―来訪編―
第百一話:騒ぎの予感・Ⅰ
「それで順調か?」
〈――回答します。進捗状況は予定通りに進んでいます〉
ディアルドの問いに魔導ドローン越しにヤハトゥが答えた。
彼らが例の鉱脈地点を見つけ出して数日ほど経ったがルベリティアは順調そのものと言っていい具合だった。
元から
それ故にハワードたちも力を持て余している節があったので、優しいディアルドは存分に肉体労働をさせてやることにした。
鉱石の採掘に運搬、そして製錬のための高炉の建設と新たにやることはいくらでも出来た。
〈――報告します。彼らはよく働いています。やはり、褒賞を用意することを確約したのが良かったのでしょうか〉
「まあ、娯楽も特にない開拓地。仕事しかやることが無いというのも強いのだろうがな……。逃げようとしても逃がすつもりはないし」
ディアルドは今回の建築がある程度終わればハワードたちに土地と家を用意することを確約していた。
なにせ土地ならいくらでも余っている状態だったし、持ち家が出来てしまえば心情的にこの地から離れ辛くもなるのが人間というものだ。
(リソース的に余裕のできたファティマ達を回せば多少時間はかかるが問題なく可能。街を作るというのにいつまでも領民が粗末な手作りの家やテント暮らしではルベリティアの品位にも関わるからな)
どのみち、タイミングを見計らってハワードたちの生活環境は整えるつもりでいたのだ。
つまるところ、ディアルドが今回提示した褒賞は褒賞ではなかったりするのだが彼の頭の中だけで決めていた決定事項なのでそれがバレることはなかった。
「それで採掘と運搬の状況は?」
〈――回答します。総出で取り掛かっているので作業の方は順調です。初日は流石に戸惑いもあったようですが〉
「採掘労働に従事したことのあるものは居なかったからな。ふーはっはァ! それでもヤハトゥが指導と監督をしてくれたお陰で様になったようだがな。よくやったぞ、ヤハトゥ」
〈――回答します。光栄の極みです、我が主。……ですが、彼らが戸惑っていたのは別に急に採掘労働をすることになったから――というわけではなかったように見受けられましたが〉
ヤハトゥの推測通り、ハワードたちが混乱していたのは採掘労働そのものよりもいきなりあんな鉱脈を見つけてきたことの方だった。
従事したことがないとはいえ、それなりに聡い者ならあの鉱脈に眠る資源の価値もわかるだろう。
それがある日、突然に見つかったと思えば採掘労働の始まりだ。
なるほど、困惑するのも無理はない。
「ふーはっはァ! そこはあれだ! 全ては偉大なるルベリ子爵の叡智によるもの……! 底知れぬ御方よ」
なお、ディアルドはそんなハワードたちからの指摘に対し力技の「全てルベリのせい」で押し通した模様。
彼らはそれに納得し、領主への畏怖を口々に呟き、それを聞いたルベリはハワードたちの前では取り繕いつつ、目が無くなった途端に彼の脛に蹴りを入れたのはご愛嬌だ。
「ふっ、ここまでくれば大抵のことはルベリに押し付ければ納得する。いやー、流石は俺様……天才的だ」
〈――回答します。司令官の機嫌が悪くなるので程々でお願いします、我が主〉
「わかっている。何事も適量にということだな?」
あまりわかってなさそうな口ぶりでヤハトゥに返しながら、ディアルドは進捗状況の確認を続けた。
〈――報告します。仮置き場として急造した第一保管庫はすでに許容量一杯に埋まっている状況です〉
「おおっ、早いな」
〈――回答します。≪
「やはり、あの魔法は凄まじいなよなぁ……。炉の方はどうだ?」
〈区画を整備し、製錬に施設を集積して建築中です。炉の方もあまり高い性能ではありませんが当座は問題ない代物を設計、建設しています。数日後には運用も可能となるでしょう。人員については――〉
「ああ、それについては聞いている。確かハワードの部下に居たんだろう? 元とは言え……案外、掘り出し物というものあるものだ。確か名前は何といったか……」
〈――回答します。マックスという名前の住民です〉
「そうだった、そうだった。なら、そいつを中心に製錬についてはやらせてみるか。多少の失敗は問題ない、がんがんやらせて経験を積ませるのだ」
〈――拝領します。命令を受諾しました〉
「とりあえずは……これくらいか? 炉の方は動かせるようになったらじゃんじゃん動かすとして……様になってきたら建材にして街を作っていきたいな。田園風景が広がるこの景色も悪くはないが……やはり俺様には似合わん」
こうやって出来ることが増え、次に何をしようかとあれこれと考える時こそが一番楽しい時なのだとディアルドは心底に思っている。
「まあ、それはそれとして。時にヤハトゥ、ワーベライトの奴が帰ってくるのはそろそろか?」
〈――回答します。計算上はその予定ですが何か?〉
「なに、これだけの資源も取れたのだし見せびらかしてやろうかと思ってな。あとはそうだな王都の様子でも直接聞きたくてな」
〈王都の情報――ですか?〉
「ああ、問題がなければそれでいいのだが……今の王都はどこから火の手が上がるかわからん火薬庫だ。動静について気を張っておいて損はないからな。何も起こってなければ――のんびりと城作りでも楽しんでいればいいのだが……」
ディアルドが呟いた次の日――エリザベス・ワーベライトはルベリティアへと帰還した。
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