外伝 第十一話:ファーヴニルゥ日記 その⑩


 ■月■日


 色々と考えてみたがいい案は思いつかなかった。

 そこで相談してみることにした。


 いや、確かに役目がもっと欲しいならマスターに直接聞けばいいとも思ったのだがなんとなく気が進まないというか、役に立つことをやってその成果を報告して驚かせたいというか……ともかく、内緒にしたかったのでマスターに直接尋ねる選択肢はなしの方向性で。


 そうなると相談しようにも選択肢は限られてくるわけで。


 ルベリはダメ。

 彼女の近くにはマスターが家庭教師を頼んだヤハトゥのドローンが居る。


 エリザベスは王都に行ってしまった。


 なので僕はアリアンに頼むことにした。

 この領地で最年少とはいえ、彼はとても理知的で頭がいい姉のロゼリアとは大違いだ。

 彼女はどうにも僕を敵視して鬱陶しい、弟を取られると思っているのだろうか。

 相談しにアリアンのへ会いに行ったときもたまたまロゼリアに見つかり面倒なことになったものだ、良いところを見せようと考えたのか鍛錬を名目に勝負を仕掛けて来たので軽く遊んでやってから彼に相談した。


 するとアリアンは真面目に考えてくれて「そういえば……」と前置きをしてマスターが資源について悩んで呟いていたことを教えてくれた。

 強力な労働力であるファティマたちの運用が出来るようになったとはいえ、資源がなければ出来ることということは限られてくる。

 木はそれこそいくらでもあり確保可能とはいえ、それ以外の資源の目途は特にたっていない。

 一番近い街であるオーガスタまではそれなりに距離があり、買って手に入れるのは手間と労力がかかる。


 そこで僕の出番だ。

 ベルリ領の周辺は未開拓で手付かずな自然が広がっている。

 未発見の資源だってあるだろう、それを見つけて褒めてもらうという作戦である。


 この辺りのことはモンスターを狩りに飛び回っている僕が一番詳しい、ラグドリアの湖に引き籠っていたヤハトゥも当然知らないはず。


 これならばイケるかもしれない。

 僕は確信した。


 アリアンはそう上手くいくものではないから焦らない方が……と言っていたが、目標さえ出来てしまえばやりようはあるものだ。

 思い当たる節はあるのだ。


 ■月■日


 思った通り南部の一帯に鉱物系統のモンスターが多い地帯を見つけることに成功した。

 前からチラチラと見かけていたが鉱物系統のモンスターから取れる素材は今のところ必要ないし、肉も取れないから放置していたのだが……ようやく出番が回ってきたというわけだ。


 マスターに自信満々に伝えに行くと喜んでくれて、そのまんま持ち上げられて高い高いをされた。

 ルベリは呆れたような目で眺めていたが僕は満足だ。


 ヤハトゥに対してどうだっという顔をしているとそのまま鉱脈探しに出かける手はずが決定した。

 マスターは一度決めると話が早い。


 とんとん拍子で僕とマスター、それに補佐にロゼリアとアリアンの姉弟が加わった四人で探索に行くことが決定した。

 つまりは久しぶりのマスターとのお出かけ、ピクニックというやつだ。


 二人っきりではないのが残念だけど。

 いや、まあアリアンは良いのだがロゼリアがな……。


 別に嫌いではないが突っかかってくるのが面倒だ。


 ■月■日


 今日は鉱脈探索にマスターたちと一緒と出かけた。

 結果は成功、想定よりも大規模なものを発見できたのでマスターはご機嫌だ。


 それにつられて僕も嬉しくなった。

 のんびりと探し回るのも楽しかったし、いっぱい褒められたので大変満足した。


 一緒に食べるランチも美味しかったし。

 問題点があったとしたらロゼリアがなぜか警戒するような視線で僕を威嚇してきたことぐらいか。


 ちょっとアリアンが口元を汚していたから拭ってやっただけだというのに……。

 昼食後、勝負を挑まれた。


 そういうのは後にしろとマスターの魔法の触手で絡めとられていた。


 あまり真っ当な貴族というのを知らないので何とも言えないけど、本当に彼女は貴族の令嬢だったのだろうか。

 いくら何でも喧嘩っ早くないかとアリアンにこっそり尋ねたけど、彼は困った顔をしていた。


 アリアンによると一応前はもうちょっと大人しかったというか、気が強い所こそあったものの貴族令嬢らしい振る舞いだったらしい。

 アレが本当に? と思わなくもないけど、彼が言うならそうなんだろう。

 貴族位を無くして苦労したから荒んだ結果とも考えられなくもないけど、それならアリアンも同じなのでやはり素質なのだろうか……。


 話に聞くとロゼリアと最後にまともに会ったのは彼らの両親が捕まる前、全寮制の学院に彼女が入学するために家から出た時が最期らしい。


 そして、再会があの時……。

 学院とやらで何かあったのだろうか、特に興味はないけど。


 ■月■日


 鉱石資源の採取が出来る手はずも整い、ベルリ領は空前の開拓ブーム。

 まあ、主に領における上層部のルベリやマスターの間だけの話だけど日夜どんな感じで街とか建物を作ろうか――という話をしていた。


 マスターは完全に趣味に入っており、まだ全然できていないのに道だけを先に作るように指示を出していた。

 曰く、先に道を敷いて区画を作ってから埋めていくタイプだったらしい。


 どういう意味か分からない。

 道路を敷くのは楽しいとかなんとか。


 明らかに今の規模に見合っていない街を作ろうとしているし、段々と拡張していくのがいいとは思うんだけど……マスターは「最終的にはこれぐらい必要だから」と気にせずにせっせと描いている。

 無駄に労力をかけている気がするけど、まあマスターが楽しければ僕としては全てヨシ!


 いつもなら止める立場のルベリも言葉ではあんまり暴走するなよと呆れ顔で言って言っていたが、こっそりと自分のお城のミニチュアを作っていることをマスターも僕も知っている。

 ヤハトゥのお勉強による精神的な疲れもあるのだろう、その解消にちょっと時間が出来ると考えている節がある。


 可愛らしいね。

 でも、まあ確かに家というのは大事だ。

 魔法のテントは高かった分、中も広くとても快適なのだが……どうしても限度というものはある。


 物足りないというか、ちょっと繊細な術式で作られているので変に障ることも出来ないので普通の家のように改築みたいなことが出来ないという欠点があるのだ。



 だから、ちゃんとした持ち家が建てたいなー、みたいな気分は正直わかるのだ。



 だから、僕もマスターの真似をして隣に座り羊皮紙に絵を描いていた。


 描くのは勿論僕たちの家さ。

 部屋は当然、従者なんだから同じ部屋とベッドで――ダメだった。


 マスターに却下されたのは仕方ないにしても、聞こえてしまったのかやってきたルベリに説教されるのは納得できないんだけどなぁ……。







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