第百二十三話:蜘蛛の魔物・Ⅳ
「つまるところ、やつの侵食領域に対する対策なんて案外簡単なことなのだ。干渉によって魔法が崩壊するより早く叩き込む。あるいは術式に干渉してくる性質を逆手にという手段もある」
「要するに攻撃魔法が相手に届く前に崩壊してしまうのが問題なわけだ。だからこそ、俺様は攻撃魔法を覆うように防護魔法で包んだ。それが先程手を加えた部分だ。さしあたり外殻魔法とでも名付けるか」
「ともかくさっき放った魔法にはそれを守るように防護魔法があったわけだ。では、その状態で侵食領域に入るとどうなるかといえば防護魔法の術式から干渉の影響を受け、攻撃魔法の方に干渉が届くまでの時間稼ぎができると想定いたのだが……うむ、想定以上の結果だったな」
その身体に巨大な穴をあけられ、黒い霧のようなものを損壊部位から垂れ流し崩れていく
エリザベスが居ればもっと簡単だったろうが上手く言ってよかったとホッとした。
発想自体はすぐに出来たのだが上手くいくかは未知数のところがあったからだ。
とはいえ、結果はこの通り……。
「で、何か質問は?」
「よくわからないけどお前が本当に凄いのはわかったわ」
オフェリアが呆れた顔で答えた。
「ふーはっはァ! まあ、天才だからな!」
「くそっ、ムカつく笑い方をしているのに否定が出来ない……」
「あれだけ厄介だった
「というかさっきの魔法はいったい」
「ふむ、主体となる術式は≪
「≪
「攻撃魔法を弾頭状に圧縮させ防護魔法で覆って発射する魔法。対浸食領域用に作った術式だが……案外使いようによっては発展性があるのか? 外殻魔法……」
「いや、そこら辺はとりあえずおいて置いて……よくやったなディー、助かったよ」
そう声をかけて来たルベリに対し、ディアルドは軽く頷くことで答えた。
(ふーはっはァ! 確かに良い感じで終えることで来たな。これで魔物討伐も達成だ。しかもいい感じにオフェリアとルベリに花を持たせることが出来た。ファーヴニルゥがさっくりとやってしまうと彼女の立場がな……特にヘリオストルの暴走のこともある。あまりいいところがなくやってしまうと後でしこりになりそうだったから……)
だからこそ、ディアルドはわざわざファーヴニルゥに倒さないように注意しろとこっそりと言い含めていたぐらいだった。
(ペリドット侯爵家とは今後、出来ればいい付き合いをしたいところだからな。恩に着られる分は良いが、かといってあまり貸しを作り過ぎるの問題だ。何事もほどほどが大事だと俺様は知っている。何故なら天才だから)
そう言った意味でこの結末は完璧だ。
色々あったけど力を合わせて倒しました、という体裁さえ整えばどちらにとってもいい落としどころだ。
(あとは報酬の話、それと今後の付き合いの話になるだろうがそこら辺はルベリを噛ませてちょっと学ばせて――ん?)
そんなことを考えながらふとディアルドは違和感を覚えた。
「なんだ……?」
「ど、どうしたんだよ?」
「悲鳴が聞こえない」
「悲鳴……?」
「魔物は倒される瞬間、何やら信号を発する」
「えっと末期の悲鳴とかそんな感じ?」
「いや、そういうのとは違う。何というか圧縮された情報ファイルのような通信を―――」
自身の体験による経験からディアルドがそんなことを口にするのと同時に戸惑いの声が上がった。
「あれ、黒い霧が収まったと思ったら何も残ってねぇな?」
「本当に消えるんだ。魔物って」
「あれ? でも、魔物って消えても何か残すんじゃなかったっけ?」
「えっ、でも何も……」
そんな話が耳に入り、ディアルドは表情を変えた。
「おい、貴様」
「えっ、私か? 貴様って……私は侯爵令嬢たるオフェリア様の騎士団、ヘリオストルの団長にして随一の騎士であるヘルモートで――」
「そんなことはどうでもいい。こいつとはどこで出会った?」
「あの魔物と? それならこの先の洞窟の近くでだけど……ってそうじゃなくて」
ヘルモートの返答を聞くと同時にディアルドはかけ出した。
「ちょっ!? ディー?!」
「消耗もあるだろうからそこで待機。ファーヴニルゥ、来い」
「うん、わかったー!」
ルベリに声を掛けられるも彼はそう返し、代わりにファーヴニルゥへと声をかけた。
彼女は喜び勇んで近寄ってくるとディアルドに話しかけた。
「どうしたんだい、マスター?」
「嫌な予感がする。だから、その洞窟とやらを調べるつもりだが……予想が正しければ面倒なことになりそうだ」
戦っている最中、違和感が無いわけではなかったのだ。
浸食領域という魔導士殺しのような性質を持っているとはいえ、攻撃力という点においては並みだった
確かに耐久性という面では厄介ではあるのだろうが、それだけならばあまり脅威ではない。
それがディアルドとしての総評。
そう……あくまで一体の場合において――という注釈がつくが。
「厄介ではあったが浸食領域のせいか
そこになんも残さずに消えてしまった事象と絶命間近に放つ悲鳴――いや、ディアルドの「翻訳」が捉えるに情報の送信と思しき声を上げなかったことから察するに……
「つまりはこういうことだ」
「なるほどね」
ヘルモートが教えてくれた洞窟の奥。
そこに足を踏み入れ目に飛び込んできた光景は真っ白の繭と無数と言ってもいいほどの、外で見た
「なるほど、つまりはコロニーを作るタイプだったということか」
「ふーはっはァ、そういうことだな。やれやれ、縄張で大人しくしているというから大人しい魔物かと思ったら……これが解き放たれれば侯爵領がどれほどの被害を受けるか」
「じゃあ、どうする?」
「仕方あるまい。いい感じ落としどころも出来て話が終わりそうだったのだ……ここは排除と行こう」
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