第百十八話:シャーウッドの森・Ⅱ
「ですから、いけませんオフェリア様!」
「くどい! 既に決定したことです、これは! 私の騎士団が勝手な振る舞いをした以上、私が責任を取るのが筋というもの。人任せに押し付けて待っていることなどペリドットの人間がすることではない」
「しかし、御身に何かがあっては……」
などと言い争っている声が聞こえている。
争っているのはオフェリアと彼女の護衛を任せられている騎士たちの隊長だ。
「揉めているねー」
「ふーはっはァ! まあ、そうなるだろうな」
ディアルドたち一行は結局予定を変更してシャーウッドへと向かうことになった。
幸い、ラウルの街からはオルドリンへ向かうよりシャーウッドの方が違うためにそれほど時間はかからなかったが、それでもやはり到着した時には既にヘリオストルは森に入ってしまった後だったという。
それならばすぐに後を追おうという話になったのだが、そこでオフェリアが自身もついていくと言い出したのだ。
これに護衛の騎士たちは大反対した、彼らは当然ディアルドたちだけで向かうと思っていたからだ。
「僕たちだけでよくない?」
「いや、俺様たちで首尾よくヘリオストルの連中を見つけたところで話が拗れるだけだろう」
「まあ、私たちの顔も知らないだろうからなー」
「騎士たちの誰かを借りて話を通すにしても、やはりオフェリア様が直接話した方が早いし確実なのは事実だ」
「それは……確かに。でも、兄貴たちが魔物を倒しちゃえば問題はないんじゃないか?」
「うむ、まあ……それはそうなのだがな。ファーヴニルゥの力を疑っているわけではないが、魔物に関しては謎もいいからな。実際のところ、何も情報がない状態で戦いたくないのが正直なところだ」
「えっ、魔物ってそんなに危ないのか?」
「俺様もそれほど詳しくはないが、その正体不明の存在……あるいはファーヴニルゥと似たような存在かもしれない」
「ファーヴニルゥと同じようなって……もしかして」
ディアルドの言葉にルベリは息を吞んだ。
「確証はないがな。ただ、長年王国でもよくわかっていない存在だからな」
「確か倒しても遺体は残らないんだっけ?」
「ああ、高密度の魔力を固めたような
「それってもしかして」
「うん、ファティマや僕の心臓に使われているのと同じものかもしれない」
「えっ、じゃあファーヴニルゥも死ぬと身体が消えちゃうの?」
「いや、僕は生体をベースに作られているからそれはないけど……。身体の構築を魔力で賄っていたというのなら心臓部である炉心以外が消失するということはあり得るとは思う。まあ、その魔物とやらを直接見たわけじゃないから何とも言えないんだけど」
「つまりは魔物というのは古代の遺物、その残滓である可能性があるということだ。あくまで推測の域を出ないがな」
流石にファーヴニルゥに匹敵するものではない、とディアルドとて思っている。
そんなのがうろついていたら王国はおしまいだ。
とはいえ、やはり警戒に値するというのもまた事実。
(同じ古代の遺物なら負けることはないにしても後れを取る何かがある可能性は否定しきれないからな)
なのでディアルドとしては出来れば情報がない段階ではあまり当たりたくはなかった。
切り抜けられる自信はあるがむやみにリスクを負いたいというわけではない。
(事前に集められた情報も大したことはなかったからな)
シャーウッドに向かう道中、オフェリアにシャーウッドの森の怪物について知っている限りのことを尋ねたが、その結果はあまり芳しいものではなかった。
ラウルの街で情報収集をした結果と大差はなく、最初に定期的な魔草の採取の依頼を受けていた冒険者たちが消え、その状態を怪しんだ街が調査の依頼を出すも受けた冒険者たちは帰ってこず、これは何かが起こっていると考えAA級の冒険者のチームを主体にした討伐チームを編成し送り出すも――その結果は失敗、僅かな生還者以外だれも帰って来なかったという。
そして、その生還者である冒険者の証言からわかった情報もその魔物の大雑把な姿形ぐらいで大したことはわからなかった。
(闇夜に浮かぶ紅の複眼……巨躯の蜘蛛のような形態をした魔物か。話に聞くと討伐チームの中には魔導士も複数人居たとかいう話だが……それでも一方的に、か)
話では何度か魔法の攻撃を命中させたというのに、魔物にはまるで効かなかったらしい。
そのことに動揺した隙を突かれ、魔導士が殺され一気にチームは瓦解してしまったとか。
(強力なモンスターともなると下級魔法では致命傷にはならなかったりするからな、単に威力が足りなかったあるいは……)
ともかく、一番火力を出せるはずの魔導士が一番最初に殺されてしまいその後は戦いどころではなかったとか。
生き残った冒険者は後は逃げることに夢中で、それ以上のことは何も……。
(つまりはほとんど何もわかっていないわけだな、うむ。蜘蛛の姿をしている――だけではないか!)
一応、姿がわかったことでその魔物のことをシャーウッドでは――
「ですから……っ!」
「まあ、そこまでにして貰おう」
「貴方は……」
話がいい加減進まないのでディアルドはオフェリアたちの話に割って入ることにした。
「ここまで来てあまり時間を浪費しても仕方がないだろう。わざわざここまで出向いたというのにこうして話をしている間に彼らが
「そ、それはそうですが……」
「そちらの心配もわかる。だが、実際問題としてオフェリア様に直接出向いてもらうのが一番早い。彼らとしてもそれ以外の者に言われ、素直に応じるにも難しいだろう」
「確かにそうかもしれないが……なら、我々も一緒に」
「大所帯になると動きづらくなる。オフェリア様だけなら俺様たちには――≪
ディアルドがそう言って飛行魔法術式を使用して軽く飛んでみせるとどよめきが起こった。
「あれは飛行魔法……」
「本当にそんなものが……」
「まあ、見ての通り逃げる手段がある。ファーヴニルゥも使えるからいざという時には二人までなら一緒に逃げることが可能だ。それを考えると最適なのは俺様とファーヴニルゥ、そして子爵とオフェリア様の四人で森に入ることだ」
ヘリオストルは既に負傷者が出ている可能性もある。
それを考慮に入れると負傷の回復が出来るルベリが同行するのは外せない選択肢だった。
最近は植物を育てるぐらいにしか使ってなかったとはいえ、彼女の魔法の真骨頂の一つは疑似的な回復魔法として機能することなのだ。
「その通りです、よくぞ言ってくださいました。ディー、貴方は性格にはだいぶ難がありますが優秀なのは事実のようですね」
「ふっ、それほどでもない。まあ、俺様は天才だからな。まあ、とはいえそういうことだ。優先順位を示しておこう、最優先はオフェリア様と子爵の身の安全。次にヘリオストルを呼び戻すこと優先する。
「……そういうことでしたら」
ディアルドの言葉に不承不承といった形だが騎士たちは納得した。
ヘリオストルというのは侯爵領ではだいぶ知名度の高い騎士団だ、若者で構成されているということもあり彼らとしても出来れば助けてあげたいという気持ちはあるのだろう、職責としてオフェリアの身の安全の確保が優先されるだけであって別に見殺しにしたいわけでもない。
「よろしくおねがいします」
「ふーはっはァ! まっ、任せるがいい」
そんなこんなでディアルドたちは四人でシャーウッドの森へと踏み入れることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます