第百十六話:ペリドット侯爵領へ・Ⅲ
ディアルドたちが街を散策している中、一方その頃のルベリたちも街を回っていた。
別段、特に用事があったわけではないが彼らが自由にやっているのに大人しくしているというのも癪に障ったのだろう。
「街を回ります。供をしなさい、ベルリ子爵」
「あっ、はい」
オフェリアの一言で決まった。
ルベリとしても特に断る理由もなかったために二人でラウルの中を巡ることになった。
「へぇー、思った以上に大きな街だ」
「ここら辺の地理的に交易地としてちょうどいいですからね、この街は。それなりになんでもありますよ」
「なるほど……」
「それにしても随分と物珍しく辺りを見渡しているのですね?」
「私はオーガスタ以外の街は見たことがなくて」
「そうでしたの」
「それとこう……なんていうか今ベルリ領の街づくりをしているのもあって何というか興味が出て」
「ああ、なるほど。……本来、そんな興味を持つのは早いはずなんですけどね。つまりは参考になればと見渡していると?」
「そんな感じです」
「でも、参考になります? ラウルの街はそれなりに栄えているとはいえ、あくまで普通の交易地ですからあまりベルリ領の参考には」
「え? いえいえ、参考にはなりますよ? 街の区画の作り方というかそういうのにも着目するだけでも結構……」
「いえ、貴方根本的にその……センスというか自己主張というか色々と……奇抜ですし、ね?」
「……あー、はい。いえ、その……はい」
オフェリアの言葉に内心でディアルドへの呪詛をルベリは吐きつつ、話題を変えるために声を上げた。
「えっ、えーっと……そうだ。街と言えばペリドット侯爵領ってのはどんな感じなんですか?」
「ふふっ、知りたい? まあ、当然でしょうとも。参考にするのはペリドット領、随一の街であるオルドリンにしなさいな」
「オルドリンって確か今向かっているところですよね」
「ええ、そこに当主である父上が居られるのでそこでまずは顔を合わせてからシャーウッドの森の怪物の対策を……という流れになります」
「すぐには向かわないんですね」
「何事も手順というものがありますからね。それに魔物を甘く見てはいけません。貴方達がいくら
「なるほど」
オフェリアの言葉に相槌を打ちながらもルベリは思った。
(いや、でもファーヴニルゥが居るからな……ファーヴニルゥが勝てなきゃ逃げるしかない。それに兄貴も居るし)
彼女の脳裏に浮かぶのは今はルベリティアのシンボルのようになっている燎原のファティマとの戦いをしていた二人の姿だ。
(まあ、でも何かを判断できるほど詳しくないからな戦いについて……。兄貴が上手くやるだろうから合わせておこう)
魔物の討伐の関して、段取りの方はディアルドが考えるだろうとルベリは完全に丸投げのスタイルだった。
実際、モンスターとの戦闘経験も浅く、魔法が強いだけ彼女では仕方ないことではあったのだが。
「その時には時間もあるでしょうし、私がオルドリンを案内して差し上げますわ。それで少しでも気品のある相応しい領地の姿というものを学びなさい。いいですね?」
「あっ、はい」
「勢いで任せて作ったものは後で冷静になった時に酷いことになるんだz――なるのですよ?」
「なったんですか?」
「……子爵、返事」
「はい! 学ばせていただきます!」
「よろしい」
こほん、と一つ咳払いするとオフェリアは話を逸らすように口を開いた。
「まあ、それはそれとして。気になっていたのですが貴方……杖は持たないのですか?」
「杖? ああ、魔法の……ですか?」
「その通りです」
オフェリアが尋ねたのはルベリが杖を使わないことだった。
本来、魔導士というものは魔法陣の構築を正確に行うために何かしらの魔力の操作の補助するアイテムを使うのが普通だ。
基本的にそのアイテムは杖の形をしているのが一般的で、特に魔法が使える特権としての象徴として貴族はよく使うらしい。
「でも、無くても使えますよね? 必須ってわけでもないですし」
とはいえ、別にないと魔法が使えないかと言えばそういうことでもないのだ。
事実としてディアルドは素手で展開しているし、エリザベスも杖を持っているが動くのが面倒で遠くの本を取ろうと魔法を使う時はわざわざ掴んだりしない。
「それはそうですがあった方が便利でしょう?」
「まあ、それはそうですけど。今はいいかな……」
「ワーベライト様も立派な杖を持っていますし、ファーヴニルゥさんも立派な剣を持っていますでしょ?」
「あー、いやあれはそんなじゃ……」
オフェリアの言葉に訂正をしようかと悩んだルベリであったが別にいいかとやめたのだった。
彼女が言っているのはファーヴニルゥが腰に下げている剣――オーディールと名付けた剣のことなのだろうが、あれは別に杖の代わりの魔法制御媒体ということではない。
人によっては形状を変えた魔法の杖を持つものもあるが、あれはそういったものではないのだ。
あの剣はファーヴニルゥが最初にディアルドから貰った剣でそれなりに高価ではあるがあくまでも普通の剣。
(いや、なんかヤハトゥと言い合って改造して貰ってたからそのせいもあるのかな? 勘違いしたの……)
彼女的にはうっかり壊れてしまわないように、あとはディアルドに頼んで少し意匠を弄って貰ったぐらいでやっぱりただの剣には違いがないはずなのだが……。
(まあ、ポンポン飛ぶし高速移動してモンスターを殺しまくるからなぁ)
ラウルまでの道中の後半、ディアルドだけでなくファーヴニルゥも参加していた様子をオフェリアは見ていたのだろう。
あのレベルの高速の魔法術式の展開を戦いながら並列で失敗せずに行えるなど、魔法制御媒体なしでやれるわけがない――という思い込みから来るものなのだろう。
だが、彼女はそんなことを平然とやるのだ。
そんな非常識さをルベリは嫌というほどに知っていた。
(まあ、別にそこら辺は敢えて教えなくていいか)
「いや、なんでもないです」
「とにかく、魔法制御媒体は有っても少なくとも損はありません。魔力のブレが抑制されて正確性が増すのですから。だから、用意した方がいいと思いますけど」
「んー、でも本当に困ってないからなぁ」
ルベリは答えた。
別にそれは嘘ではなくただの事実だ。
元から「奇跡使い」として魔法を使っていた彼女にとって、そんなものなくても魔法は使えていたし、それは「イーゼルの魔法」を習得してからでも変わらない。
天性といえる魔法制御能力のセンスを彼女は持っていたからだ。
とはいえ、杖というのは魔導士としての象徴みたいなものなので憧れ自体は――ルベリにもあるのだが……。
「それに……」
「それに?」
「……じ、時期が来たらディーの奴がくれるって」
恥ずかしそうに顔を俯けながらごにょごにょと呟くルベリ、それを何とも言えない表情でオフェリアは眺めた。
「…………」
「……な、なんですかオフェリア様?」
「いえ、なんというか……趣味……いえ、今更か」
「ちょっ!? 変な誤解がありません? そして、それを納得しないでくださいよ!」
「そういうことなら……いっそプレゼントでも思いましたが無粋ですね。ですがちょっと面白くなってきました」
「無粋? 無粋って何ですか!? あと面白い!?」
「ふふふっ、いえなんでも……私たちお友達に慣れそうな気がしてきたぜ」
「今の私はなりたくない気分だなー!」
そんな感じでいささか硬さが取れたやり取りをしながら、二人は街を巡って適当な買い物をしながら楽しんだ。
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