外伝 第四話:ファーヴニルゥ日記 その③
■月■日
今日、マスターの所有物が増えた。
ルベリという少女だ。
少女と言っても僕よりは年長だが、僕の方がマスターのモノ歴は長いのでこちらの方が立場は上だ。
そこのところはわかって欲しい。
それはともかくとして彼女はあのマスターを侮辱してきた男を貶め、そしてマスターの望みをかなえるために必要な人材らしい。
僕が一番マスターの役に立てるのは当然としても、マスターの役に立える所有物が多いに越したことはない。
マスターが決めた以上、僕から言えることはないので協力してマスターを支えることにしよう。
■月■日
ルベリは料理が出来た。
掃除も出来た、洗濯も出来た。
計画の為に色々と大変なことを一気に教えられたにも関わらず、彼女は意外にもタフなのか諸々の準備のために家から離れたマスターの代わりに家事を進んで行った。
現実逃避のためか、あるいは受け入れるために精神の均衡を保とうとしからこその行動か。
そこら辺のことは良くはわからないけど、僕にとって重要なのはルベリは家事が出来たということだ。
無論、それは所謂専業でやっている者からすれば拙いものなのかもしれないがそれでも少なくとも僕よりかは料理も掃除も洗濯も手際が良かったのは確かだった。
彼女曰く、自分でやるしかなかったから最低限は自然と身についたという話だが……重要なのは僕のそれらのスキルはその最低限にさえ届いていないということ。
いや、でも僕は討伐依頼でマスターの役に立っているし。
強さなら負けない。
それに他の家事とかだってすぐに……でも、他にも覚えるのがたくさんあって。
むむむっ。
とりあえず、僕の正体について説明されたのにいまいち信用している感じではなかったので、マスターの指示により僕の強さについてわからせることに。
今、夜だけどモンスターの巣に彼女と一緒に飛び込んで戦えばいいかな。
彼女は元気に悲鳴を上げていた。
■月■日
計画の為にルベリは詰め込み教育で魔法を教えることになった。
見栄えがいい魔法が一つでいいから使えればいいのだ。
幸い、彼女は先天的な魔法の資質保持者だ。
魔力の質としても術式には適合しているので問題なく使えるようになるはずだ。
今まで覚えたこともない知識を詰め込まれるので大変かもしれないがマスターの為になるのだから喜んでするべき。
魔法の勉強に詰まった時、ルベリは気分転換に軽食を作っていた。
マスターの家の厨房で、しかも野菜や保存肉も調味料もマスターのモノなのだが勝手に使っている。
一応、マスター自身が好きに家の物は使っていいといっていたので勝手というわけでもないかもしれないがそれでも結構彼女は図太いのかもしれない。
それはともかくとして、これはいい機会でもあった。
僕にもマスターの所有物としての先任であるというプライドがある。
ここで技術の一つでも盗み取ってやろうと思いつつ観察していたら、気づかれてちょいちょいと手招きされて近寄ったら何故か一緒に作る羽目になった。
別に一緒に作りたかったわけではないが、技術の習得という意味ではこちらの方が都合がいいのでルベリに教わりながら野菜の皮むきについて学んだ。
彼女は僕の体躯を見て年下の子供を扱うような態度で接してくる。
殲滅兵装としての力の一部は見せつけたはずなのだが、どうして怖がらないのかと尋ねてみた。
別に怖がって欲しいわけではないのだが、あまりにも普通というかむしろ甘いぐらいの態度で接してくるので対応に困るのだ。
そうするとルベリは困ったように頬をかきながら「最初は確かに怖かったけどあんなのを見ちゃな……」と呟いた。
彼女の言う「あんなの」とは何なんだろうか。
特に思い当たる節が無い。
ルベリと一緒に夜間飛行をしてからのモンスター狩りをした後、僕がやったこととは特にはなかったはずだ。
精々、いつも通りにマスターに買って貰った風車のおもちゃで遊んでいたくらい。
もしや、風車のおもちゃを狙っている……?
■月■日
マスターに買ってもらった風車のおもちゃについて、狙っているのなら無駄だぞと僕はルベリに宣言した。
すると彼女は笑って「盗らないよ」と言った。
盗らないのなら……まあいいか。
でも、そうするとなぜ僕に優しいのかがわからない。
まあ、嫌ではないのだが。
あと、それはそれとしてマスターのことを「兄貴」と呼ぶのは何故なのだろうと思い尋ねてみた。
ルベリは少し困ったように顔をして答えた。
「恩人ってことになるんだろうけど、いい感じに気安いというか。固い態度を取られるのもなんか嫌そうだったから。あとはまあ……ノリ?」らしい。
確かにマスターが好みそうな呼び名ではあるなと何となく思った。
■月■日
今日はいよいよ計画実行の日である。
色々と忙しくなると思うので夜には書けないだろうと思い、先に書いておくことにした。
マスター曰く、今日の計画が上手くいけばマスターの野望に大いに近づき、失敗したらその時はその時でこの街から出て再起する予定らしい。
僕としてはマスターについていくだけなのでどちらも大して変わらないが、マスターの望みが叶う方が断然いいので頑張りたいところだ。
とはいえ、順調に進めば僕の役目はないらしいけど……。
仕方ないんだ。
マスターが欲しているのは社会的身分を持った所有物なのだから、そういった意味では僕は適性が無い。
とても悔しい。
悔しいけど計画自体は……成功はして欲しいなぁ。
マスターの楽しそうな笑い声は聞いてるとなんだか楽しくなるんだ。
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