第九十三話:都市開発・Ⅴ



「戦闘で役に立つことは勿論、僕は多岐にわたってマスターを支えてきた。土木工事をしたり、漁をしたり、料理を作ったり……とにかく色々、ね」


〈回答します。――ヤハトゥならばそれら全てを代行することが可能。端末ゴーレムはそれこそいくらでも生産可能であり、学習によってすぐに我が主の認める水準を満ただけの働きを為せるでしょう。殲滅兵装は殲滅兵装としての仕事を待っているのがよろしいでしょう。我が主の日常的なサポートは我々に任せて〉


「はー? 僕のマスターなんだけど?」


〈回答します。――我が主でもありますが?〉


「何百年も湖の底で寝てただけじゃないか。僕はそんな君とは違って目覚めてからずっとマスターに奉仕している。今回だって命じるまでもなくマスターの悩みを察して解決してお褒めの言葉も預かったし、頭も撫でて貰った。引きこもってたキミじゃ、今の時代のことについては色々わからないよねー? 僕は飛び回っているから詳しいけど」


〈回答します。――ヤハトゥとて端末ゴーレムの派遣を許可していただけるのなら、すぐにでも一帯の調査をすることは可能。貴方の代行できるだけの性能を有しています〉


「ルベリティアでの都市開発に動かせるのは回しているんだろう? マスターからの命令でさ。それをやりつつ調査もするとなると新たに資材を費やして製造する必要があるじゃないか。僕に任せて待っていればいいよ。僕が居るから事足りるからさ」


〈回答します。――そうですね、仮にモンスターの素材を大量に得ようとも鉱脈を発見しようとも加工が出来なければ意味がない。加工生産可能な工場を持つイリージャルの力がなければ何の意味も無いのですから大人しく待っておきましょう。貴方が見つけた来た資材をありがたく加工し、ヤハトゥは我が主と司令官に奉仕することにしましょう。イリージャルがないとダメですね〉




「…………」


〈…………〉




 バチバチという音が聞こえるほどにメンチを切りあっている殲滅兵装少女と軍事要塞船少女が居た。

 というかファーヴニルゥとヤハトゥだった。


「兄貴……」


「気にするな、じゃれ合いのようなものだ」


 何か言いたげな視線を飛ばしてくるルベリにディアルドはそう返した。

 どうにもファーヴニルゥはヤハトゥ、そしてイリージャルにライバル心を抱いているらしい。

 ファティマの時もだいぶあったのでわかりやすいが、いくら性能が良くてもただの魔導兵器でしかないファティマの時よりも態度が顕著になっていた。

 何せヤハトゥが先ほど言っていた通り、資源さえあればいくらでも手駒を生産することが出来る彼女は条件さえ整ってしまえばとてもできることが多い……だからこそ、ファーヴニルゥは焦っているのか。


(勝手に姿を消して宝石亀ジュエル・タートルをわざわざ探して狩ってくるなんてなかったこと行動だからな)


 基本的にはファーヴニルゥはその性質的に指示待ちの存在だ。

 今ではある程度改善して自由にやってるように見えるがディアルド第一主義は変わっていない。

 いや、それ自体は良いことなのだが……。


(そこら辺を考えるとこんな自発的な行動をするとは――ふははっ、可愛いではないか)


 それが嫉妬心であれ、であれ。

 ディアルドからすればその行動は愛でるに値する行動だ。


 彼女は自ら欲したものを手に入れるために、あるいは持ち続けるための行動なのだから。


(まあ、噛みつかれるヤハトゥには迷惑をかけることになるが……あいつもあいつで結構愉快なやつだな)


 もっとAI然としたツールのような存在かと思っていたが、付き合っているとそうでもないなとディアルドは最近考えを改め始めていた。


(そこら辺を含めて放置でいいだろう)


 わりとぶつかることの多い……というかファーヴニルゥが一方的突っかかって、ヤハトゥがクールに反論して――という形のだが、とにかく二人のやり合いにディアルドとして口出しをするつもりはなかった。

 マスターであり主なんだから上手く間を持てよ、ともルベリにせっつかれるのだがマスターであり主だからこそ下手に入れないということもあるのだ。


(まあ、未来の俺様が何とかするだろう。だって、俺様って天才だし)


 などととりあえず未来の自身に問題を放り投げつつ、ディアルドは口を開いた。



「二人ともそれまでだ。それよりもファーヴニルゥが言っていたポイントの調査の件だが――」



                   ■



「ふーはっはァ! では、行くぞぉ! 資源探索の時間だぁ!」


「おー!」


「はい! 頑張ります!」


 翌日の早朝そんなディアルドの声に応えるのは喜色満面のファーヴニルゥと緊張した面持ちで追随するアリアン。

 そして――



「アリアンと二人きりなら素直に嬉しかったのに……っ!」


「お前は相変わらずだなぁ、ロゼリア」



 チラチラとファーヴニルゥのことを気にしている様子のアリアンを悔し気な面持ちで眺めているロゼリア、計四人の姿がそこにはあったのだった。





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