第九十六話:資源探索(鉱物編)・Ⅱ
エリザベス・ワーベライトという女の立場は実のところベルリ領においては微妙なところだったりする。
ハワードらやアリアン、ロゼリアたちは一応正式な領民という扱い。
ディアルドやファーヴニルゥも実態はともかく、対外的には子爵であるルベリの下であるというスタンスを崩していない。
まあ、ディアルドの場合、やりたい放題やっているしルベリ相手にも普通に話しているので単に対外的な関係だけでないのだろうというのは、ハワードたちを含めて領民全員薄々はわかっているのだが……それはともかく。
では、エリザベス・ワーベライトという人物がこのルベリ領においてどんな公式的な立場かというと――
「それで? あの女は信じられるのか?」
「ふーはっはァ! どういうことだ?」
「あの女は
「姉上っ!」
「ふん、アイツがそこ人間であることには変わらないだろう」
ロゼリアが言ったように彼女は言ってしまえば出向という形になる。
その点をロゼリアは指摘しているのだろう。
「貴様らがラグドリアの湖での一件に関することを隠したがっていることは知っている。王都には特に」
「…………」
「その理由については私としてもよくわかっていないのだが……つまりは都合が悪いということだろう? だが、王都に帰ったあの女はそのまま報告してしまうのではないか?」
ロゼリアの指摘はややエリザベスへの個人的な私心が入ってるところもあるが、概ねにおいて正しかった。
確かに彼女にはルベリ領への忠誠心なんて持ち合わせていないし、
普通に考えて隠さずに伝えるのが当然の行動、なのだが――
「まあ、大丈夫だろう」
「なぜ、そう思う」
「イリージャルの中の書庫を人質に取っているから」
「「あー」」
ディアルドの言葉にアリアンとロゼリアの二人の姉弟は納得したらしい。
エリザベスはそれくらいの魔法バカと言える人種だ、「ちゃんと秘密にして帰ってきたらヤハトゥに頼んで翻訳した古代の魔法術式関連の本を渡すけどどうする?」と行く前に伝えた際、彼女の目の色は言葉通りの意味で変わっていた。
まるで捕食対象を見つけた肉食獣のように。
「だから、その点に関しては問題ない。エリザベスともなればイリージャルの力を見誤るはずも無し。それなら従って得るものを得る方を選択するのは間違いない」
エリザベスという女性はそういう女だった。
「なるほど」
「まあ、確かに……」
「だから、ワーベライトが戻ってくることに関しては疑っていないのだが……」
「疑っていない……けど?」
「何か厄介ごとを――いや、なんでもない」
ディアルドの予測では今の王とは色んな意味で火薬庫だ、出来ればこちらへ帰ってくるときにエリザベスが火種を持って帰ってこなければいいと切に思うが――
まあ、無理な時は無理だからな
彼はそんなことを思いつつ立ち上がった。
「さて、休憩は終わりだ。そろそろ進むとしよう」
「お前たちはずっと休憩していたけどな」
「シルバー姉弟の力を確認していたのだ。これもベルリ子爵の命……」
「君たちには強くなって欲しいからね。じゃあ、経験値稼ぎも兼ねてモンスターを討伐しながら進もうか」
「は、はい! 頑張ります、ファーヴニルゥ様!」
「くっ、またアリアンに色目を……っ!」
「色目……?」
「ふーはっはァ! 遊んでないで行くぞー」
◆
「≪
アリアンから放たれた水の槍が目の前のモンスターへと突き刺さる。
紫色の鉱石のような鱗に覆われた大蛇のモンスター――
討伐難易度においては200前後というかなりの危険度を誇るモンスターだ、紫色の光沢を帯びた鱗は毒を帯びているとか。
並の冒険者で歯が立たないモンスターではあるが、それでも魔導士ならば優位に戦いを進めることは出来る。
アリアンの使った≪
「おおっ、効いているぞ。流石はアリアンだな!」
ロゼリアの言った通り、命中した魔法は硬質な鱗に守られた
だが、それだけ。
突き刺さりはしたものの、その勢いは半ばで消滅してしまう。
彼の今の魔法では討伐難易度200以上のモンスターに致命傷を与えることは不可能。
だとしても――
「私もこうしちゃいられない。≪
それはアリアンが一人で戦う場合の話。
姉弟だからこその完璧なコンビネーションとでもいうべき、疾風迅雷のように魔法を纏い迫るロゼリアの爪撃が、アリアンの攻撃によって弱っていた部位を強引に抉り飛ばした。
絶叫を上げる、
それを眺めながら淡々とディアルドは用意していた魔法を解き放つ。
離れた二色の二重螺旋の魔砲は狙い違わず、弱っていた
「あっ、マスター。
「むっ、しまった。うっかりしていた」
「もー、気を付けてよねー」
注意されたにもかかわらず
天才は過ちを素直に認め、謝ることが出来るのである。
「それにしても強いモンスターが増えてきましたね。それになんていうか……」
「鉱物関係のモンスターが多い……だろう? うむ、ファーヴニルゥの言っていた通りこれは当たりのようだ」
「ふふん」
彼がそう褒めるとファーヴニルゥは自慢げにドヤッとした顔をした。
ディアルドはその頭を適当にポンポンしつつ辺りを眺めた。
(モンスターが強くなってきたということはそれだけ餌場が近いということだ)
モンスターの量や質から考慮すると思ったい以上に期待できるかもしれないと彼はいささか興奮していた。
領地の急速な発展には資源がいくらあっても足りないということはない。
「それにしてもここいらのモンスターは硬いな。魔法があるから何とかなるが厄介すぎる」
「実際、剣や槍でこういったモンスターとやりあうのはだいぶ不利だからな。頑張って倒しても武器もボロボロになって儲けにならないって、冒険者の中じゃ嫌われものだ。個人で狩るのはまずいない」
「だろうな」
「倒しても素材を運ぶのも重くて大変ってのもあるらしい」
「ただ、市場価値は高いから結構な金額で取引される。だから、そういったのを専門に狙うチームの冒険者とかも居るらしいな」
「詳しいんですね、ディー様もファーヴニルゥ様も」
「ふーはっはァ! 冒険者をやっていたからなー」
「うんうん、楽しかったよね」
「そういえばそうでしたね、あはは。それにしても冒険者かー」
「なんだアリアン、興味があるのか?」
「あ、ああ、いえ。今の生活に不満があるわけではないですけど――憧れみたいのは……ほら、ディー様にしてもファーヴニルゥ様にしても冒険者として成功した代名詞みたいなものですし」
アリアンの言葉に思わずディアルドとファーヴニルゥは顔を見合わせた。
彼らからすると冒険者というのは楽しかった通過点ぐらいの気持ちだったのが、第三者から見れば伝説級のモンスターを倒してからの出世街道の驀進、冒険者ドリームのルートのように見える。
実際のところ、謀略で得たような地位なのだが。
そんなことはアリアンは露も知らないわけで憧れてしまうのも仕方ない部分がある。
「とはいえ、ベルリ領には冒険者ギルドは無いからなぁ」
「そ、そうだよね。変なこと言ってごめん」
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
「あーあ、お姉ちゃんなのに弟君泣かせたー」
「わーるいんだーわるいんだー」
「うっ、うるさい! 変態魔導s――ひゃぅんっ?!」
「すぐに拳出そうとするのやめない? 一応、貴族として淑女教育は受けて来たんだよね?」
ロゼリアの攻撃に対してオートで発動するように展開していた≪
(それにしても冒険者……か)
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