第五十四話:初めての領地防衛戦・Ⅳ
こちらの夜襲が失敗した時点ですぐに先制攻撃をしようとしたことをロゼリアは判断ミスだとは思わなかった。
何せ魔導士との戦いにおいて距離というのは非常に重要であり、更に言えば相手が高所を陣取っている。
こちらが近づこうと距離を縮める間、相手は好き放題に攻撃を撃ち続けることが可能で数で優っているとはいえ不利な状況だったからだ。
それ故にすぐさまに魔法と弓矢で相手に攻撃を行い、機先を制しようという判断自体は間違いではなかった――はずだ。
光の壁が現れたと思ったら放った魔法と矢が返ってこなければの話だが……。
「くそっ、いったい何が……っ、そうだ魔法が飛んできて」
相手だってただ黙って見ているわけもない。
こちらが魔法を撃とうとしているのは見えていたはずなのだから、放った攻撃が迎撃されるなり防がれるなりなら予想も出来た。
(放ったはずの魔法が返ってくるなど想定外にもほどがある!)
あまりの予想外にロゼリアの回避は遅れてしまい、土の味を舐めることになった。
口の中に残るじゃりじゃりとした感触を唾と共に掃き出し、彼女は素早く立ち上がると周囲を見渡した。
「うぐっ、いてぇ……」
「畜生なにが」
幸いなことに直撃を喰らった者こそ居ないようだが、負傷者が何人かいるようだった。
「っ、全員無事だな? なら、早く立ち上がれすぐに追撃が――」
「もう来てる」
男の声が響いた。
咄嗟に聞こえてきた方にロゼリアが振り向くとそこには二人の男女が居た。
片方は月の明かりに照らされた灰色の髪を持った男、もう一人はフードを被った白いローブを着た女性だ。
「いつの間に……」
「ふーはっはァ!! そんなもの我らの偉大なる領主であるルベリ・C・ベルリ子爵様の魔法で、貴様らが無様に転がっている間に決まっているだろう馬鹿め!」
「この馬鹿げた高笑い……」
「そうか貴様が例のディーとかいう魔導士か」
仲間の一人が呟いた言葉にロゼリアも察することが出来た。
目の前の男こそが例の
■
「かっこよく名乗ろうと思ったのに機会を潰されてしまった……。まあ、天才である俺様が知られているのは仕方ないにしても、今明らかに高笑いだけで判別しなかったか?」
ディアルドは少しだけ不貞腐れたように隣にいるエリザベスへと話しかけた。
「まあ……仕方ないんじゃないかな?」
だが、彼女の返答は彼の求めるものではなかった。
仕方ないのでディアルドは話を続けることにする。
「どういう意味?? ――っと、それはともかくとしてだ。これが最後通告となるわけだが……大人しく捕まるのなら丁重に扱ってやる。これで力の差は理解できただろう?」
話しかけたのは銀色の短髪をした女性――ロゼリアだ。
周囲の仲間らしき男たちは軽装ではあるものの鎧をまとい、剣を持っているというのに彼女だけは様子が違う。
短剣こそ手に持っていたが鎧の類は身に纏っていないし、さらに目を引くのは左耳につけている緑色のタリスマンのアクセサリーだ。
ディアルドの見たところ、あれは魔力を増幅させる力がある類のもので彼女が魔導士の一人であることを示していた。
そして、魔導士であるなら集団の中でも影響力の高い人物なのだろうと判断するに至ったのだ。
「……この程度のことで諦めるとでも?」
「ああ、底は見れた。これ以上は無駄だからな」
ディアルドはそう答えた。
実際にルベリの実戦訓練という目的自体は≪
(「イーゼルの魔法」による時間の巻き戻し、それによる遠距離攻撃の反射魔法術式――素晴らしい成果だった)
まあ、実際は反射しているわけではないがそこは置いておくとして……かつてベルリ家はこの魔法によって伯爵の地位まで上り詰めたという。
(魔法という存在が戦いにおいて重要な役割を果たすこの世界において、魔法を含む遠距離攻撃を相手に返すことが出来る魔法など相当なチートだな)
特に軍隊での戦いに無類の力を発揮し、その強さ故に大事な国境の領地と東部開拓を任されたのがベルリ伯爵家だったという。
なにせあっちからの遠距離攻撃は全部跳ね返し、こちらからは一方的に攻撃できるのだからそれは強い。
八十年ほど前の時代、ベルリ家の勇名を知らない者は居ないとまで言われていたらしいのだが――時の流れというのは残酷ならしく、侵入者たちはまるで知らなかったようだった。
(まあ、ともかく実戦訓練は成功と言っていいだろう成功体験にもなっただろうし)
ルベリが≪
とはいえ、被害が広がって折角作った農地に飛び火されても困るし、何よりもキチンとルベリが活躍した以上、彼としても「ちょっとはいいところを見せないと……」と思い至り飛んでやってきたのである。
「っ、なんだと……?」
「ん?」
「ふざけるなよ……」
ぶっちゃけ嵌め殺しにすれば終わってしまうので怪我をしないように降伏しろ、とディアルド的には善意だったのが残念ながら伝わらなかったようだ。
ロゼリアは魔法陣を展開した。
ディアルドはその術式の内容を一瞬で『翻訳』し、対処しようとするものの。
(おっ、珍しい魔法術式……)
物珍しさから魔法の発動を許すことにした。
「≪
それはディアルドの知らない魔法だった。
術式構築からして王国の魔法であるのは確かだが、如何に天才であるディアルドとて全ての魔法を網羅しているわけではない。
(まあ、効果のほどは魔法陣の術式自体から読み取れたのだが)
≪
効果は魔法によって自らの身体を獣化させ、感覚神経の強化とや身体強化によってパワーとスピードも強化。
更にの魔力によって作られた鎧のようなものを纏うことで、防御力も上がるという近接に特化した戦闘用の魔法術式。
「またマニアックな術式を……。上級魔法に区分されるだけあって面倒な構成をしていてね。習得は諦めていたんだけど――」
ロゼリアは狼を思わせるような白い魔力のオーラに包まれていた。
そして、油断なくディアルドとエリザベスの様子を伺っている。
「ふん、慢心してこうやって私たちのところまで降りてきたのは失敗だったな。後悔させてやる。――全員立ち上がれ、敵はすぐそこにいる! 傲慢な体制主義者共が剣の届くところまで来ているのだ。剣を握って立ち上がれ!」
その檄に反応したのか周囲の仲間たちは次々に立ち上がり、魔導士らしきものは杖をそれ以外は剣を構えた。
「――あれ、私が貰っていい? ちゃんと倒すからさ」
「この中では一番の大物っぽそうだったのだが……まあ、いいか。それにしても体制主義者?」
首を傾げながらもディアルドはリングを嵌めた。
魔法を発動を助ける媒体となり、魔導杖の代わりだ。
それを複数つける。
(偶にはこういうのもしないと腕が落ちるからな)
そして、最後の指にリングを嵌めると意識を戦闘用に切り替えた。
「勝つぞ! 魔法の自由のため! 来るべき魔法革命を我々革命黎明が成し遂げるため! そのための力――伝説の古代兵器ファティマを手に入れるために!」
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