第五十二話:初めての領地防衛戦・Ⅱ
「さて、それにしても敵襲か。何とも物騒な言葉だな……何人だ?」
ファーヴニルゥの言葉に最初に反応したのはディアルドだった。
彼は彼女の言葉を疑ってはいない、故にまずはさらなる情報を求め詳細を尋ねた。
「ん、と三十二人だね。確認できる範囲では……」
「ほう、多いな。こんな人里離れた場所にそれだけの人間が?」
「うん、しかも出来るだけ気配を殺しながら近づいてきているね。僕には意味が無いけど」
「なるほど、確かに足音を殺して近づいてくるような奴にろくな目的のやつはいないからな」
気になるところがあるとしたらそれはそいつらの目的だ。
ここはハッキリ言って国の外れと言ってもいい場所だ、となると流れの盗賊団というわけではなく明確にこのベルリ領を狙っての行為と見ていいだろう。
「なあ、兄貴。もしかしてあれかな? ほら、褒賞金として貰った……」
「ふむ……。まあ、あり得ないこともないだろうな」
ルベリが言ったのは黒骸龍事件にて貰った褒賞金のことだ。
それを狙ってきた、というのは理由としては十分にあり得た。
「断定はできないが」
「えっ、でも他に狙われる理由なんて……」
「いや、結構オーガスタの街でもやったからなその報復とか」
「思い当たる節があるんだ」
「……ちょっと多すぎてわからない。そいつらが連合を組んだ可能性だってある。天才ってツライ」
「兄貴が理由の只のとばっちりだったら食事当番一週間ね?」
「うーむ、仕方ない」
ディアルドと話しているうちに緊張が解けたのか、ファーヴニルゥの発言を聞いて少し顔色を悪くしていた彼女であったが調子が出て来たみたいだ。
「あの……本当に誰かがここに……」
「だいぶ剣呑な雰囲気でな」
「どうするマスター? 僕が全て片付けてこようか?」
ファーヴニルゥの言葉につい頷きそうになったが彼は思考を巡らせた。
「いや、ちょっと待て……」
(さて、どうするべきか。手っ取り早いのはファーヴニルゥを突っ込ませてしまうことだが……)
気になるのは相手の正体だ、それこそただの賊ならそれでいいのだが悲しいことにオーガスタのチンピラたち以外に狙われる理由なら山程ディアルドには心当たりがあった。
(……出方を探る必要はあるか。それにいい機会でもある)
彼はチラリっとルベリを見ると結論を出した。
「招かれざる客だというのなら相応の対応をしなくてはな……」
■
「しかし、ここがベルリ領……なのか?」
「確かここらは旧ヒルムガルド跡地があった場所のはず、だがこれは一体」
闇夜に紛れるようにして進むハワードら一行は目に飛び込んできた光景に困惑した。
森を抜ければかつて旧ヒルムガルド跡地と呼ばれた場所のはずで、今は領地再建のためにそこを中心に開拓を行っている――というのは話に聞いていた。
だからこそ、ハワードたちはそこへ向かっていたはずなのだが……。
「なあ、本当にここなのか? 俺の聞いた話じゃ、旧ヒルムガルド跡地ってのはかつての街の廃墟とかが残っている場所……って話だったが」
「そのはずだ」
「何もないじゃないか」
集団の中の若い男が言った通りだった。
森を抜けた先にあったのは都市の残骸など欠片も見えず、広々とした土地が広がっていた。
「道を間違えたのか?」
彼らは口々に言い合った。
闇夜に紛れて近づこうとしているのに少々迂闊な行為ではあったが、それ以上に目の前の光景が想定外であったためハワードも注意しきれない状況だ。
ただ予想していたと光景と違っただけならまだしも、よく見ると色々と奇妙な部分があったためだ。
「いや、でもほら……農地があるし、ここで間違いないんじゃないのか? ……それにしても妙に広くないか? いくら開拓していると言っても」
「というか実ってる農園があるのはおかしいだろ!? 確か子爵が領地を得てからそれほど時間は――」
「待て!? あれって遠目で見えづらいが
不意に望遠鏡で周囲の状況を確認していた一人が声を上げた。
その言葉にロゼリアは眼を鋭くした。
「
バレるのを覚悟で強行突破するしかない、と心の中で呟き報告を聞こうとするもなぜか返答はなかった。
ロゼリアが不審に思い視線をやるも男は何とも言えない表情を浮かべていた。
「えっと……」
「ん、どうした? 報告を頼む」
「……畑仕事をしています」
「は?」
「いえ、ですからその……土を耕しているように見えます」
「……は??」
ロゼリアは困惑した。
近くに居たハワードも同じ気分だったのか苛立たしそうに望遠鏡を奪い取った。
「何を言っているんだ。貸せっ! ……本当だな。というかあれ
「でも、動いていますよ?」
「そりゃそうだが、
「……貸せ」
困惑した様子で望遠鏡を渡してきたハワード。
ロゼリアは無言でそれを借りて覗き込んだ。
夜も更けているが星明りのせいで辛うじて見えた先には、農地らしき場所を行ったり来たりしている大きな物体の姿が。
土を掘り起こし耕し、そして均していた。
「あれって
ハワードに聞かれるも、ロゼリアは答えられなかった。
勝手に動いている明らかに非生物の何かなど
魔導階級で
(人型ではない……生物の姿の模した
皆目見当もつかない動く何かに彼女としても答えが出せない。
「……望遠鏡越しでは結論は出せない。距離があり過ぎる」
「そうか――なんで農地を耕しているんだ?」
「私が知るか……開拓をしているから、とか?」
「……なるほど?」
そう言われるとそれしかない気もするのだがいまいち釈然としないのかハワードを首を傾げていた。
言った当人であるロゼリアとて凄い違和感を感じたのだから仕方のないことだろう。
「理には叶っている……か?
「そうなるな」
「「…………」」
一瞬の沈黙が下りた。
その沈黙を破るようにハワードは声を上げた。
「と、とにかくだ。一先ず、あの先の方に明かりの灯った場所が見える。今のこのベルリ領でそんな場所があるとしたら、それは子爵らが居るところ以外にないはずだ。だから、ここは気を取り直して目的を――」
と続けたその最中のことだった。
「――侵入者に告げる」
不意に闇夜に染まった一帯にそんな少女の声が響いたのは。
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