外伝 第三話:ファーヴニルゥ日記 その②


 ■月■日


 最初こそ失敗を重ねたものの、多くの犠牲の果てに僕は何とか「手加減」を知ることが出来たと思う。


 言い訳になるかもしれないが元より「対終末決戦用人造人型殲滅兵装」として生まれた僕にとってそんな概念は不必要なものだった。


 そもそもが僕が投入されるという判断がなされた時点で、全てを灰燼に帰すという決定がなされた上での運用になるわけだ。

 その機能を十全に発揮するために味方との連携なども想定しておらず、全方位の敵を孤軍で薙ぎ払うことこそ殲滅兵装としての僕の意義、そもそも殺した相手の遺体を気にして戦うことなどあり得ない。

 つまるところ自らの力をセーブしながら戦うなど設計思想の中に入っていなかったのだと思う。


 初めから機能として付いていないのだから僕はそれを経験として体得するしかなかったわけだ。


 ここら辺は学習によって成長することが可能な生体兵器として作られたことが幸いした。

 搭載されていた魔法兵装だと強力すぎるので今の僕の戦闘スタイルは剣による物理攻撃を基本としている。


 マスターが僕にわざわざ買ってくれた剣が大活躍だ。

 魔法で耐久性だけを強化して後は加速魔法を使って一振り――ここら辺で見かけるモンスターならこれだけでいいとわかった。


 血がかかる前に通り過ぎれば汚れる心配もない。

 段々とコツをつかんできたのでこれからはもっと上手にやれるように頑張るぞ。


 ■月■日


 最近はとても調子がいい。


 最初の頃の失敗が無かったかのように僕はモンスターを上手に殺せるようになった。

 ギルドの発行しているモンスターの解体の手引書なども参考にし、素材を出来るだけ傷つけずに剥ぎ取ることも出来るようになれたと思う。


 今日も大量に素材を手に入れることが出来た。

 これを売ればまたお金に変わりマスターの懐を潤すことになることだろう。


 兵器である僕にとって財貨という存在はあまり必要性のものだが、お金という存在が最近結構好きになったことに気付いた。


 なにせ、マスターは僕に殲滅兵装としての運用をさせてはくれない。

 そのため、マスターへの確かな貢献が出来ているのかという不安があるのだ。



 僕はマスターの所有物であり、マスターのために存在している。

 役に立たないモノに価値などはない。



 それは絶対のルールだ。

 だからこそ、不安になる。



 そう言った意味でお金という数値化できるわかりやすい指標はとても重宝する。

 たくさん稼ぐことは善であり、金額が大きくなればより僕はマスターに貢献できたと言えるから。


 ■月■日


 今日も今日とてマスターと一緒に依頼を受けて外に出て、沢山モンスターを狩って素材を集めてギルドに帰って売り払う。


 その繰り返し。


 最大限の手加減をしていてもそれでも僕の性能は目立つから悪目立ちを嫌うマスターの意向で、他の同業者に見つからないように最近は少し遠出をするようになったがこれも悪くない。


 行った先でご飯を食べるためにマスターは「おべんとー」を作る。


 味にうるさいとまでは言わないがマスターの料理を作るときは妙に凝る癖がある。

 雑な時はとても雑に切って煮て焼いただけの料理も出てくるのだが、「おべんとー」を作るときは早起きして見たことのない調理をする。


 マスター曰く、時たまに無償に作って食べたくなるらしい。


 この間作ってくれた「きゃらべん」というのが僕はお気に入りだった。

 色とりどりの食べ物で限られた箱の中に絵を作るのが「きゃらべん」というものらしい。


 その時の「きゃらべん」の絵は僕だった。

 妙に満足気な顔でマスターは「おべんとー」を開けて説明してくれた。


 朝早く起きて作った大作らしい。

 なるほど、言われてみれば確かにそうとわかるほどに「きゃらべん」の完成度は高く、お昼のご飯だというのに食べるのが勿体なくて困ってしまった。


 そんなこちらの様子を気にすることなく、マスターはさっさと自分の分を食べてしまったので僕も諦めて食べることにしたがちゃんと記憶領域に中に映像として保存している。

 ばっちりだ。


 それから味もとても美味しかった。


 何となくふわふわした気分になり、その日の討伐依頼も終えて今日は後は帰るだけになったのだが――




 その後、その日を台無しにするようなとても嫌なことが起こった。




 ■月■日


 書いているうちになんとなくムカムカして途中までしか書けなかったので、昨日のことまで含めて今日は書こうと思う。


 昨日の終わり、討伐依頼を報告するためにギルドに訪れた時のことだ。

 見かけるとマスターに絡んでくる嫌な奴にあった。


 たいした力もないくせに態度だけは偉そうな……この辺一帯の有力者の家の出の男だ。

 マスターに張り合っているのかちょくちょく絡んで無礼なことを言ってくる。


 その度に殺したくなるのだが、面倒ごとが嫌いなマスターの意向もあって見逃している。

 マスターの寛大さがあってこそ生きながらえていることに感謝して身の程を知って生きていればいいものの、どうやら一線を自ら踏み越えたらしい。



 僕が殺してそのまま放置したあのドラゴンの遺骸。

 それを勝手に利用したことは……まあ、いいだろう。


 あれは僕にとって不要なもので捨てていたものだ、それを見つけて拾ったやつがどう扱おうとそれは勝手だが、それをマスターを貶めることに利用したのはいただけない。


 もはや、我慢の限界というやつだ。

 それはマスターも同じようでいつもは受け流すだけだというのに報復を示唆していた。


 マスターが望むなら速やかに首を持ってくるし、なんだったら屋敷ごと吹き飛ばしてやろうかと提案してみた。

 一切の証拠を残さずにやり遂げる自信はあったがあえなく不許可となった。



 「それよりももっといい方法を考えついてから従え」とのことだ。



 マスターがそう命じるならば僕に否はない。

 ただ従うのみ。



 ……とうとうあの不愉快な男から解放されるのかと思うと胸のすくような思いだ。



 あの男はマスターが離れている間に何度も僕に話しかけてきた。

 細かいことは聞き流していたが要約すればマスターのもとから離れて男のもとへと来い、というものだ。


 手を出さないように言われていたので我慢するのがとても大変だった。

 僕はマスターのモノで、財産で、宝だというのに。


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