第百四十三話:葡萄酒・Ⅱ
ルベリが許可を取った次の日、早速彼は葡萄酒づくりの為に新たに専用の農地を作る――のではなく、未だ未開拓の部分も多いルベリティアよりも東の地帯へと突撃を敢行していた。
「まあ、何にしても言質とった! ふふっ、天才が作るに素晴らしい
「ちょっと待って??」
などいう会話が昨日あったがそれはそれとして。
彼はファーヴニルゥと共に宣言した場所へと向かっていた。
「マスターとデート、だー!」
「だー!」
「葡萄を探すぞー!」
「おー!」
無論、これは単に遊びに出ているのではなく歴とした目的――つまりは葡萄酒作りのための原材料を探すためにディアルドたちはこうして赴いているのだった。
「ふっふっふー、簡単に
「当然だね、マスター。マスターに相応しき一品にする必要がある」
彼の言葉に答えるのは横を歩くファーヴニルゥは当然として、もう一つ――
〈回答します。――このヤハトゥがサポートを行う以上、最上級の結果は必然。最高の結果をお約束しましょう我が主〉
そんな音声がディアルドの頭にとまっている鳥型の魔導ドローンから発せられた。
勿論、相手はイリージャルのヤハトゥである。
「むぅ、余計な邪魔者が」
〈回答します。――ヤハトゥは邪魔者ではありません。この度は当方のお力が必要だと我が主から頼まれたので。それとも我が主の判断を疑いに?〉
「そんなことはない。無いけど……むむっ」
〈表明します。――我が主らが留守の間、ヤハトゥは漫然と時を過ごしていたわけではありません。小型の観測魔導ドローンを派遣しベルリ領の周辺調査も徐々に進めていたのがこの結果に繋がっただけです〉
「ぐぬっ、前の鉱床のこと? 私にもできるってことかな?」
〈回答します。――極めて客観的な事実です。今は台数も少ないのでそれほど広範囲を探索できたわけではありませんが、それでも貴方だけが役に立てるというわけではないことを理解していただければ……〉
「ふん! 僕だってただ安穏とマスターと一緒に旅行してきたわけじゃないさ。まあ、楽しかったのは事実だけどね! マスターと一緒にお店回ったり食事したり、ヤハトゥは知らないだろうけどさ!」
ドヤッとした顔でそう立体映像のヤハトゥに宣言するファーヴニルゥ。
まあ、対するヤハトゥの方は碌に表情を変えていないのだが……。
(……これはこれで仲良さそうだな)
などとディアルドが考えている間にも話は続く。
「それに僕だってペリドット領に行って自身のスペックアップが出来たからね。手加減しているとはいえ殴っても蹴っても切ってもなんか平然としている変なのと戦ったせいでね」
「人の友人を変なの扱いをするんじゃない。事実だけど」
〈疑問を呈します。――ファーヴニルゥのスペックをまともに受けて戦いになったということでしょうか? それは人型をしているだけの別の存在ではありませんか?〉
「人の友人の人間であるという部分を疑うな。俺様もちょくちょく思っているが」
「アイツの戦い方を参照することで僕は剣技を手に入れた。これによって僕のパフォーマンスが十三パーセントほど向上したからね」
剣を学習するだけで十三パーセント向上はだいぶおかしい気がするが、ファーヴニルゥの性能に加わえて技も手にいれたと考えれば納得は出来なくもない。
まあ、凡百な剣士の剣技程度では取り入れる価値すらなかっただろうが。
〈疑問を呈します。――ファーヴニルゥのスペックを以てして参考になるレベルの剣の使い手……? ジークフリートのカテゴリーを現代人類カテゴリから個別カテゴリへと変更、分析を実行します〉
「人の友人を個別カテゴリへとわけるな。人間のはずだ、ファーヴニルゥとの戦いで少し怪我もしていたし……たぶん。魔法もかけていないはずなのに一時間ほどで気づけば治っていたが」
まあ、それはそれとして。
ディアルドは声を上げた。
「騒ぐのはそこまでにしておけ。ヤハトゥ、ちゃんと目的地には?」
〈回答します。――問題なく接近中、もうしばらく進んだ森の奥となります〉
「了解」
本来の目的を思い出したのだろう、彼の問いにヤハトゥは答え――ディアルドとファーヴニルゥは指し示される方向へ向かって歩いていた。
(さて、首尾よく見つかればいいのだがな……)
彼らがここにきているのには理由がある。
端的に言ってしまえば
見栄っ張りというべきか、どうせ作るなら最高を目指すというチャレンジ精神の賜物か、普通の
自身が作る以上、特別な
ならば素材から厳選をするのは当然で、出来るだけ珍しい材料がいいとあれやこれやと相談したところヤハトゥの方から上げられたのがこのラグドリアの湖の南方の地に見つけた木の存在だった。
さしものヤハトゥと言えども長い間は湖の底にいたため、今の時代のことはあまり詳しくはない。
そのため、見つけた品種の葡萄の木が王国において珍しいものかまでは判断は出来なかったのだが――その葡萄には一つだけ特徴があった。
それは、
「魔力を帯びた葡萄の木……か。魔草の一種であろうな」
魔草。
ペリドット領に訪れた時にも少し関わったが要するに魔力を帯びた植物全般のことを指す。
未だに謎が多い存在だが、魔法薬の材料になるとても希少なもの。
そんな魔草の一種である葡萄の木がこの先には自生していることがヤハトゥの手によって判明した。
それを採取しに行こうというのが今日の目的であった。
「ふーはっはァ! 希少な魔草を材料にして作った酒など王国広しといえど聞いたことはない。オンリーワン! 独自性ばっちりというやつだ」
まあ、魔草というのは希少なのでペリドット領のように普通に売ればそれだけで名産に慣れる気がしなくもなかったがそれはそれとして――珍しい魔力を持った葡萄から
「ふふふっ、やってみせるぞ」
「マスター、楽しそうだね。というか何か作るときはいつも楽しそう」
楽しげな様子の彼を見つめながらファーヴニルゥは言った。
「それはそうだろうさ。未知への挑戦、創造ほど楽しいことはない。そこには無限の可能性があり、欲して手を伸ばしたものにしか得られないものがあるのだからな」
そうディアルドは答えながら足を速めた。
何故かといえばヤハトゥから酔っぱらっていた時の動画記録を見せられ部屋に引き籠ったルベリが復活する前に色々とやりたかったためだ。
趣味にはしっていると言われれば反論できない自覚が――彼にはあった。
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