第九十話:都市開発・Ⅱ


「し、城って……あの城!?」


「それ以外の何の城があるのかは知らんが――領主がいつまでもテント暮らしというのは格好がつかないだろう」


 相応の金がかかった高級品であるとはいえ、やはり魔法のテントはテントでしかない。

 下手な庶民の家より快適ではあるが領主の住まいとしては……やはり物事には格というものが存在するのだ。


 貴族、それも子爵という爵位ともなれば。

 相応の振る舞いというものが必要になってくる。


「外から人を呼ぶときに領主がテント暮らしでは外聞が悪いだろう? 今までは余裕がなかったし、優先するべき開拓作業が多くあったから一先ず後回しにしていたが……」


 基礎的な食料などの供給に関わる農地の整備、モンスターを狩る体制の整備。

 ならびに最低限必要な水道などの生活インフラの整備も終え、そこに人の労働力と魔法の有効活用、更にファティマという整備と補給を欠かさなければ延々と動き続けられる労働力も加わり、ベルリ領には余裕が出来たわけだ。




「今までは基礎固めのようなもの……。次にやるのは領地の発展の段階だ。ここに築かれるであろう繁栄都市――の為のな」


「な、なるほど流石は兄貴だ色々と考えて――って、んん? あの兄貴、ルベリティアって……」


「何ってお前が一向に街の名前を決めないから……勝手につけた俺様がベルリ領の首都であるこの地につけた名前だが??」


「名前だが? ――じゃないんだけど!? いや、勝手につけるのはともかくルベリティアってなに!? ガッツリと私の名前が入ってるじゃん!?」


「ふーはっはァ! 自意識過剰な偉い人間が街とか土地とか川とか、そこら辺に自らの名前を入れるのは歴史的に見てもよくあることだ。気にするな」


「いや、気にするから!? それじゃあ、私がその自意識過剰な偉い人間だと思われるじゃないか。確かに考えてていい案が思い浮かばなかったから、街の名前を決めなかった私が悪かったけどさ。もっと別の――」


「もう広めたから無理」


「あーもー! やることが早いなぁ!?」


「ふーはっはァ! 天才だからなぁ!」


「それで何でもかんでも済むと……ああ、もういいや、それで。――で? そのお城作りってのは……その……」




 ルベリティアに関してはディアルドのやることだ、と悲しくも慣れてしまったため話しを切り替えたルベリだったが、彼女の様子はどこかおかしかった。

 少し恥ずかしそうに眼を逸らし、髪を弄りながら「興味はないけど一応聞いておくか」的な雰囲気を装うとしているが――


「ふっ、興味津々というやつだな!」


「べ、別にそんなんじゃねーし」


「隠す必要などない、一国一城の主となる……これにワクワクしないやつなどいるはずがない! それにルベリも年頃の少女、お城のお姫様という存在に憧れたことぐらいあるだろう?」


「そんなこと……別に」


「まだまだ欲の発散の仕方が甘いな。自身のうちから零れた憧れというのは否定するものではないぞ? まあ、それはともかく。城作りに関しては決定事項だ。やはり、領主の住まいというのは領地の格を決める指標の一つになるからな。ふふっ、ドカンと行くぞ」


「それならまあ仕方ないな。ベルリ領の今後に必要なら仕方ない。仕方ないからお城を……私のお城……えへへ」


「デザイン、大きさ、内部にもこだわりを尽くして作らなければな。俺様の居住に相応しき城を作らなければ!」


「あっ、当然のように住み着くつもりなんですね兄貴」


「俺様が城で生活しなくてどうする! 三十近くまでに頑張れるだけ頑張って軌道に乗った領地経営はルベリに全て押し付けて、俺様はあとは自由で優雅なスローライフを送るために今頑張っているのだぞ!?」


「絶対逃がさないからね、兄貴」


「ん? なんか言ったか?」


「いや、なんでもない。兄貴の城暮らしに賛成って言ったんだよ。それにしても城か……どこら辺に作るとか考えているのか?」


「そうだな、ルベリティアの北部の区画はまだ手を付けてなかったからな。そこら辺を一帯に敷地に作ろうと計画をしている。特に問題ないかヤハトゥに調べさせているのだが――」


〈報告します。――地層調査タスク終了。指定された座標の土地、その地下を調査しましたが問題となるような要因は発見できず〉


「おお、仕事が早いな。流石だぞ、ヤハトゥ」


 ルベリの肩にとまったままの小鳥型のロボ――エスメラルダをディアルドは何となく撫でた。

 特に感覚が伝わっているわけではないので無意味な行為だとわかっているのだが、それでもとても愛らしかったからだ。


〈返答します。――お褒めに預かり光栄です、我が主〉


 エスメラルダからはそんなヤハトゥの言葉が発せられた。

 言ってしまえばエスメラルダの役割はこれでイリージャル外での意思疎通を図るために用意された。


 と、いうのもヤハトゥはあくまでもイリージャルのAIのようなものでありイリージャル内はともかく、外なると出来ることは限られてくる。

 何せ実体というのは存在しない。

 いや、実体のようなものならイリージャル内でも作り出すことは可能らしいが外では無理らしい。


 そうなるとディアルドやルベリなどがイリージャルの外に出た際、意思疎通の方法が難しくなってくる。

 そこで新たに新造されたのがエスメラルダという機体だ。



 これでイリージャルの外でもヤハトゥと通信が行えるというわけだ。



「エスメラルダ――というかヤハトゥとの生活の調子はどうだ?」


「正直、滅茶苦茶助けられてる。色々と領主としてやることも多くなってきて、でも私もまだまだ新米領主だから知らないことも多くて……」


〈主張します。――司令官の業務のサポートも当然ヤハトゥのタスクの一つ。万全なフォローと為政者教練コース睡眠学習.de[188]も進行中……お任せください、我が主〉


「うむ、頼りになるな!」


「うん?? 為政者教練コース睡眠学習.de[188]?? なんか最近朝起きるとドッと疲れているような気がするのと何か関係が――」





〈命令内容の確認を行います。――我が主、ルベリティアでの城の建築タスクですが何から進めますか?〉


「ふーはっはァ! そうだなぁ……」


「おい、聞けや」





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