外伝 第五話:ファーヴニルゥ日記 その④


 ■月■日


 結論から先に書くとすれば計画は多少の予想外なトラブルもあったけど、成功という形で幕を閉じた。


 あの不愉快な行おうとしていた不正がバラされ、さらに改めて僕たちが復活したドラゴンを倒したものだからメンツは丸つぶれ。

 ついでに今回の一件に関して報告に戻るエリザベス・ワーベライトにマスターが集めていた彼の家の不正の証拠をこれでもかと言わんばかり押し付けていた。


 地元の犯罪組織と通じ、そして他の貴族と連帯して行った国家に対する不正。

 それらが認められれば今回の一件も併せてお重い処分が下るだろうというのがマスターの予測だ。


 予測通りだとすれば多少は溜飲が下がるというものだ。

 それにマスター曰く、ごたごたのせいで軌道修正する羽目になったが結果的にはいい結果になったとご機嫌だった。


 マスターには僕には見えないものが見えている様だ。

 僕にはどういった理屈でうまくいくのかいまいちわからないが、後は結果を待つだけの段階なのでやれることはないとのこと。


 上手くいけばいいのだが。


 ■月■日


 最近、街の様子が少しおかしい。

 妙にざわついているというかそわそわしている。


 マスターが言うには恐らくは例の一件が影響をしているのだろうということ。

 今まで一帯の権力者として威張り散らしていた存在が中央から睨まれるようなことになったこと、ある意味で悪目立ちしていたルベリが貴族になるかもしれないという話。


 それは街の住民にとってとても刺激的な話題だったらしい。


 結果こそまだ出てはいないものの今までと違い手のひらを返したかのように親切に話しかけてくるとルベリは愚痴をこぼしていた。

 親切にしてくれるならいいのではないかと思うのだが前の時と反応が違い過ぎて気分が悪くなるのだとか。


 気にし過ぎじゃないのかなと思う。

 マスターも似たような感じで色々と誘われてるけど、楽しそうに家を出て歓待されるだけされて帰ってくるからね。


 「必死に擦り寄ってくる相手を肴に飲む酒の味は格別だ」と言っていた。


 この間も脱衣賭博やって相手の服を奪って帰ってきたし。

 僕も行きたかった。


 ■月■日


 今日、遂に正式にルベリがベルリ子爵家の貴族位を王家から授かることになった、


 つまりはただの孤児から正式な貴族へと認められることになったのだ。

 ルベリは死にそうな顔で使者として再度こっちへ戻ってきたワーベライトからの訓示を聞いていた。


 色々と特殊な事態なので大袈裟な式典などは特になかったが、ともあれ彼女はドルアーガ王国の貴族の一員となり領地すら賜ったことになる。

 そして、それ即ちマスターが自らの領土を持ったことでもある。


 ルベリはマスターの所有物なのだから、ルベリの持ち物は当然マスターのもの。

 当然の理屈だ。

 

 いまいち、実感がわいていないらしいルベリを連れ回して今日は美味しいものを一杯食べた。

 黒骸龍討伐の恩賞で莫大な額の金貨がこちらへと送られたので、マスターは金に糸目をつけずにばら撒きその日は街全体がお祭りのような雰囲気になった。


 マスターはお金を集めるのが好きだ、貯めるのも好きだ、そして使うのも好きだ。


 曰く、「別の意図もあるのだろう、だが色がついているのは悪くはない」とマスターはどこか満足そうに、受け取った大量の金貨の一部を使い豪勢なルベリの貴族位就任の祝いのどんちゃん騒ぎがまだ昼間だというのに起きた。

 


 そして――



 ■月■日


 昨日は途中で日記を書くのをやめてしまったので続きを書くことにしよう。


 ルベリはオーガスタの住民による歓待を受けることになった。

 それは昼間からのおよび、元からマスターからキチンと言い含められていたルベリは態度こそ温和だったが、決して舐めれないようにあくまでもこちらが上位者だ――というハッタリを利かせながらなんとか対応していた。


 根が素直というかなんというか。


 そんな彼女を尻目に僕とマスターは夜になって動いた。

 黒骸龍事件を発端とした今回の一件、その結果はサーンシィター家の権勢に衰えが見えた結果となった。

 今までは持ちつ持たれつ、いい関係を気付いていた自らの庇護者ともいえる貴族家の危機。

 これまでの恩があるから力を貸してやろうだなんて……殊勝なことを考えるはずもなく、彼らはさっさとオーガスタから離れようとしていた。

 王都からの査察が入る前に有り金を持って別の場所で再起しようということなのだろう、動き出しが早かったことからやはり広範に伝手を持った犯罪組織のようだ。


 彼らは王都からの本格的な査察が入る前に逃げ出そうと準備を進め、ルベリの爵位就任をきっかけに決心して騒ぎに乗じて――


 そこを謎の襲撃者に襲撃されて跡形もなく消えることになる。


 まあ、謎の襲撃者って僕とマスターのことなんだけど。

 それというのも元々マスターはオーガスタ一帯に根を張っているこの犯罪組織に目をつけていた。


 いや、正確に言うべきならその犯罪組織が貯めこんでいる財貨に目をつけていたというのが正しいのかもしれない。


 マスターもよく言っていた。

 「ふーはっはァ! やはり金を奪うなら悪人からが一番よ! 後ろ暗い金だから懐に放り込んでもバレづらいし、悪人から金を奪うという行為が善行した気にもなれる。気分よく実益を抑えられるならこれに勝るものはなし!」と。


 今まではサーンシィター家が裏に居たのであまりちょっかいをかけ過ぎると面倒なことになりかねないので様子を見ていたらしいけど、そのサーンシィター家ももはや家の取り潰しさえ王都では話が出ているのだとか。


 つまりはサーンシィター家を気にする必要がないということ。

 自由に処理をしていいということだった。


 マスターは彼らが趨勢を確認しつつ、いつでも逃げれるように準備を進めていたのを掴んでいた。

 そして、監視を続け今日動くこと察知して僕を伴って出陣したのだ。


 彼らは持てるだけの財貨をもって夜の闇に紛れて街を出た。

 そこを僕は襲撃したのだ。


 逃走の為に証拠となりそうなものは隠滅し、拠点も放棄した彼らをその道中で消し去ってしまえば調査されたところで彼らはうまく逃げおおせてしまったという結論になるだけ。

 全部、犯罪組織に罪を着せつつ僕とマスターの手元には安全安心な大量の財貨が手に入るということわけだ。



 結果として記すならば襲撃は成功。

 僕が居るのだから当然だけど逃げようとしていた彼らは誰一人生かして逃すことなく処理をしたので問題はない。



 彼らはマスターの個人的な懐を温めてくれた。

 感謝しかない。

 明日の朝までは存在を覚えておくとしよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る