外伝 第十二話:ファーヴニルゥ日記 その⑪


 ■月■日


 久しぶりにエリザベスが戻ってきた。

 厄介ごとを引っ提げて。


 まあ、話を聞くと彼女のせいじゃないらしいのだけれども……鉱物資源もいっぱい見つかったし、今から建設ラッシュで素敵なルベリティアを作ってしまおう――といった感じでノリに乗ろうとしていたちょうどその時に、そんな話を持ってきて帰ってきたのだ。


 正直、ルベリもタイミングを読んで欲しかった……という顔をしていた。


 とはいえ、彼女から語られた厄介ごとというのも中々の問題だった。


 話自体は単純で「領地を賜ったばかりのベルリ領の領地運営が順調か調べるために視察団がくる」というものだ。

 これ自体はマスターの想定内の案件だったのが、問題はあまりにも時期が早すぎており何かこの視察には別の意図があるのではないか――という点だ。


 まあ、真っ当な手段ならまず村落レベルのものが精々……いや、それすらも苦しいかもしれない。

 それなのに文字通り手段を問わずに開発にはしった結果、ベルリ領は今の時点でもすでに街と言える程度には建築やら農地も整備されている。


 どう考えてもおかしいと思われるだろう。

 そして、調べられると困ることが我がベルリ領には多少……ほんのちょっと、多い。


 住民が反社会勢力の人間だったとか、僕やヤハトゥなどの古代文明の遺産のこととか……まあ、色々だ。


 「急に来るくことになった視察団派遣までの背景がとても怪しい。とはいえ、それ

はそれとして視察自体も厄介でどうにか誤魔化す手段が必要だな……どうしたものか」


 急に起きた問題にマスターは困った顔をしつつも、一先ずは普通に視察団を迎え入れる最低限の用意も出来てないから、まずはそこからだとマスターは通達を出して僕たちは動き出した。


 マスターはどんな方法を思いつくんだろう。


 ■月■日


 今日はマスターとデートだった。

 厳密に言えばルベリもいたけど、まあ彼女ならいい。


 今回、オーガスタまで足を運んだ理由は彼女の洋服を誂えるためだったからだ。

 マスターの伝手によって色んな服屋さんに顔を出しつつ、最終的には満足できるものを購入できたらしい。


 マスターもルベリも楽しんでいた。

 それにしてもメイド服か……マスターもとても気に入っていたみたいだし、従者というのはそういう意味もあるわけで――うん、悪くはないんじゃないだろうか?


 それはそれとして、とうとうマスターは上手く視察団を誤魔化す手段を思いついたらしい。

 流石マスターだ。


 だけど、その具体的な方法についてはルベリには秘密らしい。

 曰く、これから彼女はエリザベスたちのレッスンを受けて領主として相応しい最低限のマナーや言葉遣い、所作とかを学ばなければならないから負担をかけたくないとのことだ。


 ルベリに対してもそう説明し、彼女はそれを了承してマスターへと任せることになった。

 本来ならもうちょっと時間をかけて覚える予定だったものを詰め込んでやる以上、しばらくは部屋の方に籠ることになるだろう。

 そのことを思って少し気が重そうだったようだけど、「対策については任せておけ」とマスターが自信満々に言うものだから気が楽になったのだろう。


 これまでも大抵の場合、何とかしてきたのがマスターなのだ。

 そのマスターが任せろ、と言ったのだから何とかなる見通しは立っているのだろうという安堵の笑みを浮かべ、ルベリティアに帰った彼女はいそいそと部屋に戻って行った。



 その後姿を見ながら――マスターはにやりと笑っていた。



 ■月■日


 ごめん、ルベリ。

 でも、僕はマスターの剣であり従者だから……。


 素直にそんな気持ちが沸き上がった。

 ルベリが自室に籠って詰め込み教育を受けている間――ルベリティアの様子は様変わりしていた。



 ルベリティアを一望できる場所に佇む、巨大石像――のフリをしたインパクト抜群の古代兵器の燎原のファティマ。



 そして、街中の至る所に配置された偉大なる領主ベルリ子爵の石像たち(一部はそう見せかけだけの魔導機兵ファティマ)。

 正直なところ、それはどうなんだろうと思わなくもなかったが、なんなら住民であるハワードたちも石像づくりに賛成で、マスターなんて専用の魔法まで使って大量に作りまくっていた。


 普通に考えると一つや二つならともかく何個も、しかもなんかミニチュアサイズやデフォルメ石像なんて作るのはおかしいような気もするが、誰も気にしておらずそれどころか楽し気に作っていた。

 というかハワードのやつに至っては自分用のミニチュア石像を作ったぐらいだ。


 いくらなんでも受け入れ過ぎではないかと思わなくもないが……古代兵器の燎原のファティマ、それを打倒した僕とマスター、そしてイリージャルの存在。

 それら全ての上に立っている彼女の存在は――畏敬とか崇拝に近い対象に見られているらしい。


 なんかご神体みたいな扱いをしている奴も居た。


 ルベリティアの見た目が酷いことになっていくけど、シレっと中身の方もそれ以上に酷いことになり始めている気がする。

 いや、気がするっていうか普通にマスターが率先して後押ししてるんだけども……うん、ごめん。




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