第百三十八話:偉大なるベルリ子爵の憂鬱・Ⅱ
十数日ぶりに帰ってきた領地、ルベリティアに帰ってきて最初に感じたのは安堵だった。
過ごした時間ならまだまだ圧倒的に寄ってきたオーガスタの方が長いというのに、既に自分の中では帰るべき場所は
彼女が思わず零した言葉に対する返答はいつの間にか飛んできていた小鳥型の魔導ドローンであるエスメラルダによって照射され現れたヤハトゥの口から為された。
〈回答します。――「あれは何なのか」という疑問について。我が主と司令官による建築命令が出されていた軍事防衛拠点ですが〉
「ふーはっはァ! 城だなぁ」
「うん、すっごい城だ」
「いや、城なのは見ればわかるよ! でも、それ以外におかしい所があるよね?!」
「ふーはっはァ! 木だなぁ」
「うん、すっごい木だ」
「そうだよ城にでっかい木だよ!? なんでちょっと離れて帰って来たらそんなのが出来てるんだよ! おかしいだろ!?」
ダンダンっとルベリは癇癪を起したように足を踏み鳴らし声を上げた。
それはそうだろう、何せ出立する前は基礎工事くらいしか終わっていなかったのにとても立派な貴族が住まうに相応しきお城となんか凄いバカでかい木が出来ているのだから。
「というか城も立派過ぎるだろ、これ!? いくら何でも大きすぎるというかなんというか」
〈回答します。――我が主と司令官が住まうには相応しき規模であるとヤハトゥは考えます〉
「うんうん、マスターも住むなら当然だね。わかっているじゃないか」
「うむ、立派なのはいいものだ」
「いや、だけどさぁ! あれってオルドリンにあった城よりもパッと見て……」
「あっちには歴史があるから……。まあ、そんじょそこらの貴族共の城よりも遥かに大きくて立派で、平民上がりの貴族領主がこんな城の主だと知ればキレる貴族は星の数ほど居そうだが――まあ、些細なことだな!」
「全然、些細じゃないけど!?」
「どっちかというとあのデカい木の方が……」
「それはそう!」
まるで問題視せずに受け入れているディアルドとファーヴニルゥにルベリは声を張り上げるも帰ってきた言葉に思わず同意した。
いや、あのデカい木は何なんだ。
〈回答します。――あれは
「へえ、持ってきちゃったんだ」
〈――これにより、我が主と司令官に高いレベルでのサポートを行えるようになりました〉
どことなく自慢げな様子のヤハトゥにファーヴニルゥの「マジかこいつ……」という視線とディアルドの何とも言えない視線が突き刺さる。
そんな雰囲気にどこか困惑したようにヤハトゥはベルリへと問いかけた。
〈――建設物に何かしらの問題があったでしょうか? 城に関しては司令官の作ったミニチュア模型を寸分もなく再現したと自負していますが〉
「ああ、道理で見覚えというかそっくりだと思った。確かに私が作ってたのと同じだよ」
「ふーはっはァ、あれだけ嬉しそうに時間が空けばこっそり作っていたではないか。それが実際に出来上がって嬉しくはないのか? お前の一押しだった中庭のメルヘンで可愛らしい花壇だって再現されているのだろう?」
〈回答します。――万全に〉
「えっ、そうなの? それは嬉しい……ってそうじゃなくてだな。いや、嬉しいのは本当だけどちょっと縮尺が予想外というかもっとこじんまりとしたものを想定していたというか――というかあれだよ、急に出来すぎてびっくりなんだよ! もっと年単位でかかるかと思ってて」
ルベリの言葉に同意するようにディアルドは頷いた。
〈――頑張りました〉
「ああ、うん。ちょっと俺様としても想定外だった。ヤハトゥの底力というのを甘く見ていたというか何というか」
彼としても城作り自体はそこまで急いでいるわけではなかった。
ベルリ領の象徴となるような立派なものになればいいとは思っていたが、別段急を要しているわけではない――というか急速に街づくりをしてし過ぎたからこそ、オフェリアたちの来訪に慌てる羽目になった事態もあり、別段忙して作らせていたわけでもなかったが……逆にいえば敢えて遅らせて作るように指示していたわけでもなかった。
「とはいえ、この速さは流石の俺様も予想外。一応、イリージャル頼りになるのもマズいからわざわざ建てた製錬所などの習熟も兼ねて城作りはさせていたはずだが……」
〈回答します。――そちらについても問題なく遂行中、足りない部分をイリージャルの方で補う形で建築を行いました〉
「補っちゃったかー」
思わずルベリは零してしまうが、ヤハトゥは別に悪いことをしたわけではないので言えない。
単に与えられた権限の中で効率的に達成しようとしたら、ディアルドたちの予想を遥か上を行く建築速度で城を作ってしまっただけで……。
「子爵様が領地を出てすぐに続々と東の方からヤハトゥ様の手の物たちがやってきて……ええ、朝から晩まで動き続けて。製錬所で加工した資材を一度
「積み木感覚か、そりゃ早く作れるだろうがそんな大きなものをどうやって」
「それはその……機界巨神像アマテラスが」
それがベルリ領において最年少かつ常識人のアリアンから聞き出した経緯であった。
「「国堕とし」の伝説を持つ古代兵器がそれでいいのか?」
「街にモンスターを寄せ付けない、大規模公共事業を行う。古代兵器をしているよりも守護神像として働いている方が世の為だろう」
「それにしても何ていうか凄い光景だね。あの巨体でラグドリアの湖までの道程を行ったり来たりして城を組み立てたのか……」
「その様子……見たかったような見たくなかったような」
〈報告します。――記録動画は残っていますので拝見しますか司令官?〉
「いや、遠慮する。何というか帰ってきたのに凄い疲れた。ハワードたち――領民の様子はどうだった?」
〈回答します。――司令官の城の建設の手伝いを申し出て、積極的に建設作業に従事〉
「何やってるんだか……」
「まあ、娯楽少ないからなベルリ領は。食い物には困らんし、安全も確保されているとなると興味が湧いてもおかしくないか。領主の城を作る手伝いをするなど滅多に出来ることでもないし」
「そう言われるとそうかもしれないけど……。それはともかく、なんというか留守にしている間に好き勝手やってるな」
(何、この……なに??)
「うん、一応監督役というかストッパー役に彼女が選ばれていたはずじゃ……」
〈回答します。――エリザベス・ワーベライトに関してはイリージャルの
「兄貴」
「ああ」
帰って早々だがやるべきことが判明したようだ、とディアルドとルベリは見つめ合うと同時に頷き――そして、歩き出すことにした。
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