外伝 第八話:ファーヴニルゥ日記 その⑦
■月■日
今日、ベルリ領への侵略者たちが現れた。
それを認識した瞬間、長距離範囲砲撃魔法で消し飛ばさなかった僕を褒めて欲しい。
いくら生体兵器とはいえマスターの許可もなしに先制自発攻撃をしないのは当然と言えば当然なのだけど……それでも魔法の力を使いまくっているとはいえ、一から育てた地を無遠慮に踏み荒らされて思うところはない。
マスターに許可を得て、さっさと殲滅しようと思ったけどマスターは許可を出してはくれなかった。
彼らの理由について疑問に思ったようだ。
なら、ちゃんと生かして捕まえるからとも言ったけどマスターはそれでも首を立てには振らなかった。
理由としてはルベリに実戦経験を積ませることとあとは、
「ファーヴニルゥが出たらそれだけ終わってしまうだろうが! 俺様にもカッコいいところを寄こすがいい!」
ということらしい。
そう言われたら引き下がるしかない。
性能を疑われたのなら心外だけど、最強だから控えろと言われた従うしかない。
僕はあくまで兵器であり、従者であるのだからマスターのことを立てるのもタスクの内だ。
もしもの時に備えて空からマスターの勇姿を応援することになった。
最後にちょっと人形を破壊しただけでやることはなく襲撃は終わってしまったけど満足できた夜だった。
■月■日
件の事件の襲撃者たちはマスターの巧みな交渉術のお陰で住民となることが決定した。
色々と思惑はあるのだろうけど一番の理由は労働力だろう。
如何に魔法があるとはいえ、マスターたちだけでは開拓はいかんともしがたいものがある。
無論、快適にのんびりと広げていく分には問題はないのだろうけどそれではマスター的にはいまいちらしい。
「ふーはっはァ! 天才である俺様の領地がただの田舎街程度で許されるはずがないだろう! やるなら巨大な国にしてやるぞ!」
ということだ。
マスターの目標がそれならば僕の目標もそれになる。
応援して手伝うことが僕の役目。
それに特に不満に思うことはない。
ただ、思うことがあるとすれば僕を使えば国なんて手に入るのになー、ということぐらいだ。
■月■日
最近、僕にも直属の部下がつくことになった。
一気に領地内の人口が増加したので食料確保という意味合いもあるけど、どちらかと言えば僕の力を見せつけて反乱防止をすることの方が役割としては大きいようだ。
まあ、現状僕だけでも十分と言えば十分なわけだし。
とはいえ、これからベルリ領も大きくなって人も増えていくならそのままというわけにもいかない。
マスターたちの働きによって農地は順調なのでよほど急激に人口が増えない限り、食料の方は問題ないだろう。
だが、やはり食の幅を持たせるためには肉というのは重要な要素だ。
僕は起動してから食の大切さを学習した。
それにモンスターの素材は金になる。
今のところ、販路が特にないから比較的に高く売れる部位だけ剥ぎ取って倉庫に保管して、その他の部分は処分していたけど人数が増えるのならその無駄も減らせる。
まあ、とはいってもまずは地力を鍛えるのが先か。
彼らだけでもこの辺りのモンスターをある程度狩れるようになれば、僕ももっと自由にできるようになる。
それを一先ずの目標にするとしよう。
とりあえず、南の方の山に
危なくなったら助けるから安心して成長するんだよ。
■月■日
最近、マスターが熱中していた魔法の解析が終わったらしい。
≪
セレスタイトという人間が作ったという王国の魔法、帝国の時代の魔法と比べて程度の低いものばかりと思っていたけど認識を改める必要があると思った。
時空間に干渉する魔法というのは帝国の時代でも研究自体はされては居たがあくまでも研究対象でとどまっていた。
何故かと言われれば、単純に危険すぎるからだ。
僕の記録の中でも≪
その点を考えると時空間魔法を実用段階にまで術式を洗練したセレスタイトという人物は非凡さが伺えるというものだ。
■月■日
今日は
マスターの目的が根幹がファティマという兵器であることに関して、やはりモヤモヤとしたものはある。
だが、それはそれとして今日は楽しかった。
久しぶりにマスターとゆっくりできた。
まあ、ルベリも居たけど。
でも、湖までをのんびりと三人で歩いて行くのは楽しかった。
良い感じの棒を拾ったり、途中で出来たモンスターを三人で倒したり、あとは色んなことを喋りながら向かった。
空を飛んでいけばもっと早く着けるのにマスターはこういった非効率的なことをよく行う。
マスター曰く、効率的、合理的というのも大事だが無駄や余裕というのを嗜んでこその天才らしい。
ちょっと意味が分からない。
ただ、今日のマスターたちと湖で一緒に食べたお昼はおいしかった。
■月■日
例の湖――ラグドリアの湖と名付けられた場所で僕たちは探索作業を行うことになった。
例によって例の如く、マスターの趣味のファティマとイリージャルという存在の調査……という建前であれだけ苦手にしていた王都にまで戻り、購入してきた水着をマスターはルベリに着せていた。
マスターの一度決めたら実行する行動力は凄いと思った。
ついでに相手を持ち上げるの手腕も相当だ。
ルベリとエリザベスは実物を見せられると恥ずかしそうにしていたが、そこをマスターは勢いと絶対に似合うからという口先で押し通していた。
というかエリザベスは知っていたけどルベリって水着のことを知らなかったんだね、マスターもまだ王都あたりでの流行だって言ってたから仕方ないことかもしれないけど……。
僕がマスターと一緒にお風呂に入った時に水着に関しては見ていたはずなんだけど、あれは特別な湯浴みかなにかだと思っていたらしい。
水着は見せるものだからって、マスターが教えてくれたんだから堂々としていればいいのに。
そう言ったら「もうちょっと、兄貴の言うことを疑え」と言われた。
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