――尋問編――
第五十七話:楽しい尋問術・Ⅰ
「ふーむ、これはどうなっているのだ?」
「さて、ね。私もマジックアイテム関係は専門でも無いしね。でも、魔法を使ってきたんだよね? この人形」
「それは間違いない、下級であったが間違いなく……」
「にも関わらず、魔法陣の発生はなかった。魔法の発動と魔法陣の展開は不可分だから――」
「あっ、これ! 今のところにほら! 兄貴!」
「なるほど、人形自体に魔法陣を……ファティマと近い手法だな。それに胸部の中にあるのは――魔石か」
「これを魔力の源として、人形自体に刻まれた魔法陣を利用して魔法を使用する。理に適っている兵器だね。革命黎明軍がこんな隠し玉を持っていたなんて知らなかったな」
「兵器、か。なあ、兄貴。兄貴がファティマを欲している理由って――「かっこいいから」……ああ、うん。とりあえず、後ろを振り向いてみなよ、ファーヴニルゥが膨れ面だぜ?」
「ファーヴニルゥ……」
「ぶー」
「すまんな。これに関してはロマンだから」
「うー!」
「なんで煽ったの……」
「煽ってない。ただ俺様は正直者だから」
「正直……? まぁ、欲望に関しては正直か。それはいいとして、兄貴の理由はひとまずわかった。問題は革命黎明軍、だっけ? アイツらは何のためにファティマを――」
「知らん。だが、予想はつく大方戦力にでもしようと――」
初めての領地への侵略者を打倒した次の日の朝。
ぐっすりと快眠をとり、しっかりと朝食を食べてからディアルドたちは
「……おい」
「まあ、そこら辺だろうね。この
「魔法が使える兵器、か」
「大した魔法は使えないけどね。構成が単純な直射系統魔法が精々じゃないかな?」
「ふむ、この術式ならそうだろう。相手を捕捉するための術式も刻まれてはいるが大した精度ではないな。出来るのは精々、敵として捉えた相手に目掛けて魔法を連射し続ける程度。それも魔石の魔力が尽きてしまえば交換しないとただの置物になってしまう」
「へぇ……でも、下級とはいえ攻撃魔法が使えるってだけで私は凄いと思うけどな」
「ふははっ、確かにそうだな。現時点ではかなり欠点が多い兵器ではあるが発展性がある技術なのは確かだ。その究極系がファティマだからな、恐らくは探しているものそれが理由なのだろう」
「僕の方が強いのに……」
「はいはい」
「あっ、そういえばこの
「外見に外連味が足りないというか、なんというかちょっとごつくなったマネキンみたいなのはなぁ。俺様の趣味ではないというか」
「性能とかじゃないんだ」
「真面目な話をすれば性能よりもあの懐かしいまでのロボロボしい見た目がだな――」
「ろぼろぼ?? 僕に足りないのはそれ?」
などと予定していた今日の分の開拓作業をお休みし、和やかなムードで話を時折脱線しつつも話し合っているディアルドら四人。
「――おい!! いい加減にこっちを向け!!」
そんな彼らに女性の怒声が斜め上の方角から飛んできた。
見ればそこには昨日の夜にこのベルリ領へと侵入し捕まえられた彼らが一人残らず巨大な木に吊るされていた。
「くっ、よくもこんな真似を……!」
「いや、捕まえてから気づいたのが
それに気づいてディアルドはどうしたものかと考え、その結果このような方法を思いついたのだった。
「うむ、まことに済まないとは思っているのだがこちらも安全を確保するために仕方なく……」
「そこはいい! いや、良くはないが……それは置いておくとしてもこの下のはなんだ!?」
女の魔導士――ロゼリアの言葉にディアルドは彼らが吊るされている巨大な木の下に作られたプールのような空間、そこに蠢く無数のナニカの群れに視線を向けた。
「触手だが?」
「触手だが!?」
ディアルドの言葉にロゼリアは思わずオウム返しをした。
「この魔法はかつての超魔法文明の遺産にして叡智、遺跡より見つけた魔法の一つ。拷問魔法の一種だ」
「うーん、私の知っているどの体系の魔法にも属さない魔法だ。属性魔法の類ではない。実に興味深い……」
「その……すまん」
ルベリの可哀想なものを見る目で彼らを見た。
