像が至るかしこにあったり、公衆大浴場――なんて解放された施設もあった。
近くにはやってきた冒険者向けの宿泊施設もあった。
興味本位で顔を出してみるとそこは食事処としても機能しており、男たちはそこで昼食を取ることにした。
さほど期待していたわけではなかったが想定外なほどに量が多かった。
正しく冒険者のための食事――とでもいうべきか。
多少、味付けは雑だがその分、量で勝負としているのか野菜も肉も魚もとにかく多い。
これだけの量をこの安さで食べて良いのかと心配になるぐらいだった。
「味付けは単調というか雑だけどこれだけ食えるなら安すぎる」
「あれだけの農園を持っているからこそなのかな」
「狩りもしているらしいな。肉だって……こんなに」
一体どれだけこの領地は豊かなのかとリーダー格の男は畏敬の念を持った。
彼の故郷と言える村は飢饉で滅んだのだ。
それを考えると食が生き渡った領地というものが如何に幸福かと思わざるを得ない。
「他にも色々とあったな……守護神像だがに礼拝する領民とか――まあ、一番すごいのはあれだよな」
「うん、間違いないわよね」
天と地をながんとばかりに雄大に伸びた巨大な樹木――あれなるは
「……あんなの知ってたか?」
「いや、東部のことは詳しくないから」
「オーガスタとの山のせいで見えなかったけど、あんなものがあるなんて……。流石にあり得ないと思うんだけど……」
「でも、街の住民に聞いても「昔からあった」としか答えないんですよね」
「そう……なのか?」
「堂々と答えてましたし」
「なら……そうなのか? なんか不安になってきたな、さも当然な顔で答えられる自分たちが間違っているような気がする……。けど、あんな大きさの木なんて――というかアレって本当に木なのか?」
「ともかくあれだな。この街がとても変……いや、独創的な街なのは間違いがないようだ。それにしても
「いや、無理じゃない? 明らかに領主様の居城と繋がっているし、呼ばれてもないに近づいて不躾に見るのは不味いでしょ」
「……あれ?
などと話している彼らに一つの声がかけられた。
「近くで見るのは無理ですけど、対話をすることなら可能ですよ。よろしければ案内しましょうか?」
振り向くとそこに居たのは年若い少年だった。
身なりも整っているので恐らくはここの領民だろうとあたりをつけ、リーダー格の男は情報を集めるために話しかけることにした。
「対話……とは、いったい?」
「会えばわかります。――精霊様がお待ちです」
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