第百三十話:盟友・Ⅳ
「言わんとダメか?」
「ダメです」
「どうしてもか?」
「ど う し て も !」
ルベリは何時になく強い口調でディアルドを問い詰めていた。
それも仕方ないことではあった、何せジークフリートはあまり国のことを知らなかった彼女でさえ知っているような名だ。
「ジークフリートといえば王国の若き英雄として名を轟かせている騎士。王家からも深く信頼されているとかなんとか」
「まあ、王国の宝剣でもあるグラムの所有を任されるほどだからな。それは確かな事実だ」
「それはつまりは国のお偉いさんってことだろ?」
「いや、アイツ自身が別に偉いわけじゃないが……」
「王家と繋がりの強い、国を代表する英雄ってだけで十分に問題だからな! そして、そんな人と兄貴は個人的な交友があると来た! というか隠してた! これは由々しき問題だろ!」
「うむむ……」
「ちょっとした知り合いとかじゃなくてガッチリと探していた感じだったし、ベルリ領に突撃されてたらどうするつもりだったんだよ」
ルベリの言葉にディアルドはうめいた。
ジークフリートは別に偉い役職の人間というわけではないが、影響力がない人間かと言われればそうではない。
そんな人間との交友関係があるなら「あらかじめ言っておけ、いざという時の対応に困るから」というのは至極当然の正論であった。
実際、予想だにしない場所での再会でとても面倒なことになっているわけで……。
「俺様だってなぁ、これでも気を使ってだなぁ」
「何の気だよ……。いきなり遠い存在だと思っていた王国の英雄様が配下の知り合いだった――ってことを知らされた私の身にもなって欲しいよ」
「うむ、何というか……すまんな。あいつはまあ、友人――というと不貞腐れるから親友としておこう。言ってしまえば王都に居た時に縁が出来た同期というやつでな」
「兄貴って過去のこと一切喋らないから」
「ふーはっはァ! 俺様は過去を振り返らない男なのだ。そこには夢はないからな」
「何を言ってるんだか……」
「それで続きはー? マスター」
「うん? ああ、そうだったな。驚愕な真実を今ここで発表するとだな、実は俺様は貴族の生まれでだな」
「それはまあ、察してたよ。むしろ、そうじゃなかったら驚きだったよ」
「そうか……俺様の溢れ出る天才性、そして高貴さは隠し切れなかったか」
「魔法使いまくってるし、隠すつもりがあったのかは疑問だけど。名前だけは隠していたから何か理由のある家の出かと」
「いや、こう言っては何だがローズクォーツ家は大した家ではなかったな。一応、王宮近衛に選ばれる騎士の家系ではあったが爵位としてはそこまでではなかった。父の代では男爵だったしな。ベルリ子爵よりも下だ」
「へえ、そうなのか……。っていうか兄貴の騎士の家系なの?! いや、確かに凄い剣捌きだったけど……」
「まあ、これでも結構鍛えていた時期もあったからな。俺様は魔法の方が便利だったからそっちの方が良かったのだが、父上の方は立派な騎士にしたかったようでな。幼少期はしごかれたものだ」
「兄貴にもそんな時代が……」
「まあ、あまりにも鍛錬で打ち据えてくるからちょっとした悪戯の魔法を独学で作って反撃したものだ」
「マスターの言う、ちょっとした悪戯の魔法はあまり信用できないね」
「確かに。で、それで?」
「そんなこんな騎士としての剣の腕を磨きつつ、魔法をこっそりと鍛錬していた時に――アレだ。ファーヴニルゥは知らないだろうがルベリは知っているだろう?」
「えっと……?」
「大体、八年ぐらい前に起きた。王国の南部諸侯の反乱だよ」
「ああ、確かジークフリートが目覚ましい活躍をしたというあの?」
「南部諸侯の反乱?」
色々と今の世情に関して調べているファーヴニルゥであったが流石に知らなかったらしく小首をかしげている。
「この大陸において我がドルアーガ王国は最大の勢力を誇っている。国土だって最大規模の国だ。だが、問題が無いわけじゃない。東部は未だ未開拓な領域が広まっているし、北東部には強国のアスガルド連邦国。西部には獣人たちの領域が広がっている。そして、ドルアーガ王国の南部。ここは今でこそ王国の領土ではあるが併合されたのは十数年前に遡ることになる。元は亜人が中心となって支配体制を築いていた領土だったんだ」
