幕間の章

外伝 第十話:ファーヴニルゥ日記 その⑨


 ■月■日


 この頃、とても忙しかったので久しぶりに書くことにする。


 イリージャル、そしてヤハトゥを手に入れた僕たちの領地の発展は加速度的に進んだ。


 成人した人間を遥かに超える力、持続力で動き続けることが可能で睡眠も食事も必要ない。

 人形ゴーレム魔法と違い、ヤハトゥが操ることによって細かい指示や命令の変更も随時可能な労働力。

 これほど開拓に向いたものは存在しないだろう。


 特に彼らは土木、建築作業で大きな力を発揮したのだった。

 農地については立派なものが出来ていたベルリ領だったけど、そこら辺はマスターたちは素人で特に見通しもたっていなかったからとても助かった。


 ルベリ達だけでやっていた時はそこまで必要性も高くなかったんだけど、一気に人数が増えてしまうとそういうわけにもいかない。

 人が増えるというのも善し悪し、だとマスターも呟いていた。


 住民が増えればそれだけ労働力も大きくなるけど、人が多くなれば生活をする上のコストも増えるということだ。

 食料関係はともかく、例えば寝場所や食事をするところとか衛生施設とか。

 ハワードたちの寝場所に関しては一先ずテント暮らしで済ませるにしてもずっとというわけにもいかないし、食事とか衛生施設……まあ、要するにお風呂とかなんだけどそれを領主であるルベリたちと一緒にするのは問題があった。


 マスター曰く、領主と領民の距離というのは離れすぎてもいけないが近すぎてもだめらしい。

 特にルベリは若いし後ろ盾も特にない女の子だ、そもそもベルリ家の血筋云々もハッタリでしかないただ稀有な才があるだけの庶民、そこら辺を見抜かれては面倒だというのもある。

 それに彼らの前ではルベリも僕たちだけの時のように気を抜くことも出来ないから精神衛生上のことを鑑みても、普段の生活からある程度距離を作って方が無難ではあるのだろう。


 お風呂関係とかはまあ、それ以前の問題だし。

 そんなこんなで色々と作る必要があるものも増え、どれから手を付けていくべきかと悩ませていた問題を解決したのがファティマ達とヤハトゥであった。


 元が兵器工場、軍事の関連施設だったということもありヤハトゥには土木建築などに関する知識の集積があった。

 それを使って効率的にファティマたちを動かすことによって、領民用の公衆浴場が出来たり道路なども整備したりと一日ごとに様になっていくベルリ領の様子。


 悔しいが、とても悔しいがヤハトゥたちの力を僕は認めざるを得なかった。


 ■月■日


 最近、頭を悩ませている。


 悩みの原因は勿論ヤハトゥたちだ。

 彼女たちはとても悔しいことに領地の開拓作業に大きく貢献していた。


 湖の底でジッとし過ぎていた反動か、ヤハトゥはとても意欲的にマスターたちに仕事が無いか尋ねてくる。

 いや、マスターの指示に従うのは当然のことだし出来れば命令されたいという気持ちはとてもよくわかるのだけれど、ヤハトゥと魔導騎兵ファティマたちは大抵のことは達成してしまうのが僕的には非常に不味い。


 別にマスターに困って欲しいわけではないし、悩みが解消されるのであればそれはとても良いことなのだけれど……焦りを感じてしまうわけで。


 大体、ズルいのだヤハトゥは。


 彼女の欠点と言えば本体というべき存在がイリージャルそのものなので、直接ベルリ領に来れないからそこで生活をしているマスターと共には居られないこと――ぐらいかな?

 でも、それさえもなんか通信用のドローンを作ることで解決した。

 普通に立体映像を作り出して目の前にいるようにマスターたちと会話をするのだ。

 そもそも自前の工場を持っていてそれで魔導騎兵ファティマの製造が可能なのがイリージャルなのだから、その程度の難しくないものを作るのは特に難しくもないのだろうけど……最初、そのことを知った時に嬉しくなった僕の気持ちを返して欲しい。


 とにかく、色々なことがヤハトゥとイリージャルでは可能なのだ。

 これはとてもマズイ。


 こんなことは出来ないだろうと前にマスターに買ってもらったお洒落な服を着て、マスターの目を楽しませるという役目をして見せたら、ヤハトゥのやつは何かを検索していた様子を数秒して色々な服に着替えて見せた。


 そりゃそうだよ、ただの映像だもんね。

 立体映像の服のバリエーションを変えることなんて余裕だよね。


 ぐぬぬっ、てなった。

 ヤハトゥはいつも通りのすまし顔だったけど僕にはわかる、ちょっと自慢げだった。


 ルベリは「いや、違いがわかんねーよ」とか言ってたけど絶対にそうだ。

 間違いない。


 ■月■日


 僕はマスターの一番の剣であり、従者。

 最も役に立つ存在でなければない。


 価値のない道具には意味がない。


 無論、物事には専門の分野というものがあって少なくとも開拓して領地を発展させる――という目標に殲滅兵装である僕は不向きであることは理解している。


 いや、出来ることはあるのだ。

 跡地として残っていた瓦礫の山を消し去ったり、大雑把な初期の土木工事とか日々の周囲のモンスター狩りとか……別に何もやっていないわけではない。


 僕なりに貢献はしているのは間違いないんだけど、やはり貢献度という意味では魔法を使いまくって農地の育成やりながら色々と領主としての勉強を学んでいるルベリや今は少し離れているけどマスターと魔法研究をしているエリザベスの方が客観的には高いと思う。

 モンスター狩りも今はある程度頭数も揃ってきたからそれなりに楽にはなってきたし、なんならこの辺りのモンスターなら一部を除けば魔導騎兵ファティマでも対処は可能だ、今はそっちに従事させているだけで普通に兵器である以上は相応の戦闘力もある。


 そう言った意味で僕の今やっていることは確かに貢献と言えば貢献だけど、決して変わりが存在しないとか、僕が抜けると成り立たなくなる――みたいなものではないということになる。

 それ自体は良いことではあるのだけど……僕はこのままでいいのだろうか。

 どうしても戦闘特化の僕に比べ、奴の方が色々と出来ることは向こうの方が多い。


 何か考えなくては……。


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