外伝 第十四話:ファーヴニルゥ日記 その⑬


 ■月■日


 想定外の事態が発生した。

 そのため、昼にも書いたけど夜になってもう一度書いている。

 

 何が起こったかと言えば端的に言って視察団の代表ともいえる相手が完全に想定していない相手だったのだ。

 開拓し始めた僻地の視察に侯爵家の令嬢がやって来るとか……マスターもエリザベスも「なんで??」という顔をしていた。


 視察なんて普通に考えて役人がやるべき仕事なのに侯爵家の人間……元から急だった視察の話の背景が怪しかったのもあり、これで何かしらの裏があることは確定したといってもいい。

 二人は真剣な顔をしてその裏について話し合っていた。

 出張ってきた相手が相手だから厄介ごとの可能性が高い、警戒しておいてし過ぎるということはない。


 そういうわけでオフェリア・ダグラス・ペリドットの相手は全てルベリに一任された。

 本来ならいい感じで様子を見ていたマスターがフォローを入れる手はずだったのだが、そこら辺のプランは全部放棄して彼女を信頼することに――



 まあ、見捨てたとも言い換えることは出来るが。

 ともかく、相手の出方を窺うことに専念をすることで一日目を乗り越えることにした。



 想定していた以上に地位の高い相手にテンパって何度もヘルプコールをルベリを出していたが……これも致し方ない犠牲。

 エリザベスは一応中立の立場だし、マスターはどうにも相手が上級貴族の関係者だと知って及び腰だし、僕は基本的には無位無官のただの人で何ならルベリよりもそういう世の常識には疎い、起動して一年も経っていないのだから当然だけど。


 つまりは誰もフォローに行ける人材が居ないのだ。

 ごめんね。


 でも向こうも今のルベリティアの様子を見て「なんで??」という顔をしてるから大丈夫。

 


  機界巨神像アマテラス! ルベリティアの至る所にある子爵を称える石像の数々!



 これでイーブン。

 戦いは……これからだ!



 ■月■日


 気を取り直して二日目。


 とりあえず諸々の街の案内が終わり帰ってきたルベリからのお説教の数々……。


 ルベリティアの様子はとても恥ずかしかったらしい。

 あと「侯爵家のご令嬢なんて天上人みたいな存在に、私のようなのに一人で対応させるなよ! っていうかフォローはどうした フォローは! するって話だったよな! クソ兄貴!」ってな感じブチギレていた。


 マスターを正座の体勢で地面に座らせて顔を真っ赤に説教していた。

 よっぽど恥ずかしかったのか目に涙さえ浮かべていたが、ある程度聞き終えるとマスターはさっさと謝って話を次に進めることにした。



「ごめんね!」「いいよ!(キレ」



 明らかに許しているテンションではなかったが、とりあえずそれよりも対策しないといけないことがある。


 オフェリアの目的に関してだ。

 明らかに視察団で来るような立場の人間ではなく、だというのにこんな僻地まで来たというのにはそれなりの理由があるのは確実。


 問題はそれがどんな内容なのか。

 僕たちにとって、ベルリ領にとって……。


 ■月■日


 数日ほどドタバタしていたので書く時間がなかったので改めて書くこうと思う。


 今、マスターと僕とルベリはオフェリア一行と共に彼女の領地に向かっている。

 というのもそれがオフェリアがベルリ領に訪れた目的だったからだ。


 彼女からは依頼を受けた。

 その内容はペリドット伯爵家の領地のシャーウッドの森という場所で恐ろしく強い怪物――魔物が住み着いてしまったとか。


 その退治を依頼されたのだ。


 確かに僕たちは王国が手を焼いていたモンスターである黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴンを倒した一行、彼女たちの手に負えない相手ならば外部に頼りを求めるのも理解はできる。

 そして、普通なら開拓を始めたばかりの領地など色々と物入りで足りないものばかり、如何に褒賞として莫大な財宝を貰ったとはいえ、領地の今後ことを考えれば出来るだけ残しておきたいと考えるのが普通だ。


 要するに人も金も物も色々と足りないベルリ領なら、渡す報酬に事欠かない。

 侯爵家としての地位と財力があれば支援の約束の一言で上手く動かせる……と考えたのだろう。


 まあ、実際ホイホイ乗ってしまったのだが。

 というかこれに関してはルベリの自爆なのだが……まあ、悪い結果ではないとマスターは評していた。


 どのみち立場を考えれば依頼を拒否することは難しい。

 けど、依頼を受けて達成できればペリドット侯爵家との繋がりが出来るし、支援とやらも要求して出させることも出来るかもしれない。


 ベルリ家はまだまだ振興の勢力なのだ。

 侯爵家ほどの家との繋がりは財産になるはずだ――と言っていた。



 ただ、一つ納得が出来なさそうな顔をしていたがどうしたんだろうか?



 ■月■日


 今日は散々な日だった。


 ペリドット侯爵領に向かうまでの道程は快適なものだった。

 マスターと一緒に道中でモンスター狩りをしたり、街に泊まって食べ歩きをしたり……。


 ベルリ領から離れるのもたまにはいいものだなと思いつつ、ペリドットの現当主であるライオネルの元へまずは向かう――予定だったのにアクシデントが。


 どうにもオフェリアの部下の騎士団のヘリオストルとかいうのが、彼女が離れている間に勝手に魔物が居るシャーウッドの森へと向かったらしい。


 討伐する気なのだとか。

 彼らが勝ってくれればこちらとしてもただの旅行で終わるのだけど、どうにもそうはいかないらしい。


 ヘリオストルは才気のある少年少女で編成されただけあって優秀な実力を有しているものの、まだまだ経験が浅く、経験豊富な冒険者たちを一様に倒したシャーウッドの森の怪物を相手を討伐できるか……いや、それよりも


 オフェリアは報告を受け取ってそう苦悩していた。

 つまりはそれほどの相手だということだろう、言うまでもなく僕は最強だけどマスターも「魔物相手は油断するな」とも言っていた。


 はてさて、ではどうするかという話になった。

 元の予定ではこのままライオネルのもとに向かうはずだったが、急いでこちらもシャーウッドに向かえば間に合うしれない。


 選択がそこにあった。

 僕としては勝手に突っ込んでいたバカなんて助けることもないんじゃないかなとは思っていたけど、ルベリが出した結論は――



 まあ、マスターが肯定した以上、僕に否はないけどね。



 魔物との戦いについては端折るけど、そこそこ厄介な力を有してはいたけど……マスターの立ち回りのお陰でオフェリアとその部下たちのそこそこ活躍させつつ最終的には討伐することに成功した。



 まあ、僕が居る以上マスターに敗北なんて結果なんてなかったわけだけどね!

 当然といえば当然の結果さ。


 それにしてもマスターも僕の教えた≪バルムンク=レイ≫の術式を使って倒しててカッコよかったなぁ……。

 主従で同じ術式を使うのってなんか主従っぽくていいよね。




 それは良かったんだけど。

 最後に現れたアイツ、マスターの反応から知り合いっぽいけど――んー、かな。




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