第百三十一話:盟友・Ⅴ


「待った?」


「ふーはっはァ! 今、来たところだ。気にするな」


 その日、ディアルドとジークフリートは滞在しているオルドリンのカフェで待ち合わせをしていた。

 久しぶりの再会、とはいえ色々とごたごたしていたしルベリなどの他の眼もあった。

 だからこそ、落ち着いて時間が取れた頃に話そうと約束していたのだ。


「ちゃんと来てくれたんだね。よかった。ディアルドのことだから途中で面倒くさくなったり、こっそり……ベルリ領だっけ? そこに逃げかえってるんじゃないかと少し心配だったんだ」


「ふっ、俺様がそんなことをする男だと?」


「うん」


「ふーはっはァ! まあ、思わなくもなかったが……。後学のために聞いておきたいのだが、その場合ジークはどうした?」


「少し時間もあるからね、場所もわかったんだから私の方から向かおうかと」


「なるほど、つまりは直接の殴り込みか。ふーはっはァ! ……ごめんなさい、許してください。あと今はディーで通しているんでそっちで頼む」


「やれやれ、わかったよ。それにしても……ここは良い街だ。南部とは大違いだ」


「国境沿いというのもあってそれなりに物々しくはあるがな」


 警邏中の兵士であろうか、それなりに目につくのが他の街とは違うところだがそれさえ目を瞑るならオルドリンは良い街であった。

 石畳の地面はきちんと整備され、街全体に活気がある。

 商売もかなり盛んなようで店の種類も富んでいる。

 道行く市民の顔には笑顔が多く、キチンとした規律のもとで善政が成されているだろうと伺える。


「領主と領民の間で確かな信頼関係がある。でなければこんな風にはならないよ」


「そうだな、俺様も少し驚いている。もうちょっと堅苦しい街だと思っていたのだがな……。ジーク、お前はこのオルドリンに来るのは?」


「初めだよ。だから、驚いている」


「だろうな。王国最強と名高き≪魔剣≫がこんなところに来るなんてそうはないことだ」


「何が言いたいんだい?」



「お前――何故、このペリドット侯爵領へと来た?」


「それは既に説明したと思うけどね。魔物の発生を報告されたからだよ、そう命令された」



 ジークフリートとの言葉にディアルドは鼻を鳴らした。

 その言葉に嘘はないのだろう、だからこそ彼は忌々し気に憮然とした表情になった。


「質問を変える。なんで?」


「答えは変わらないよ。そうだ」


「……そうか、全く。面倒なことになってるな」


 ディアルドはガリガリと頭をかきながらため息が出そうになるのを飲み物を飲むことで誤魔化した。


「それにしても君が例の黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴン討伐の一件に絡んでいるとはね。思いもしなかったよ」


「なに、俺様ほどの天才ならばおかしくない偉業ではあるだろう?」


「そういう目立つことは避けると思っていたからね。彼女――ルベリ・C・ベルリのことは王都の方でも噂になっていたから知ってたけどね」


「ふーはっはァ! 中々に痛快な話になったからな、それなりに社交場をわかせた話となっていただろう?」


「そういうのに私が縁のないことは知っているだろう? まあ、それでも聞こえてくるくらいには噂になっていた。「幻月」のワーベライトと絶世の美しさを持つ「蒼穹姫」、その主である謎の魔導士……。色々と面白おかしく語られていたけど、まさかキミのことだとはね」


「そうかそうか、それほどか」


「相変わらず、楽しそうだ。でも、最後に見たキミはそんな感じじゃなかった。何がキミを変えたんだい?」


 ジークフリートの言葉に少しだけディアルドは言葉を濁しながら口を開いた。


「別にそんな大した理由ではない。だが、目的が出来て。そして、そこまでの道筋が頭に浮かんで、それを為すだけの手札が揃った。天才過ぎるというのも考え物だな」



「キミは何を求める?」



「「国」だ。俺様の欲の行きつ先――自由に生きれる偉大な国だ」


「「国」……か、それは「王国」では叶わないと?」


「俺様が誰かの下につくとでも? せめて陰で実権を握らせてくれるぐらいしてやったら考えなくもないが……それは無理だろう? なら、一から作った方が早い」


「建国をそんな風に言えるのはディア――ディー、くらいだよ。それに手段を選ばなきゃ、出来なくもないと思うんだけど?」


「ほっとけ」


 ジークフリートの言葉をディアルドはそう笑い飛ばした。


「それにしても建国、ね。確かに今の時点でも一国一城の主ともいえるけど……。面白そうだ。私も協力してやってもいいよ?」


「要らない。すっごく要らない」


「その反応は酷くないかな?」


「だって真面目に要らないっていうか、絶対に関わって欲しくないっていうか。俺様の国作りのことを応援してくれるなら正直放っておいてくれないかなーって」


「むぅ、彼女たちがいいのに私がダメなのは納得いかないな。「幻月」は優秀な魔法研究家だ、話に聞くとベルリ領で思う存分にその際を活かして魔法を作っているという話で……まあ、彼女に関しては良いとしよう。けど、あのベルリ子爵はいったい何者なんだい? 本当にベルリ家の?」


「そうだと言っているだろう? ジークだって「イーゼルの魔法」を使っているのは見ただろう? それが何よりの証拠だ」


「それは……そうだけど」


「それに俺様がそんな嘘をつくとでも? 全く関係ない少女を貴族領主の祀り上げとでも言いたいのか?」


「うーん、「実は市民だけど貴族にしてやったぜ!」的なノリでそれぐらいはやりそうかなって」


「ふーはっはァ! ……信じてくれなくて俺様悲しい?」


 まあ、ディアルドにそんな気持ちがあったのは事実なのだが。


「それに彼女のことだ」


「彼女?」




「とぼけるなよ、あの銀髪の――「蒼穹姫」、彼女はただの人間じゃないはずだ」





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