第四章

―オルドリン編―

第百二十七話:盟友・Ⅰ



 ジークフリート・デ・クハィレイト。


 初陣を十二の時に経験し、以降幾多もの戦場を駆け巡り無敗。

 王国に勝利を与え、三年前の南方諸国動乱時には一騎当千の働きをした勇士の勇士。


 その武勲は数知れず、推定討伐難易度400に近いのではないかとされた龍種の討伐にも成功、その功績により王国の秘宝――魔剣グラムを国王より授かった誰もが認める王国最強の騎士。



 それこそが≪魔剣≫のジークフリート。



 そんな相手に……。



「それで?」


「いやー、まあ……なんというかだな?」


「それで?」



 ディアルドは思いっきり詰められていた。

 怜悧なジークフリートの視線を向けられ、気まずそうに視線を逸らすも向こうは一切じっと見つめたままの状態だ。

 思わず助けを求めるようにルベリに助けを求めるも、彼女は速攻で視線を逸らした。



「……いや、無理だから」


「ええい、可哀想な配下を助けてやろうとは思わんのか! なんてやつだ!」


「うるせえよ! 私にどうしろってんだ!」



 そんなルベリの言葉がペリドットの屋敷の中に響き渡った。



「全く、こんなことになるなんて」


「まあ、討伐も上手くいったわけだから……よかったと思うしか」


「俺様は全然よくないんだが?」



 ディアルドのことを無視しながらオフェリアとルベリはなにやら話している。

 恐らくは大事なのことなのだろうが……彼としては今助けて欲しかった。


(まさかこんなことになるとはな……)


 内心でディアルドはため息をついた。

 シャーウッドの森の洞窟、その奥に出来ていた深森の魔蜘蛛キリネアの巣で再会した知人――そのせいで彼は思いっきりピンチに陥っていた。


「というか貴様なんで居るのだ。こんなところに居ていい人間ではないだろう?」


「魔物の発生の話が届いたのでその殲滅を命じられたんだ。まずはペリドット侯爵に挨拶をと訪れたところで……」


「私の馬鹿どもヘリオストルの暴走を聞いて頼まれた、ということでしょうか」


「そういうことになる」


 深森の魔蜘蛛キリネアの討伐とヘリオストルの救助を頼まれたジークフリートはそのままシャーウッドの森へ強襲、勘で巣穴に目星をつけて突撃をかましたらちょうどディアルドたちと出会った――といった流れらしい。


「それにしても流石は≪魔剣≫のジークフリート様。ヘリオストルでは刃が立たなかった深森の魔蜘蛛キリネアをまさか一刀で切り伏せるとは」


「大したことじゃない。あの時にはすでに死にかけだったから……やったのはディアルドでしょ? 流石だね」


 そう称賛の言葉を向けてくるジークフリートに対し、ディアルドはあいまいな笑みを浮かべることしかできなかった。

 何故かと言えば確かに彼の攻撃によって致命傷を受けてはいたが、それでも完全消滅までには余裕があり、一暴れしようと動いた深森の魔蜘蛛キリネアの王は足掻いたのだ。


 ただ、それを「邪魔」の一言で一刀で切り伏せたのがジークフリートだ。

 ディアルドは頑張って頭部を吹き飛ばしたというのに、向こうは深森の魔蜘蛛キリネアの王の図体を縦に真っ二つである。


(相変わらず、意味が解らんほどに強いなコイツ……俺様は苦労したのに)


 凄い理不尽を感じる。

 だが、ディアルドにとって懐かしい感じの理不尽だった。



 まあ、そんなこんなで魔物討伐を終えた彼らはそのままペリドット侯爵の城へと迎えられ――今に至っている。



「話は戻るけど……それで今まで何をやっていたんだディアルド」


「ふーはっはァ! じ、自分探しとかそんな感じ?」


「きみの自分なんて何時だって迷走しているじゃないか。探したって見つからないよ」


「なんてこというんだ貴様」


「それに手紙の一つや二つぐらい遅れたんじゃないか? 居られなくなった経緯が経緯だから心配していたんだけど」


「んー、何というかアレだ。深い事情があってだな」


「一応、聞いておこうか」


「うん、めんどくさかった」


「わかった、一発殴るだけで許してあげる」


「俺様が死ぬだろうが!?」


「いえ、今のはディー様が悪いかと……」


「うん、今のはディーが悪いよ」


「味方が居ねぇ!」


「僕は何時だってマスターの味方だよ!」


「っ、ファーヴニルゥ!」


 もむもむとディアルドの隣に座り、出された高級そうなお茶菓子を美味しそうに食べていたファーヴニルゥが声を上げた。

 大体なんでも肯定してくれるマスター全肯定系殲滅兵装騎士ちゃんの言葉にほっこりしつつ、彼はハンカチを取り出して口元を拭ってあげた。


「こら、ファーヴニルゥ。全肯定するのはディーの教育によくないからやめろとあれほど……」


「えー、でもー」


「あれ? おかしいな俺様の方が年上でしかも天才なのに年下の扱いを受けてないか?」


「いや、事実ベルリ子爵の配下でしょう? あとそれは仕方ないことだと思いますけど」


「ふーはっはァ! いや、まあ、それはそうなんだけども……」


「そう、そこら辺を説明してほしいな。ディアルド、ベルリ子爵と共に? というかディーという魔導士の名は聞いたことがあるな。そうだ、確か例の黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴン討伐の……」


 ジークフリートの中で繋がったのだろう、納得した表情を作った。


「そうかつまりは彼の魔導士がキミだったということか……それで子爵の配下をやって――今は領地の開拓を?」


「まあ、うん。そういった感じだな」


「呆れた。一体どうなったらそんなことに――いや、ディアルドに聞いても無駄か。どうせキミが悪い」


「待て待て、もうちょっと信じてくれていいんじゃないか? やむにやまれぬ事情があった可能性がなくもないだろうが!」


「ディアルドはそんな事情に巻き込まれたらさっさともう逃げてる」


「確かに」


「うむ、ベルリ子爵?? そこは助け舟を出すところでは?」


 ジークフリートの言葉に何やら同意するように頷くベルリにディアルドは思わず突っ込んだ。


「それにして彼女には上手く騙されてしまったな」


「彼女?」


「エリザベス・ワーベライトだ。彼女に王都で偶然会ってね。その時、ディアルドのことについて尋ねたんだけど知らないふりをされてしまってね」


「そんなこと言ってなかったぞ。くそっ、教えておいてくれたらもうちょっと準備とかできたというのに。あの魔法バカ女め、帰ったら胸を揉んでやろうか……っ!」


「いや、ちゃんと黙ってて上げたんだから許してあげようよ」


「というよりも先ほどから気になっていたのですがディアルドというのが彼のお名前で? 確かどこかで聞いたような……」


「ああ、彼はディアルド・ローズクォーツと――」






「はい、この話終わり! 今、俺様が決めた! 閉廷! 解散!」


「ローズクォーツ……はて、どこかで聞き覚えがあるような――」






 ディアルドの思いもむなしくオフェリアが何かを思い出そうとしたちょうどそのタイミングだった。




「お待たせいたしました。ライオネル様がお帰りになられました」




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