第九十七話:資源探索(鉱物編)・Ⅲ
「――っち、案外欲張りだな。いいだろう、このエメラルドの原石をやろう。だから、出すもんだして貰うか? 近くにあることまでは既にこっちも見当がついているんだ。俺様にはお前の助けを借りずに見つけ出すという選択肢だってあるのだ。貴様に許された選択肢は今この場で価値のある情報を吐き、褒美を受け取り命を生き長らえるか、もしくは……」
「……………」
「……………」
ロゼリアとアリアンはその光景をなんとも言えない眼で見ていた。
そのなんとも言えない光景というのはディアルドが地面を這いずっていた
しかも、なにを言っているのかがわからない。
「変なやつだとは思っていたが……」
「ふぁ、ファーヴニルゥ様。ディー様は一体なにを……」
そこまで変人だったかとロゼリアは素直に受け止めるも、アリアンは受け止めづらかったのだろうファーヴニルゥへと尋ねた。
すると彼女からあっさりと目の前の異様な光景の答えが返ってた。
「ああ、マスターは今情報収集をしているんだよ。出現したモンスターの種類と質からこの辺りに餌場があるのは間違いないんだけど、具体的に絞るのはちょっと難航しそうだったから。脅かして教えてもらおうとしているんじゃないかな?」
返ってきた答えにロゼリアとアリアンは顔を見合わせた。
情報収集ということはあれはどうやら会話らしい、モンスターとの意思疎通なんてそんなことが本当に可能なのだろうか。
本来であれば一笑するような内容ではあったが、ベルリ領にやってきての二人の経験が簡単にはそうさせてはくれなかった。
なにせディアルドはエリザベスと共に色々な魔法を作った実績があるからだ、そう言った魔法があると言われれば二人としては納得するしかない。
「もしかしてそんな魔法が……」
「あ、いや、魔法とかじゃ――」
続けようとしてはたとファーヴニルゥは気づいた。
ディアルドの「翻訳」に関する力は秘密にするように言われていたのに、その一端を言ってしまった……まあ、そうでもないと説明できない光景をみせたのは他ならぬ彼だったが。
それはともかくとして。
どうにかここからリカバリーする方法は……とファーヴニルゥは頭を巡らせ、咄嗟に口を開いた。
「――じゃなくて、ベルリ子爵のお力なんだ。マスターはそれを下賜されてね」
「「なるほど」」
秘儀「ルベリに押し付けてしまえ」をファーヴニルゥは発動した。
効果は抜群でロゼリアもアリアンもあっさり納得してしまった。
明らかに今の時代に見合わない超技術と神殿風の浮かぶ太古の巨大建造船、それを有する彼女ならモンスターと意思疎通を行わせる力の一つや二つ、与えられそうだな……という説得力があった。
ベルリ領の住民はなんか既にルベリのことに関しては、「ベルリ子爵だから」で納得してしまいそうな境地に入っていた。
(す、凄い……あっさり納得してくれた。マスターが「これだけはったりを利かせてしまえば後はどうとでもなる」ってこういうことなんだ……)
ファーヴニルゥは手ごたえを感じ、してはいけない学習をしてしまった。
「それにしても便利なお力ですね。モンスターと意思疎通ができるなんて……なんでいつも使わないんでしょうか?」
「なんか殺しづらくなるから嫌なんだってさ」
「まあ、話が通じるとなると確かにやりづらくはなるかもしれないな」
「確かに」
そんなことロゼリアたちと話していると交渉というの名の脅迫行為をディアルドは終わらせて帰ってきた。
「ふーはっはァ! よし、成果を得て来たぞー!」
彼の様子はご機嫌だ。
今のところ、順調に進んでいるからだろう。
「マスターどうだったんだい?」
「ああ、当たりだった。場所について知っている奴を上手く引き当てられてな、ここから東の方に少し行った先に洞窟があるらしい。その先に餌場――恐らくは鉱脈が存在する」
「確かなのか?」
「実際に行ってみないことにはわからんが……まず、間違いないだろう。これまでの鉱石系のモンスターの分布を見ても、一帯のどこかに餌場はある。……くくっ! いいなあ、どれほど眠っているのか楽しみになってきた! ここは王国の外、見つけたところでうるさく言われる筋合いもなく丸ごと俺様の――もといベルリ子爵が手に入れられる! ベルリ家に下された開拓令というのはそういうものであるからな……ふはははっ!」
「おい、こいつ今「俺様の……」って言ったぞ」
「聞こえましたね」
「そうかな? 僕には聞こえなかったよ」
「そうですね、ファーヴニルゥ様。僕も聞こえませんでした」
「アリアン?!」
「この大陸一の忠義者と名高き俺様がそんな言い間違いをするわけないであろう! これも全てベルリ子爵……ベルリ領のため――さーて、では目的地までもうすぐだ! 日が暮れると面倒だから、さっさと行くとしよう!」
そう言ってディアルドは歩きだした。
あとに続くファーヴニルゥたち。
出没したモンスターを倒しながら進んでいく、
「くそっ、モンスターも強くなってきたな」
「はい、僕の魔法もあまり効かなくなってきて……」
「それだけ栄養豊富な餌を食べたモンスターだということだ。即ち、それだけ近づいているということだ」
「……というか本当にお前たち戦わないんだな。ちょっとは手伝えばいいのに」
「応援はしている」
「してるぞー」
「そういうことじゃなくてだな」
「なに手間取るようなら手を貸すとも、必要ないと思ったから手を出さないだけだ。だが……ふむ、俺様の見立てが間違っていたのなら謝罪して援護をするべきか。泣き言も出てきたようだし」
「誰が泣きごとを言っているだと!? 時間の節約になるから手伝えというだけであって、あの程度のモンスターに負ける私ではない! 黙って見ているがいい!」
「うん、であれば俺様は天才的な応援に専念しよう」
「姉上……」
あまりにも軽々と乗せられてしまったロゼリアに、家にいた時はこんな感じだったかなとぼやくアリアンと共にディアルドたちは洞窟の入り口を発見した。
それは人の手によって作られたものではなく、自然に出来た天然物の洞窟のようだった。
「あった……」
「ふむ、どうやらここのようだな? さて、中はどうなっているか」
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