第百三十九話:偉大なるベルリ子爵の憂鬱・Ⅲ


「で?」


「イリージャルの書庫アーカイブは素晴らしいものだったよ」


「兄貴、やれ」


「うむ」



 などいうやり取りが行われ、ベルリ領式の処罰が行われたエリザベスが動けるようになってからようやく落ち着いてディアルドたちは話し合える場を整えることが出来た。

 まあ、帰っていたら出来ていた城の一室の中なため、落ち着いて話し合うに適しているかは微妙であったが。


〈報告します。――かつての拠点内に置かれていた調度品を既に移設してあるので過ごす分には申し分ないかと〉


「ああ、ありがとう。ちょっと落ち着かないけど……」


「ふーはっはァ、何すぐに慣れる。これで子爵に相応しき一城の主になれたのだ。喜ばねばな!」


「それはまあ、そうなんだろうけどさ」


「でも、内部はやっぱりまだまだ寂しいよね。城自体は立派なのに」


「仕方ない部分もあるんじゃないかな。こういった建物を作ったりするのは得意でも流石にイリージャルでも調度品まではね」


「ふむ、内装に関しては寂しいが……まあ、それはおいおいでいいだろう」


「うんうん、私室も手に入ったしね。でも、僕はマスターと一緒の部屋でもよかったんだけど……」


「領主権限で却下する。というか空き部屋が凄いから使ってくれ、使われないとすぐに建物は老朽化するっていうし」


〈報告します。――メンテナンスに関してはヤハトゥがサポートするので維持に関しては問題ないかと〉


「あっ、そうなの?」


「湖の底であんなデカブツを維持管理してきたのだ。その実績を鑑みれば問題はないだろうが……まあ、色々と寂しいからな。ファーヴニルゥはちゃんと使うと言い。お前はもはやベルリ領を代表する人物の一人ともなったのだから」


「マスターが言うなら……」


 などと話していると後遺症なのか時折身体を震わせながら、エリザベスがそっと手を上げた。


「私の部屋は……」


「地下室でもあげようか? イリージャルの書庫アーカイブで食べ物や飲み物を運び込ませて食っちゃねしてたエリザベス」


 そう返答したルベリの目は冷たかった。

 いや、城に関してはもういいのだ。

 これに関してはヤハトゥとイリージャルの力を甘く見過ぎていたディアルドたちの落ち度なので、このことに関してエリザベスに何か言うつもりはなかったのだが問題はそれ以前。


 一応、ルベリ達が居ない間のベルリ領のことを任されていたのにもかかわらず、この女はイリージャルの書庫アーカイブに引きこもり存分に趣味の魔法の研究に勤しんでいたと聞けば――さしものルベリもイラっと来るものがある。

 ペリドットからの依頼で色々と苦労した分、特に……というやつだ。


「地下室……いいね!」


「……あれ、なんか嬉しそう?」


「明らかな引き籠りタイプだからな。なんか暗くて時目ッとした場所が落ち着くんだろう」


「どういう理由だよ。まあ、ともかく帰って来て早々だけど少し話でもするか」


 そうルベリは切り出すようにペリドット領で起きたこと話すのだった。




「魔物討伐……そう簡単な依頼じゃないとは思っていたけど、なんというか凄い結果になったね。まさか≪魔剣≫と関わり合いを持つことになるとは」


「そのことに関して、貴様何か言うことがあるよな? ジークの奴が言っていたぞ、お前に俺様のことを探していることを言ったと。それを伝えておけば俺様だってな……その胸を揉ませてくれれば許してやるがどうだ?」


「兄貴」


「でも、それに関しては自身のことを隠していたキミも悪いと思うんだよねディアルド」


「それを言わるとつらい。仕方ない、天才である俺様は寛大だ。許してやろうではないかエリザベス」


「私の扱いが下がったね? まあ、それぐらい気やすい方がこちらとしても助かるけど――子爵様?」


「兄貴、正座」


「おかしいな、俺様の寛大さを示した場面なのに俺様が正座をさせられている? これは一体……」




 などというディアルドの言葉は空しく響き、ルベリはそのまま話を続けるのだった。


「まあ、色々あったけど一先ず目的であった外部の貴族と伝手を結ぶことには成功した。そして依頼を達成できたのもあって色々とライオネル様にも褒賞代わりに骨を貰った」


「ああ、一番大きなものだとやはり国への報告書に色を付けて貰えることだろう。これによって公的にベルリ領は開拓都市として名乗りを上げることが出来る」


「今まではそうじゃなかったってことだよね、マスター」


「まぁな、今までは実態はともかく世間的には「開拓を頑張っているが先が不透明な領地」扱いだったのだが「安定的に開拓が出来ている領地」」扱いになる。この違いはかなり大きく、これで冒険者の誘致や移民なども受け入れやすくなった」


「移民、か」


「領地を発展させるには人は不可欠だからな。そして、集めるにしても最低限の担保というものが必要となる。それが今回の一件で手に入るというわけだ」


 今回の一件でベルリ領が一番手に入れたのはそれに尽きた。

 王国内における社会的な一定の地位、領主としての地位が確立したことに他ならない。

 これによって今までできないことも出来るようになったのだ。



「差しあたっては、だ。これで依頼も出しやすくなったしオーガスタ近辺の冒険者を誘致してベルリ領、オーガスタ間の安全を確保することで交易することも出来るようになるはずだ」


「交易……つまりは物流」


「そうだ、人と物が行き交うようになれば発展していくのが世の常だからな。問題はさて……ここからどうやってルベリティアを発展させていくのか、という方針の問題となるわけだ」


 ルベリティアは既に街として基礎的な部分は非常に高いレベルで完成してしまっている。

 食に困ることはなく、安全も確保されている。



 とはいえ、あくまでそれだけといわれればそれだけだ。

 これから先がこのベルリ領の特色を決めることになる――と、ディアルドはそう告げたのだった。



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