幕間の章
外伝 第七話:ファーヴニルゥ日記 その⑥
■月■日
不服だ、とても不服である。
このところの僕はそんな感情に振り回されている。
兵器である僕にとって自身の感じる好悪などというものはただのノイズでしかない、本来であれば不必要な存在であり抹消するべきノイズだが……マスターはそれを好んでいるらしい。
そのノイズを抹消するのではなく、認めて受け入れろと僕は命令された。
だから僕は命令通りにふつふつと湧き上がる感情を消去せず、発散しきれないのでこうして日記に書いている。
マ ス タ ー が 浮 気 し た ー !!
僕という
カタログスペックを見る限り僕の足元にも及ばない、向こうが仮に千機揃えて来ても余裕で勝てる程度の性能の量産機、それに比べて僕はワンオフの最高位生体兵器――だというのに、
「量産型には量産型の良さというモノがあってだな」
僕の方が強いし、性能だって高い。
それに何よりもマスター自身が僕のことをとても美しい、自慢の宝物だって言ってくれたのに。
「いや、何というかアレだ。男というのはこういう武骨さというか鉄臭さに惹かれる習性があるのだな。ふーはっはァ!」
知らないよ、そんなの!
いや、いいんだ。
賢い対終末決戦用人造人型殲滅兵装である僕はマスターを束縛したりしない、兵器である僕がマスターの自己決定権を侵害するというのはあってはならないことだからね。
だから、マスターがなにを好きになろうが何かを言うのは間違っているのはわかっているんだけど――同じジャンルの、しかも量産機に、興味を持っていかれるのはとても嫌だ。
マスターにあたることは出来ないので、今日はルベリのところで寝ようっと。
■月■日
ルベリの寝床に突撃して一晩経った。
人間はストレスがたまると他人に吐露することで発散させると聞いたので実行したが確かに効果はあったようだ。
決してマスター批判ではないけど、何ともモヤモヤすることをルベリに聞いてもらった。
彼女は眠そうな顔をしながらも聞いてくれた。
それに関してはとても感謝している。
でも、途中で「まあ、兄貴が悪いわなー」とか相槌を打ったことに関しては抗議をいれた。
いくら、ルベリであってもマスターに対する侮辱は許さないぞ。
そう言ったら「めんどくさいなコイツ」と小声でつぶやいたのを僕の耳はしっかりと捉えていた。
解せない。
やはり、夜分遅くだったから迷惑だったのかもしれない。
今日はマスターと一緒にオーガスタに買い出しに行く日だ、何かお土産を買っていくべきかな……。
■月■日
今日は久々にマスターと二人っきりの時間を過ごせた。
マスターは相も変わらずアレを気にしていたのは少し不満だったけど、楽しそうだからいいのかな……。
別にそこら辺の不満を表に出せば、色々とマスターが気を使ってくれるという事実に味を占めたとかそういうことではない。
ちょっと大人の余裕というものを習得しただけだ。
僕は賢い対終末決戦用人造人型殲滅兵装。
わざと嫉妬して構ってもらうという悪い考えなんて浮かぶはずもない。
でも、楽しかったな。
それに帰りにはちょっとしたアピールも出来た。
マスターに指示されたとおりにミッションを成功させた僕だが、ベルリ領にはまだまだ足りないものが多い。
特に人的資源というのは居ればいるほどいい、特に魔法の適性が見込めるならばなおさらだ。
だから、アリアンという子を回収することにした。
胸を張って連れて言ったらマスターは少し微妙な顔をしつつも頭を撫でてくれた、満足。
――まあ、そのまま持ち帰ってマスターと一緒にルベリにアーグル鳥のこととかも含めて怒られたけど。
■月■日
新たにベルリ領の住民となったアリアンはよく働く少年だった。
素直であり、頭もよく、マスターたちも認めるほどに魔導士としての才能もあった。
それはルベリも認めることであり、彼はベルリ領の優秀な労働力になってくれたわけだ。
つまりは僕の目が正しかったということになる。
アリアンが真面目に仕事をこなして評価されるたびに僕は胸を張った、ついでに可愛がってもやった。
カッコいいところを見せるためにちょっと強めのモンスターの狩りにも連れて行っていった。
ルベリには後で怒られたけど、僕があの程度の相手に後れを取るはずないのになぁ。
彼女は心配症だ。
彼だってちょっと返り血がかかってたけど、一撃で倒した僕にきらきらとして向けていたし……。
なんだかんだ、ベルリ領だと僕は最年少扱いだからな。
そう考えると下の立場が出来たというのは悪くはない気分かもしれない。
色々と教えて可愛がってやろうかな。
■月■日
不服だ、とても不服である。
なにが不服かというと今日、マスターとアリアンが一緒に釣りに出かけたからだ。
マスターもアリアンも特に経験がなかったから、いろいろと試してみたけどダメで最終的に魔法でどうにかしたらしいけど……なんか楽しそうに夕食の時に話していた。
僕がモンスターを狩っていた時に二人で楽しく……アリアンは敵かも知れない。
■月■日
昨日のことが納得できなかったので、今日はマスターの農作業を手伝うことにした。
まあ、マスターのやってることは魔法を使っているだけなんだけど。
僕は何となく鍬を担いで手伝いを主張してみた。
こうして書いて思い出しているとなんでこんなことをしたのだろうと甚だ疑問だ。
効率を考えれば無駄だし、その間に僕は他の作業をしていた方が領地のため――そして、それはマスターの為になるというのに。
でも、マスターはそんな僕の主張を受け入れると何故だか自分も畑を耕すとやる気になった。
意味が解らない。
とても非効率的だったけど、今日はマスターと一緒になって畑を耕した。
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