第百十二話:依頼・Ⅴ
「友達になれって言われたからといって――直接相手に友達になってくださいなんて言うやつがあるか」
「うぐぐ……っ」
話を聞いたディアルドはとりあえずそういった。
真っ赤な顔をして俯きながらルベリが呻くように答えた。
「だってそう言ったから……」
「いや、なんというか比喩的な表現というか……。要するにいい感じの友好的な関係を築けるように頑張れぐらいの意味合いだったんだが。というかわかるだろう? 貴族同士で友達とかなんとかはさぁ」
「子爵は素直な子なんだよ、ディー」
エリザベスが取りなすように言うが微妙に彼女の顔も笑っているのが見て取れた。
「あー、うむ。確かにそうだったな。……それでオフェリア嬢の反応はどうだった? 報酬にいきなり友達になってくださいといわれた反応は」
「……なんかすごいポカンとしていた」
「ふーはっはァ! だろうなぁ!」
「~~~~っ! わーらーうなー!!」
溜まらず吹き出したディアルドに対し、ルベリは蹴りかかるが彼はそれを危なげなくかわした。
「ううっ、絶対変な子だと思われた……」
「まあ、それは今更じゃないか? 元から自分の銅像とか変な石像を街に作るやつ扱いだし」
「勝手にやったんだろーが! もー!」
「つまりは誤差というやつだ。変なやつがもっと変な奴になったぐらいだからな。それで? ルベリの面白おかしい失敗談は置いておいて……依頼というやつは具体的には何なのだ? 早めに対策を打ちたいから教えて欲しいのだが」
「面白おかしい失敗談っていうのやめろー! ……って受ける気なのか? まだ詳しく話してないのに」
「いや、受けるしかないだろう。報酬の話になって「貴方と友達になりたいです」とか言っておいて、いざ具体的に依頼の内容を聞いてから「やっぱやめます」なんて答えられるわけないだろう。普通に喧嘩を売っているようなものだ」
「……あっ」
「それらを含めて失敗談というわけだ」
そうディアルドに言われてルベリは初めて自身の対応の不味さに気付き頭を抱えてしまった。
「あうー」
「ふーはっはァ! まだまだ経験不足だな。まっ、誰だって最初は未熟なものだからな。天才である俺様とは違うのだ、次の糧にすればいいさ」
「ううぅ……」
「それはそれとして友達宣言は笑うが……ぷぷっ」
「おりゃぁ!」
勇ましい声と共にローキックが放たれるが当然のようにディアルドは回避し、話の続きを促すのだった。
オフェリアからの依頼の内容をルベリから聞いたディアルドは顎に手を当てながら呟いた。
「ふむ、なるほどな。つまりは彼女の目的は我々の力を借りることだったということか」
話をまとめるとこうだ。
現在、ペリドット家の治める領地のシャーウッドというところで事件が頻発しているらしい。
自然豊かな山間部の一帯でそこには魔草が多く自生している場所なのだが、そこに一、二ヶ月ほど前より怪物が住み着くようになったとか。
その怪物はシャーウッド一帯を縄張にしたらしく近づく者は誰かれ構わずに襲い掛かり、今は薬草の採取もままならない状態になっているらしい。
「だからこそ、俺様たちを……か」
「ああ、そうらしい。討伐依頼として冒険者のパーティーを向かわせたけど全部失敗に終わったんだってさ。シャーウッドってのはペリドットの領地だととても大事なところだから是非とも取り戻したいって話だからって」
「それはそうだろうね。魔草は高く売れるからね」
魔草とは魔石と同じく、魔力を含んだ物質の総称。
つまりは魔力を含んだ植物のことを表す。
これを加工することによって傷を治す薬や病気を治す薬、もっと特別な現象を引き起こす薬など魔法薬を作ることが出来たりする。
そして栽培するにはとてもコストがかかるというのもあって、基本的には自然採取なため魔草というのはとても高単価で取引される。
「へぇ……うちでも作れないかな?」
「ふふっ、話を聞いて一番に出てくるのがそれとは領主として板について来たじゃないか。とはいえ、そこら辺はまだ試したことはないな。普通の植物とはまた違った区分だろうからな」
「魔草関連はね……
「魔草は食用にならんし、魔法薬を作れる人間も居ないからな。優先順位も低くてなぁ……いや、話がそれたな。それで?」
「ああ、うん。是非ともそのシャーウッドを取り戻したいんだけどその怪物――魔物を倒すのに力を貸して欲しいって話なわけなんだけど」
「なるほど、魔物か」
ルベリの言葉にディアルドは少し眉をしかめた。
チラリと見ればエリザベスも似たような顔をしているのが目に入った。
これはそういう話なのだ。
「あのさ、魔物ってなんなわけ? モンスターとは違うんだっけ?」
「そうか魔物を知らないか。簡単に説明するとだな――」
彼は彼女へ簡単な説明を行った。
この世界には大きく区分して二種類の危険な存在がある。
一つはモンスター。
小鬼や狼、果てはドラゴンと多種多様だが種族や危険度に関わらず人を襲う危ない野生生物の総称としてそう呼ばれる。
もう一つは魔物。
こちらも形態は様々だが人を襲うことを目的とした生き物の形をした現象の総称としてそう呼ばれる。
「生き物の形をした現象?」
「ああ、そうだ。色々と見分け方はあるんだが、一番の特徴はモンスターは死ねば遺骸は残るが魔物は残らない」
「残らない?」
「うむ、霧のように霧散してな代わりに掌ぐらいの大きさの魔力の結晶のようなものだけが残る。それだけ聞いても普通の生き物と違うことがわかるだろう?」
「確かに……」
「そして、とにかくやたら滅多らに攻撃的な奴らばかりでな。生態もまるでわかっておらず、更に言えばとても強い。モンスターだとピンキリだが、魔物は大体討伐難易度が200を超えてくるのばかりで、大体の場合は出没すると厄介な事件を引き起こす――正体不明の存在」
「今回みたいに?」
「そうだな。それほど出没するわけじゃないからルベリが知らなくても無理はないが……ふむ、なるほどな。それで俺様たちを」
「そんなに強いのか?」
「一度戦う羽目になったことがあるがかなり厄介手合いだ。モンスターと違って襲うことを目的にして襲い掛かってくるというかなんというか」
「でもさ、どれだけ強いって言っても侯爵家なら軍隊とかも集めれば倒せるんじゃないのか?」
「倒せるとは思うが規模にもよるが金がかかるからな。それを考えると未だに領地を賜ったばかりで色々と支援を求めているであろう俺様たちに依頼した方が安く済むと判断したのかもしれん」
軍隊を動かして仮に倒しても使った費用はただ消えるだけだが、依頼という形でベルリ領への支援でも申し出れば縁を繋げられるし、恩に思われればむしろ得ともいえる。
なにせ仮にも
(ペリドットの思惑はともかく、少なくともこちらにやらせたいことは判明した。魔物は厄介な相手とはいえ、ファーヴニルゥが居るなら特に問題はないはず。それにこちらにしても侯爵家との伝手が出来るなら悪い話ではない。……どのみち、拒否できない依頼だというのなら――)
「ふーはっはァ! つまりは魔物退治か。楽しくなってきたなァ!」
「果てしなく不安だ……」
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