第九十二話:都市開発・Ⅳ
〈疑問を述べます。――ところで城作りの話はどうなったのでしょうか?〉
「「あ」」
ヤハトゥのその一言にディアルドとルベリはハッと我に返った。
見たこともない鉱石の山、見た目も綺麗であり、ついでに不思議な効果を持つ鉱石もいくつもあって、それを解説付きで聞けるのだから童心に返ったように楽しんでいた彼らであったがようやく目的を思い出したらしい。
普通に遊んでいた、ちなみに領民の皆は当然のように働いている。
「ごほん。それで兄貴、城の建築に使うって話はどうするんだ? 結構な量があるから使えそうではあるけど」
「ふーはっはァ! 確かに面白そうな鉱石とかもたくさんあったし、特別な城を作るにはふんだんに使うのも有りといえば有りだが……」
何となく咳払いをしてから気分を入れ替え問いかけるルベリに対し、ディアルドは考え込むように顎に手を当てた。
確かにこれらの資源を使えば素晴らしい城にはなるだろうが……。
(ふむ、悩みどころだな)
圧倒的な威容を誇るイリージャルであるが、現在稼働している部分というのは実のところそれほど多くはない。
管理者不在となり、存在の維持に努め水中深くに身を隠していたイリージャルは休止状態に入っていたため、存在の維持に不必要な部分は後回しにされていた、
それは例えば魔導機兵ファティマの生産を行っていた軍需工場エリアなどだ。
休止状態に入って能動的な活動を控えていたのだから新たな生産は必要ないし、動くこともないのなら経年劣化などに対応する最低限のメンテナンスだけでいい。
そして、最低限のメンテナンスだけなら軍需工場エリア全てを稼働させる必要もないので必要最低限の維持だけに努めるだけでいい。
その結果、資材の消費は最低限で済んでいたわけだが――これからは違う。
ディアルドは当然、魔導機兵ファティマを労働力として使う気満々だった。
メンテナスさえしておけば昼夜問わずに動き続け、裏切る心配もないし、給料も食事もいらない夢の労働力……開拓の強い味方。
バリバリに働かせるつもりだし、それだけ動かすとなれば相応にメンテナンス用の資材も必要となってくると予測できる。
休止状態に入っていた軍需工場エリアも稼働させていきたいとも考えているし、そうなると活動に必要な資材の量だって増えるのは間違いない。
つまりは何が言いたいかといえばイリージャルのこの潤沢な資材は出来るだけ余裕を残しておきたい、とディアルドは考えてしまったのだ。
「ふははっ、どうするべきか」
城も大事ではあるが今後のルベリティアの開発にも色々と必要になってくるだろう、時間をかけただけあって量も種類も豊富な資材をどれくらい使うべきか……さしものディアルドとしてもすぐには結論を出せずに悩んでいるところ――
「悩んでいるようだね、マスター!」
そんな声がかかった。
「むっ、何者だ!」
「いや、声でわかるしマスターなんて呼ぶの一人しかいないじゃん。そもそもイリージャルに入れるのって限られてるし……」
様式美として乗っかったディアルドに対し、そんなルベリの突っ込みが刺さったが当然の如く彼はスルーした。
「勿論、マスターの剣であるこの僕さ」
「おおっ、昨日の昼から姿を消していたファーヴニルゥ。ファーヴニルゥではないか! 特に心配はしていなかったがどこに行ってたんだ?」
「そこはちょっとは心配……いや、まあ、要らないか」
「それは当然、マスターの悩みを解決するためさ」
そう言って少しの間、姿を消していたファーヴニルゥは自信満々に持っていた一抱えの物体をディアルドへと見せた。
「マスターが城をそろそろ作りたいなって話をしていたからね。それにふさわしいものを用意したんだ」
それはモンスターの一部だった。
色とりどりの鉱物が構成された甲羅のようなもの――ディアルドはその正体に気付いた。
「それはまさか
「うん!」
「
「鉱物を食べて成長する生態のモンスターの一種だ。特に
この場合、重要なのはそこではない。
いや、
「そうか、そういうの手段もあったな……ファーヴニルゥがさっくり倒して最近寄ってこなくなってきたからうっかり忘れていた」
モンスターの種類の中には流石は異世界と言わんばかりの身体が鉱物で出来ているモンスターなども居たりする。
そう言ったモンスターからは特別な素材が取れ、強力な武具や防具の作製に使われたりもするのだ。
この世界ではそういったモンスターたちからも鉱物資源を得ることが出来る。
モンスターは動く資源なのだ、人里離れモンスターの多いルベリ領は資源の宝庫ともいえる。
そこを忘れていた。
それに何より――
「その
「いや、違うよ。マスターはアスガルド連邦国の連中と小競り合いになるのが嫌そうだったからそっちは近づいてないよ」
「むっ、ということは……」
「このモンスターは南の方で見つけたんだ。似たようなモンスターも見かける地帯でね、前から知っていたんだけど食用には向かないから放置していたんだけど……」
ファーヴニルゥの言葉にそれはそうだろうとディアルドは頷いた。
所謂、鉱物系統のモンスターはまず食えたものじゃない、当然だが身体のほとんどが鉱物で出来ているからだ。
積極的にこちらに襲い掛かってくるならともかく、距離もだいぶ離れているのもあってその可能性も低く、食料確保を兼ねてモンスターハントをしている彼女にとってはわざわざ倒すメリットは特になかった。
だから、無視していたのだろう。
そう今までは。
「ふーはっはァ! そうかに多様なモンスターがそこには多く居るのか。つまりはそういうことだな?」
「うん、その通りだよ。偉い?」
「うむ、流石だ。頭を撫でてやろう!」
「わーい」
ディアルドが頭を撫でるとファーヴニルゥはグリグリと頭を押し付けて来た。
その様子を眺めながらルベリは口を開いた。
「えっと……どういうこと?」
「さっきも言っただろう? 身体を鉱物で構成するモンスターは総じて何らかの方法で取り込む性質がある」
「ふむふむ」
「取り込む性質があるということは、つまりはそこに鉱物があるということだ。鉱物系統のモンスターはそれ自体が確かに貴重な素材になるが――」
「そうか、そいつらが居るってことはそこに餌となる鉱物も?」
「その可能性が高くなるということだ。開拓初期はそれこそ食料や生活基盤を整えることが最優先だったが……それらはもはやある程度見通しが立った。次の段階、開発の段階に来ている今――いい機会かもしれない」
ディアルドはにやりと笑った。
「イリージャルを探していた時は古代の宝探しだったが――今回は自然の宝探し。資源探索に乗り出すとするか! まずは手始めに城作りのための建材確保のためにな!」
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