第九十四話:資源探索(鉱物編)・Ⅰ


 イリージャルを手に入れたことによって格段に労働力が増したルベリ領ではあったが、人自体はたいしていない状況には変わりはない。

 いくら、労働力は魔導機兵でかさ増し出来るといっても領地を、国を支えるのは人材だ。

 今後のことを考えれば優秀な人材はどれだけ居ても多すぎるということはない。

 その点を考えれば、アリアンとロゼリアという姉弟の価値はディアルドにとっては高かった。


 何せ二人は元は貴族の出でそれなりの教育を受けているので平民出身のハワードらより最低限の学もあり、そして何より魔導士としての才能があった。

 これは非常に大きいことだった。

 ハワードらの中の平民生まれの魔導士も確かに教えれば魔法を習得できるが正直に言ってアリアンと比べると明らかに覚えが悪かった。

 彼も家が無くなってからはまともに魔法の勉強も出来ず、ようやくルベリの地でまともに教育を受けられるようになったはずなのだが、めきめきとエリザベスの指導を受けて魔法の腕を上げている。

 単純にアリアンの才能、聡明さ、それにやる気の高さもあるのだろうが……ディアルドとしてはそれに加えて幼少期に下地をどれだけ作れたかで差が生まれているのではないかと推察していた。


(魔法が使えるのは当然と教えられ基礎を仕込まれたものと大人になってから覚え始めたのでは差が出てくるのも当然、か)


 魔法は学べば誰でも使える技術ではある。

 だが、学問と一緒でやはり幼少期の頭が柔らかい時に基礎を学ぶことが出来たかどうかで大きな違いが出てくるのは仕方ない部分があるのだろう。



「ふーはっはァ! やはり教育するなら子供の時が大事なのだなぁ」


「よくわからないけど、マスターがそう言うならそうだろうねー。はい、飲み物」


「うむ、助かるぞファーヴニルゥ」



 ファーヴニルゥがニコニコしながら渡してきた飲み物をありがたく頂き、ディアルドは少し座る位置を調整した。

 ごつごつとした岩場の感触が痛い。


「ふむ、少し場所を変えるか? もう、少し見晴らしのいい場所を――」





「いいからこっちを手伝え! そこのクソ魔導士ども!!」




 そんな二人へ向けて怒声が一つ。

 それはロゼリアの声だった。


「ふぁ、ファーヴニルゥ様……!」


「がんばれー」


「は、はい! 頑張りますぅ!」


 そして近くにはアリアンの声も。

 見ればディアルドたちの座っている岩場の下の広場で姉弟はモンスターに囲まれていた。

 黒鉄蠍アイアン・スコルピオンというサソリのモンスターの群れだ、数で言えば七体ほどに二人は囲まれていた。


「くっ、あの女め……っ!」


「ふーはっはァ! アリアンにカッコいいところを見せるいい機会だぞー? それを取ってやるのは可哀想だろうという俺様の優しさというやつだ」


「嘘だ!」


「まあ、嘘だが」


「認めるのか!?」


「だが、その程度のモンスター相手に手間取っていてはなぁ? 折角、警備隊長として抜擢したというのに俺様は不安になってきたなー? ……ちらっ」


「ええい、わかっている! この程度の相手に私が後れを取るものか! 見てろよ! ――≪戦式偽獣・狼ウォークライ・バルメディア≫」


「ああ、姉上!? ≪水流槍ウォーター・ランス≫、≪水流槍ウォーター・ランス≫」


 ディアルドの挑発に乗ってロゼリアは怒りのままに突進していった。

 それを援護するように慌てて魔法を使うアリアン。


 その様子を食べ物と飲み物を片手にファーヴニルゥと共にのんびりと観戦するディアルドは羽田から見れば間違いなく畜生であった。



                   ◆



「ふーはっはァ! まあまあだったな」


「言いたいことはそれだけかァ!!」


 黒鉄蠍アイアン・スコルピオンが全部討伐され、悠々と降りて来て姉弟に語り掛けたディアルド。

 その返答はロゼリアの鉄拳だったが、



「ほい、≪蝕ノ儀アザトース≫」


「ぐぅああああっ!?」


「姉上ーー!?」


「何故、君はそれを破壊できないのに突っ込むのか……」



 元々の用途はそれはそれは碌でもない魔法だが、完全に悪役な見た目以外は対人捕縛魔法としてはとても優秀な≪蝕ノ儀アザトース≫に絡めとられロゼリアは空中で身動きが出来なくなった。

 何とか破壊しようともがいていたが脱出できそうもないことを悟るとぐったりと力を抜いた。


「くそっ、なんでこんなにも無駄に丈夫なんだ……ぐえっ」


 暴れなくなったことを見て取るとぺいっと触手から投げ捨てられロゼリアはうめき声をあげた。

 普通にひどい扱いだが実はわりとベルリ領内では何度も行われているなのでファーヴニルゥは勿論、アリアンもあまり心配はしなかった。


「だが、まあ、よくやったのは事実だ。黒鉄蠍アイアン・スコルピオンは確か討伐難易度は確か150ほどのモンスターだ。それを二人で七体も討伐できたのだから十分と言える成果だ。特にアリアンは中々に成長したな」


「そ、そうですか」


「ああ、勿論だ。農耕人形ファーム・ゴーレムも使えるようになっていたし、それに攻撃魔法もいくつか習得していたな。成長速度を考えれば十分すぎるほどだ」


 ディアルドはアリアンを褒めたたえた。

 実際に彼の成長速度は素晴らしい、等級で言えば種位シードは確実で試験を受ければ飛ばして花位ブルームの階級はいけるかもしれないというのが彼の見立てだった。


「ふっ、当然だ。なにせアリアンだからな」


「なんで君が自慢気なの?」


「ん? 私が姉だからけど」


 ファーヴニルゥの問いにロゼリアはそう答えた。

 彼女の瞳はとても澄んでいた。


「いえ、そんな。これもワーベライト様の指導があってこそで」


「もののついでに小間使いのように雑用を押し付けられていた気がするが……」


「そ、それでもです! 色々と教えてくれましたから」


「あっ、別に否定はしないんだな」


「あっ」


 エリザベスは確かにアリアンを指導していたがあれは単に助手的な立場として優秀なのが欲しかったからだろう。

 新たな魔法術式の実験をさせるにしても、基礎が出来ていた方が都合が良いのは確かだ。

 善意が無いというわけではないが、一番に魔法の研究が来る女――というのがエリザベス・ワーベライトという女だ。

 アリアンもそこのところは流石に分かっているらしい、それでもちゃんと尊敬の念を抱いている辺り彼のいい子具合がわかるというものだ。


「そうだそうだ、あの魔女め。よくもアリアンに……」


「ま、まあまあ。姉上」


「今度会ったら――ってそういえばあの女、最近見かけないがどこにいるんだ? あの神殿にでも籠っているのか?」


「あれ、姉上は知らなかったんでしたっけ?」


 魔法の指導はともかくとして、アリアンのいい子ぶりにあれやこれやと雑用を任せるエリザベスのことを思い出し憤然とするロゼリアの言葉にディアルドは答えた。

 そうか彼女は今、ベルリ領から離れている。



 その理由は――



「ワーベライトのやつはしばしここから離れている。なんでも魔導協会ネフレインからの便りが来てな……」



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