第百八話:依頼・Ⅰ



「うぉおおおおっ! ぶっ殺してやるぅ!!」


「ふーはっはァ! ふっ、反逆か……受けて立とうではないか!」


「反逆とかそういう話じゃねーんだよ、このクソボケ兄貴ィ!!」



 夜。

 昼に来訪したオフェリアたちの視察団のルベリティの案内を終え、彼女たちが持ってきていた魔法のテントの中に一度戻ったため、自由になったルベリはまるで爆発するように奇声を上げてディアルドへと掴みかかっていた。



「何なんだよ!? 何なんだよ、もー! 死ぬほど恥ずかしかったんだけど!?」


「だが、良い感じで相手の意識を逸らすことに成功しただろう? ふふふっ、今の奴らの頭の中は子爵の銅像の数々と燎原のファティマに気を取られ全く認識できていないだろう。ふーはっはァ、流石は天才である俺様の発想――流石だ」


「気づかれたくないものがあるならそれを隠すよりも、更にそれよりも違和感があり過ぎるものを用意して塗りつぶせばいいと……。確かにあの様子を見ると効果的だったのかもしれないね」


「おー、流石はマスターだ」


 蒼の天蓋。

 その一室の中で掴みかかってくるルベリを器用に相手にしながら自画自賛するディアルド、それに対してエリザベスとファーヴニルゥはそう評した。


 実際、彼の策は上手く行っていた。

 ディアルドの作戦というのはエリザベスが言っていた通り、下手に隠すよりもそれ以上に目立つもので印象を塗り潰そうといったものだった。

 大量に作って配置したルベリの石像も中々のインパクトだが、街の高台に鎮座している燎原のファティマの威圧感と言ったらとんでもないものがあった。

 あれの前では期になり過ぎてそれ以外のことに意識を割ける余地はないだろう。


「う、ううっ……。というか大体どうやってあんなに銅像を……」


〈――回答します。頑張りました。まあ、外装を変えるだけでしたからね〉


「ヤハトゥかよ!? いや、それよりも外装……?」


〈――回答します。あれは外装を弄ったファティマですので〉


「ファティマ……えっ、じゃあ動くの?」


〈――回答します。ええ、司令官が望むのでしたら――〉


「いや、望んでないです。というか、じゃあ……あの燎原のファティマは」


「修理して飛んでこさせた。別に壊れているわけではなかったしな。外装を弄ってなんか石像っぽくしたから大丈夫であろう!」


「なにが?!」


「詳しく調べたり動くところを見られなければ魔導兵器であることはバレないということだ。視察団にとってはなんかめっちゃデカい独創的なデザインの石像に過ぎん」


「……で、それを開拓し始めた領地で作った領主のことってどう思われると思う? 自分の大量の銅像も込みで」


「ふーはっはァ! そんなの決まってるであろう!」


 涙目で睨みつけてくるルベリにディアルドは答えた。





「――普通にやばいやつだろ、そいつ。もっとやることあるよね?」


「qあwせdrftgyふじこlp」


「どーどー、言葉を忘れているよルベリ」




 またもや襲い掛かろうとしたルベリを後ろから羽交い絞めにして抑えるファーヴニルゥ。

 体格差があるとはいえ相手は殲滅兵装、あっさりと抑え込まれてしまった。


「とんでもない目で見られたんだからなァ!? ずっと!」


「そりゃ、そうだろうな。だが、詳しくは聞かれなかっただろう? 誰だってあんなの作って平然とした顔をしている奴を相手に深くは聞きたくないから!」


「平然となんて全然してねぇから! 滅茶苦茶頑張って取り繕ってただけだし!」


「ポーカーフェイス上手くなったんだな、それも貴族としての必須スキル。成長したんだな、ルベリ。……まあ、顔とか耳とか遠目から見ても普通に赤かったけど」


「うがーーー!!」


「うん、揶揄うのはもうやめてあげようよ」


 咆哮を上げたルベリの様子を見ながらエリザベスはそういった。

 ちなみに彼女の味方のように振舞っているが、銅像や燎原のファティマのことも知っていたのにマナー講座でルベリを拘束していたのは彼女である。



「だって、ルベリは反応がいいから……」


「それはわかるけど」


「わかるなよ!? くそぉっ、いつの間にか用意してやがってせめてあらかじめ言えよぉ」


「だって言ったら反対するだろ?」


「そりゃそうだよ! 完全に私って変なやつじゃんか?! 銅像作りまくってるのもアレだし、なんだよ機界巨神像って! 馬鹿かよ!」


「でもアレって意外に領民の受けはいいんだぞ? その力をみんな見ているからな。ルベルティアが偉大なるベルリ子爵のお力によって守られているのが一目でわかるからな。安心安全というやつだ」


〈――同意します。中継器としての役割も完備しているので、ルベルティアの周辺での魔導ドローンの動作も使いやすくなりました。どうしても本体であるイリージャルから離れると指示が難しくなりますが快適です〉


「なんか領地の役に立ってるのが腹が立つ……っ! というかこれってあれだよね? 視察団ってことは帰って国に報告するわけで……確かに領地にとって困ることは隠蔽できるかもしれないけど、その代わりの私の風評がとんでもないことになるんじゃ」


「領地を守るために我が身を犠牲にする……実に良き領主の鏡だなァ」


 がくりっとルベリは力を抜いた。

 そのままぐでーっとファーヴニルゥにもたれかかった。


「よしよし、頑張ったねー」


「ううっ、ファーヴニルゥ……」


 とりあえず、溜まっていたうっぷんは吐き出し終えたのかひとまず収まった様子のルベリを見てディアルドは尋ねたのだった。




「それで――オフェリア・ダグラス・ペリドットはどんな女性だった?」




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