「それが今は王国の一部に……どうして?」
「ふーはっはァ! 歴史上なんどとなく戦ったんだがな、最終的には名士の亜人を王国貴族として迎え入れることを条件として南部は王国の一部となった。だが、併合されてからまだ二十数年、当然気に入らないやつも居るもので」
「それで起こったのが南部諸侯の大規模な反乱だったんだよな?」
「ああ、それに参加する羽目になってな」
「えっ、ちょっと待って。兄貴ってそのとき何歳だっけ? というかよくよく考えるとジークフリートも……」
「まあ、その時に知り合ったのが新兵だったジークフリートってわけだ」
ディアルドは少し懐かしそう目を細めながらそう言った。
「アイツとはそれからの腐れ縁というやつだな。何というか懐かれたというか」
「懐かれたって……」
「そういうしかないんだって! なんか凄くついてくるし……。アイツは適当に放り込むだけでバンバン功績を立てるし、便利だからその時は一緒に居たんだがそのせいで一セットみたいな扱いを受けて大変だった。いや、まあ、俺様がやってたことなんてアイツを躾けていい感じで殴っていい所とタイミングを指示するぐらいだったんが」
「躾けてって……」
「まあ、反乱は二年ぐらいで終わったからな。あの頃の俺様はちょっとダウナー入っていたというか、スイッチを入れてなくてアグレッシブじゃなくてな。とりあえず、良い感じに安定した職を求めて事務職とか狙ってさ迷っていたら王立遺物管理室に飛ばされてな。あそこは居心地も良かったから終の棲家にしようと思ってたんだけどなぁ」
「やる気なくてダウナーな兄貴ってのがあんまり想像がつかないんだけど。それにしても何という人に歴史ありっていうか。思ってた以上の過去を……。兄貴が自分のことを隠しているのはやっぱりその過去のせい? 確かに王国の英雄と深い交友を持っていることがバレたら……」
「いや、まあ……ディアルド・ローズクォーツの名前が知られるとそこら辺知られるかもっていう思いはあるが。俺様が気にしているのはそっちより――いや、なんでもないです」
「言え」
「はい」
ルベリの眼光に居ずまいを正しながら呟いた。
「第三王女っているじゃないか」
「ええ、居るな。たしかクリームヒルト王女だったっけ?」
「それをちょっとジークフリートと一緒に誘拐したことがあって。そこら辺のこと悪名に気付かれたらやだな―みたいな?」
「何やってるの? いや、マジで何をやってるの???」
「一国の王女様を誘拐したの? 流石マスターだ」
「だろう?」
「そこ! ファーヴニルゥも褒めない! っていうかマジで何をやってるの? そんな大それたこと」
「ふーはっはァ! 大丈夫だ、事件を闇に葬られたからな!」
「その葬られた闇をうっかり知ってしまったんだけど! 兄貴!」
「だから言わないには言わないなりの理由がある。気を使って黙っていたといっただろう?」
「そうだけどさ! そうだけどさー!」
「もっと詳しく聞くか?」
「絶対にやめろ! ……もう、いいや。とても疲れた。とりあえず、明日はジークフリートと話すんだろ? 私も帰る前にオフェリアと少し街を見学させて貰う約束があるからそっちに行くけど、なんていうか上手いことやってよね」
「わかってる、わかってる。この俺様に任せるがいいさ。いい感じに丸め込んでみせるとしよう。正直、今のベルリ領にアイツみたいなやつが関わってくると面倒なことになりかねないしな」
ディアルドはそう微かに笑った。
王国最強の騎士様は本人が望もうが望むまいがその行動に影響力がある。
それ故に今後のベルリ領ことを考えれば注意は必要なのだが……。
「それはそれとして久々に再会した親友だ。それなりに話したいこともあるからな」
「まあ、楽しんでおいでよ兄貴」
「そうだよ、マスター」
「……そうだな。変なやつで「私はキミの剣」だとか言って付きまとってくる奴だが、悪いわけじゃない。積もる話もあるだろうし――」
「あっ、ちょっ。兄貴……? 狙ってやってる??」
「………………」
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