第四十八話:第一住民との出会い・Ⅲ
ファーヴニルゥが拾ってきたアリアンは子供ながらによく働く少年だった。
遊びたい盛りの年頃だろうに、とても素直に開拓作業の手伝いを行った。
流石に体力的なものもって力仕事は無理だが、それでもやる仕事なら腐るほどあった。
雑務の一つも肩代わりするだけで随分と効率が変わった。
少なくともディアルドは家を一軒作った甲斐はあったなと自画自賛したものだった。
「い、いえいえ! こんなのを貰うわけには!?」
アリアンが領に来て最初にディアルドがやったのは家を一軒プレゼントすることだった。
テントの方まだ余裕があるとはいえ、ただの住民であるアリアンとルベリはきっちりと区別する必要があったのと単に一度家を作ってみたかったという願望のためだ。
途中でエリザベスも加わり、何とか形にして出来たのは木製の一軒家だった。
どちらも別に建築関係の知識を持っているわけではないので形だけ整えて雨風をしのげる程度の代物であったが、一時間ほどで作ったにしてはそこそこ満足のできる仕上がりではあった。
いきなりポンと家を押し付けられ、当然のことながらアリアンは驚いたがディアルドはその反応を無視した。
「ふーはっはァ! 気にすることはない! 労働環境の整備は領主であるベルリ子爵の務めであり、そしてスーパーアドバイザーである俺様の職責の一つでもあるのだろう! ありがたく頂くといい!! ただし、感謝と称賛を忘れないように」
「私としてもちょっとやってみたかっただけだからね。それにしてもやっぱり創造系の術式は私には合わないな」
「えっと……あ、ありがとうございます! 子爵様、ディー様、それからワーベライト様!」
「アリアンは素直な子だな……。というか兄貴また職が変わってるし。まあ、いいか。とにかく土地は余ってるから好きに使っていいから無理をしないように」
「はい!」
そんなやり取りが初日にあってからというもの精力的にアリアンは働いた。
最初こそ畑を耕す
これが年齢を重ねて王国における常識というものに浸った大人だったらそうもいかなかっただろう、子供だからこその柔軟性というべきか。
「うーむ、そこら辺を考えても受け入れたの正解だったか」
「アリアンくんのことかい?」
ディアルドの呟きにエリザベスは返した。
二人して
今までは単に力仕事などをやらせているだけで必要なことがあればその都度術式を弄っていたのだが、それだと面倒なのでいっそのこと農作業に特化した
「ああ、あっさりと受け入れてくれただろう? だが、普通だったらそうはいかない」
「だろうね。王国において最も先進的な研究が行われているはずの
「いいと思うのだがな、
「戦いに特化したものなら興味も示すんだろうけどね。ふむ……ここら辺は削減した方がいいかな?」
「俺様としてはこちらの方がいいと思う。術式が軽くなる」
「なるほど、確かに――んー、でもこうなると脆弱性が……ああ、こうした方がスマートかな? うん、いけそうだ。……って、そうじゃなくてアリアンくんの話だよ。彼のこと気づいているんだろう?」
「ふむ……」
農耕用に調整された自動人形を創り上げる魔法術式、それに対してああでもないこうでもないと弄りながらも改めて水を向けられた話にディアルドは思案した。
エリザベスが言っているのはあのことで間違いはないだろう。
「アリアンが恐らく魔法を使えるであろうことか?」
「ああ、やはり気づいていたんだね」
「オーガスタからこちらへ戻る際に飛行魔法を使ったがきちんと理解していたからな」
「なるほど、それで……」
「ワーベライトの方は?」
「彼、ときどき私が魔法を使っているときとか術式を弄っている様子を盗み見していたようだったからね。単に物珍しいから見ているって感じじゃなくて、学べるものがあるかもしれないって……感じ?」
「普通の子供ならまずそんなことはしない、か」
二人が話し合っているのはアリアンの正体についてだ。
ディアルドは別に彼の身の上に関して特に問いただすことはしなかった。
彼の都市の似合わぬ落ち着きや利発さから生まれながらの孤児というわけではないというのはあっさりと見抜けた。
何らかの形で孤児になってしまったのだろうと推察できれば、無遠慮に聞くこともないと思ったし、新しく築かれている真っ最中のベルリ領において過去のことなどどうでもいいという考えもまたあったからだ。
「浮遊魔法と飛行魔法の違いが判るってことは真っ当に魔法学の勉強をした経験があるってことだ。となるとやはり貴族の出かな?」
エリザベスの言った通り、ただ宙に浮かぶだけの浮遊魔法と空を飛ぶ飛行魔法は魔法学において完全に別の存在として扱われる。
知識のない人間からすればただの「蒼穹姫」として空を飛んでいる姿を見られてもただの凄い魔導士としてしか認識されないかもしれないが、魔導士としての知識があるのならその違いは歴然として理解が出来る。
アリアンの驚きは確実に後者であったので彼が基礎の部分とはいえ正しい知識を保有しているのは間違いない、それを考慮に入れるとそう推測するのはさほど難しいことではなかった。
「だろうな。普段の言葉使いからもまともに教育を受けているのは見て取れる」
それに、と内心でディアルドは続けた。
彼はアリアンが恐らくは貴族の血筋であるのは最初から考慮に入れていた。
というのも、ファーヴニルゥになぜ彼を連れて来たのかと問を掛けた時に教えてくれたからだ。
――「彼からは高い魔力反応を検知したからマスターの助けになると思って……」
彼女曰く、一般的な平民を基準とするならかなり高い数値らしい。
そのことからディアルドとしては可能性としては頭の隅にあった。
仮にルベリのように単に才能が傑出していただけであってもそれはそれで別に問題は無いわけで……。
「――ふははっ! まあ、事情はどうであれアリアンは利発で優秀な少年だ。さらに魔導士として才能もあるかもしれないというのであればそうそういない人材だ。俺様にとってはそれで十分!」
「……まっ、そうだね。そこを探ったところで気持ちのいい話は出てきそうにないからね」
「ベルリ領は人里とは離れているし問題はないだろうさ。ただ、向こうから口を割ってくれないと魔法を教えるきっかけがなぁ……どうしたものか」
「
「割と助かってるからこういうことを言うのもなんだがいつまでいる気だ?」
「好きなだけ研究できる環境が良くて……キミに翻訳してもらった遺跡の術式研究書も面白いし、しばらくは――」
そんな風にエリザベスと言い合いながらディアルドは術式改良に意識を移した、彼にとっては突然ではあったものの性格も能力も十分に合格点であったアリアンに対するスタンスは決定していた。
言ってしまえば気に入ってしまったのだ。
なのでその正体、背後関係に関してはやや謎が残るもののそのすべてを些事だと処理することにした。
どうせここはベルリ領。
人里離れたまだまだ未開拓な辺境の地、アリアンにまつわる多少の厄介ごとがあったとしてここまで追ってくるほどのものではないだろう。
そう考えていたのだった。
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