第百四十六話:ある一般冒険者パーティーの来訪・Ⅰ



 最近の王国は王都を中心としてどことなく重苦しい雰囲気が蔓延していたように思えた。


 それが一級の冒険者であるA級の冒険者のその男のパーティーが拠点を移した理由だった。


「貴族様の諍いに巻き込まれるのはごめんだ」


 王都を主に拠点にし功績を立てていた新鋭の冒険者パーティーであるというのに……いや、だからこそというべきか。

 まだ若く柵も少なかったからこそ、どうにも最近はキナ臭いと察し拠点を移すという大胆な手段を取ることが出来たのだった。


「確かにな。知ってるか? 「疾風」のパーティ、近頃見ないと思ったらレンブルク卿に雇われたらしい」


「どんな依頼で?」


「そこまではわからないが……」


「……何にしろ、活動の拠点を変えるにはいい機会だと思う。王都は金払いは良いがその分競争相手のレベルも高くて激しいし、新参で登り詰めていくとなるとなかなか厳しいものがある」


「その分、良い経験にはなるんだけどね。……ただ、今の王都は。わかった、従うわ。それで拠点を移すと言ってもどこに行く?」


「モンスターの討伐で食っていくなら、やはり西部か南部にでも行くか?」


 パーティのリーダーである男は自らの考えを口にした、彼が拠点を移そうと口にした場所は王国領の東部の街――


「東の果てというと……オーガスタか? あそこは大したとこじゃ……」


「いや、その向こう」


「向こうって……もしかして」





「ああ、ベルリ子爵領だ」





                    ◆



「ベルリ子爵領、というのは最近良く噂になっている新興の開拓領だったよな? 例の黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴンの件での」


「知っていたか」


「そりゃ、知っているさ。あの黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴンを冒険者が倒したんだ。同業として知らないことの方がおかしい。それで確かその一人はそのまま貴族になって、他の二人もその人についていったとか。冒険者としての活動はそれっきりでちょっと寂しかったのは覚えているぜ。凄いやつらが現れたと思ったんだけど」


「まあ、貴族になれるなら私だってさっさと冒険者なんてやめるね」


「それもそうだけどよぉ」


「大体、そんな認識で会っている。正確に言えば新興の領ではなく、再興された領というのが正しいけど……それは置いておくとして。なんでベルリ子爵領に向かいたいかという理由についてだ」


「そうね、それを聞きたいわ。新興だろうが再興だろうが、大した違いはないと思うけど要するに賜って一から再度開拓を始めたばかりの領地でしょ? そりゃ、確かに人では足りていないんだろうから仕事には困らないと思うけどさ」


「あー、確か黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴンを倒して莫大な財貨を受け取ったとかそういう話じゃなかったか? つまりはそれを狙ってってことか? でも、なあいくら金払いが良くてもそういう仕事はなんというか」


「いや、そういう話でもなくてさ。聞いてくれ、実は今ベルリ領の色々と噂が流れているんだけど――」


 そう言ってリーダー格の男はこっそり集めていた情報を仲間たちに説明した。



「まず、なんだが……どうにも開拓領というのは名ばかりなほどに既にベルリ領はある程度の開拓は進んでいるらしい」


「いや、それはあり得ないだろ。布告があったのが……かれこれ、五ヵ月ほど前のことだろ? それまでは黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴンの縄張りだったはず、それを手に入れて経った五ヵ月で進められるものじゃないぞ」


「……確か子爵様の配下になった仲間の魔導士、相当にやる魔導士だったという話だし、その助けがあればいけるんじゃないか? あと、魔導協会ネフレインの魔導士もなぜか居座っているって話だし」


「ああ、ワーベライト様のことか。確かにあの御方は優れた魔導士だが、仮に同等の魔導士が居たとしても……流石に無理だと思うけど」


 パーティの仲間たちの否定的な言葉にリーダー格の男は頷いた。

 常識的にはその通り、彼もまたただの噂だと考えていたのだが……。



「それがどうにも妙なことになっているらしい」



 ベルリ領は既に国から街としての認定登録を受けた。

 それはつまり国が認めるほどに発展した、という証明だ。


 そして、その認定を後押ししたのはペリドット侯爵家だというのだから驚きだ。


「侯爵家が!?」


「細かい事情までは調べられなかったけどね。国が認定して、なおかつ背後には侯爵家も絡んでるとなると――」


「ただの噂、と断じるのも難しいか」


「そうだろう? それに認定を受けたことによってギルドに依頼を出してオーガスタとベルリ領――ああ、名前があったな。当主の名からとってルベリティアと名付けたらしいんだが……まあ、それはいいとして。そのルベリティアへの行路を守る依頼を出し、商人たちを行き来させて交易とかも始めているという話だ」


「確かに護衛をつければ行くことも出来るだろうが、そもそもあんな僻地にまで商人たちがいくのか?」


「それについてもどうもペリドット侯爵家の後押しがあるという噂があってね」


「またか……」


「侯爵家ともあろうものがそれだけ便宜を図っているベルリ子爵にその領地……気にならないか?」


「確かに少し興味出てみたかも」


「まあ、ちょっと見てからでもいいんじゃないかな? 蓄えは結構あるわけだし」


「……だな、急いで決めることもないだろう。行ってみるか――ルベリティア!!」



 そんな話がなされて数日ほどかけてオーガスタの街へと男たちのパーティはオーガスタへと辿り着いた。

 そして、オーガスタのギルドでベルリ領行きの商会からの依頼を見つけることに成功し、何とか定員に滑り込むことに成功しスムーズにベルリ領へと向かうことが彼らは出来たのだった。



「あぶねー、ぎりぎりだったぜ。素早く見つけて登録できた俺を褒めたたえるべきだろう」


「調子に乗るなっての。それにしても今は領地への通行が制限されているとはね」


「基本、あらかじめに許可された相手じゃない限りは入ることは許されないとか……ね。領地である以上、わからないでもないけど開拓したての領地なんて大層なものでもないでしょうに。貴族ってのは自分を大きく見せることには余念がないわね」


「おいおい、やめておけって」


「意味ないでしょ、通行制限なんて。別に正規の手段じゃなくてもこっそり入ろうと思えばできるでしょ? 私って実際取り締まりなんてできない癖にこうした「やってる感」だけ出すお触れって嫌いだわ」


「変に問題にならないためにも正規の手順に従うに越したことはないだろう」


「でも、別にこっそり忍び込んでルベリティアとやらに入ったらわからないでしょ? いや、領民の数も大したことないって話だし。それならバレちゃうか、あはっ!」


「笑ってないで仕事、仕事。ほら、荷運びを手伝って」


 噂のベルリ領とやらはどんなところなのだろう、ということを話しあいながら彼らは依頼のための準備を行う。

 商人とその荷物を守り、そしてその輸送の補助を行うのが今回の依頼だ。

 それなりに多様な依頼を受けて来た男たちのパーティーは喋りつつもその動きに淀みはなく出発の準備を終わらせ、そして彼らはルベリティアへと向かう道へと歩き出したのだった。



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