彼女としても止めようかとも思ったのだ、だがディアルドはやる気だったしエリザベスは見たことのない魔法術式に目を輝かせ、ファーヴニルゥは当然のように彼らに興味なし、止めることは出来なかった。
「ふーはっはァ! 貴様らは所詮は犯罪者……いや、それどころかテロリストよ! 捕まえた後にどうするかは領主であるベルリ子爵の思うが儘! ……そう! ベルリ子爵の思うが儘なのだ!」
「二度言う必要あったかな?」
「っ、口を割らせようというわけか」
「ふっ、ベルリ子爵が気が変わらないように態度は慎むことだな。でなければ貴様らをその触手の沼に落とされ、触手は一斉に襲い掛かり穴という穴が――まあ、とても大変なことになるだろう」
「私が率先的にやったみたいなことにしないでくれ??」
ルベリがそう突っ込みを入れた。
知識はないが色々と生理的に嫌悪感を覚える何やらぬたぬたとした液体を纏った職種の蠢く沼、それを用意した実行犯だと思われるのは彼女としては看過できなかった。
「ひィいいい! なんか下で動いているぅ!?」
「おい、動くな!? こっちまで揺れるだろうが!」
「穴という穴がどうなるんですか……」
「興味深いので落ちてくれると私的には嬉しいのだけど」
「悪魔か、女魔導士ィ!」
「
「ふーはっはァ! 安心しろ、痛くはないはずだ。やばそうな方の粘液の方は術式から削除しているし、多分大丈夫だろう。――身体的には」
「心の方は!?」
「……あの粘液には何か効果があるみたいだけど、その言い方だとやばそうじゃない方は残ってんじゃ――」
「くはははーっ! では、尋問を始める!」
口々に言い始めた彼らの言葉を遮るようにディアルドは言った。
彼の目は恐らく中心的な存在である銀髪の女魔導士のロゼリアとひげ面の男のハワードへと向けられていた。
「貴様らの命運はベルリ子爵の手中にあること忘れるな! ふーはっはァ! さあ、吐けぇ! どんな情報でもよい、洗いざらいに吐くのだぁ!」
「うわぁ、凄い生き生きとしている。そして、私のせいにするなと――」
「……仲間は売らないぜ」
「革命黎明軍のか? ふん、そんなのはどうでもいい。そんなのに特に興味もないしな!」
「なんだと貴様……っ!」
本当に興味なさげなディアルドの反応に彼らの中の一人が声を荒げた。
侮辱された、とでも感じたのだろう。
「ぼっしゅーと!」
そんな言葉と共にディアルドは指をスナップした。
「えっ」
それと同時にその男の吊るされていた縄がちぎれ、そのまま触手の沼の中に落下し――
「やめっ、入ってくるな……そこは――ごぼっ、がぼっ!?」
一斉に襲い掛かってきた触手の群れに呑み込まれていく男。
彼は口の中にも入ってきた触手のせいで声を出すことも出来なくなり、姿は覆い隠され後には粘着質な音が妙に一帯に残るばかり……。
「「「…………」」」
「安心しろ、窒息とかはないから」
違う、そうじゃない。
革命黎明軍の心はその時一つになったが幸いにも口にしないだけの理性が彼らには残っていた。
「一切、躊躇いがない……」
「まあ、死ぬわけじゃないしね。穏当な制裁だとは思うよ。それにしてもこれは……なるほど、へぇ……」
「あれ、もしかしてワーベライト様って魔法使って中を覗いています??」
などという緊張感のないルベリ達の声が響いていたが、絶賛色々な意味で危機に瀕している彼らにはそんなことに耳を傾けている余裕などなかった。
「ふーはっはァ! 俺様が欲しているのはファティマに関する情報だ。貴様らの組織云々などどうでもいいわ! 迷惑のかからないところでなら、魔法革命運動なりなんなり好きにやればよい! 俺様としてはファティマへの手がかりが得られればそれでいいのだ。それさえ得られるなら何だったら逃がしてやってもいい」
「……っ、本当か?」
「本来ならさっさと引き渡すべきなのだろうがな。正直、オーガスタまで運ぶの面倒だからな。かといって先ほど言った通り、今のベルリ領に牢屋なんてものもない。実害もほとんどなかったのだから、放逐するのだって有りだとは考えている。まあ、最もそれも誠意のある態度だったら――という話だがな!」
「……いいだろう」
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