第百三十二話:盟友・Ⅵ
「ファーヴニルゥのことか」
「あれは異常だよ」
ジークフリートの言葉に微かにディアルドは笑った。
この親友がここまで言う相手など居るとはいなかった――見つけてしまうまでは。
「そこまで言うか?」
「率直な意見というやつさ。今は抑えてはいるが私にはあれが息を潜めているだけの魔龍に感じた」
「ふむ、魔龍か。なるほど、良いな! ふーはっはァ、≪魔剣≫の名を持つ英雄ジークフリートが認める魔龍――それを俺様は従者にしていると? 小気味いいではないか」
「冗談で言っていったわけじゃないんだけど。あんなの何処で……」
「拾った」
「拾ったって……」
「だからそのままの意味だ。本当にひょんな拍子というか、不可抗力というか。何故かマスターとマスターとくっついてくるようになってな」
「うん、全くわからないね」
「詳しく言うのは面倒だから言わんが……あれはガキだ。最初は戦々恐々してどうしようかとも思ったが――お小遣い渡して好きなものを食べて来いって言ったから、今頃食べる歩きでもしているんじゃないか?」
「呆れたね。あれの危険性がわからないわけじゃないだろうに。……たぶんだけどさ、あの
「ああ、最終的にはな」
「なるほど……そもそも何故
「ジーク」
「ん、なんだい?」
「あれ、ではない。ファーヴニルゥだ」
「……人ではない、それどころかもっと」
「そんなことはどうでもいいのだ。正体がどうであろうが――あれは俺様の従者だ。それでいい」
「キミってやつは……それじゃあ、正体に何かあるって言っているようなものだけど。まあ、いいか。わかった、謝るよ。ファーヴニルゥだね」
「ふーはっはァ! わかればいい」
「話を戻すけど、彼女が
「チラッとしか見ていないはずなのにそこまで的確に見抜かれて正直引いているんだが?」
「私としては皆がなぜわからないかがわからないんだけど」
ジークフリートはディアルドの顔を不意に見つめると吹き出した。
「全くあれほどの力を持った存在をただの子供みたいな扱うなんてね。キミらしいよ」
「いや、従者っぽくも扱っているぞ? じゃないと拗ねるからな。騎士的なムーブをするように言ったのも俺様だし……まあ、とはいえ思った以上に素直というか素直過ぎるというか――俺様のことを素直に吸収し過ぎるのもどうかと思わないか?」
「自覚あったんだ」
「うん、っていうかファーヴニルゥがくっついてくるせいで女の子のいる酒場にこっそりと行けないんだよ。普通について来て飲み食いするし、流石にそれはちょっとこう……」
「キミって妙なところで常識あるよね。でも、何だかんだ酒場に彼女を連れて行ってるからやっぱりなかったのかもしれない」
「いけるかなって思ったんだけど、女の子誘えなかった。お酌して貰うだけでよかったのに……ファーヴニルゥが「僕がやる!」ってニコニコ顔で。店の女は遠目でなんか微笑ましそうな目で見ながら近づいてこないし」
「そりゃそうだろうね。というかそんなお店何時に行ったんだい? ベルリ領には酒場なんてのは流石にまだないだろうし」
「いや、ここに来る道中で寄った街で」
「ベルリ子爵やオフェリア侯爵令嬢と同行している最中に……」
「情報収集の一環としてだな……」
「失敗してるじゃないか」
「ふーはっはァ! この天才である俺様を舐めてはいけない、その後にリカバリーはしたからな!」
「天才ならそもそも失敗せずに成功させるべきじゃないかな?」
「天才の後ろは多くの失敗によって出来ている。それを踏み越えながら成功への道程を走破するのが天才よ。失敗をしない天才など天才にあらず」
「本当にああ言えばこう言う……。というか話ってなんだっけ?」
「えっ? あー、ファーヴニルゥの子育ての話? 情操教育とかそんな感じ。まともな倫理観というか道徳観を養ってほしいというか」
「キミはやる時はやり過ぎるほどにやる癖に変なところで常識的だなぁ!?」
「真の天才とは常識が備わっているものなのだ。世というものを知り、それを敢えて乗り越えることこそが天才というものだ。お前にはわからないだろうな、――まあ、ぶっちゃけるとアイツほどの力を持っている奴の性根がフラフラしているのはまずいからな」
「キミがちゃんと見ていればいいんじゃないか?」
「いいのか!? だって俺様だぞ?! 急に世界征服したいとか言い出したらどうするんだ!」
「……ああ、うん、確かに。キミに似る過ぎるのは確かに不味いね。特に能力がある過ぎるというのが問題だ」
「うむ、そこなのだ。だからこそ提案がある」
「なんだい? 私としてはこの後も用事があるんだけど」
「わかっている。どうせ辺境巡りであろう?」
「何故、それを……」
「戻したくないのだろう、≪魔剣≫をな。まあ、それはともかくとして、こうして再会したのも何かの縁だ。ちょっとした頼み――」
「――ファーヴニルゥと戦ってはくれんか? 王国最強。その対価として、一つ秘密を教えてやろう。お前ならば――まあ、いいからな。我が友よ」
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