第三十八話:再びの遺跡探索・Ⅲ
「ここが……なるほど、確かに研究施設のような」
「だろう?」
「ふわー、すげー」
数ヶ月ぶりにフレイズマル遺跡の奥へと入ってきたわけだが、中の様子はあの時からさほど変わってはいなかった。
「この様子だとやはり抜けてここまで来れた者は居なかったようだな」
「あのめんどくさいやり取りをしないと通れないんだろう? それじゃあ、無理だろ。兄貴ってそのやり方を漏らさなかったし」
「当然だ、なんで独り占めできるというのにわざわざ漏らす必要がある!」
「まあ、それはそうだけどさ」
「それに項目が多すぎてどのみち伝えるのは無理があったからなぁ。それでも適当に打ち込んでIDの発行まで辿り着ける可能性はあったが……こんな辺鄙な遺跡の探索に来る奴もおらんか」
ディアルドが生きて帰ってこれた以上、フレイズマル遺跡に注目自体は集まっただろう。
トレジャーハントで一攫千金というのは誰しも考える安易な金策だからだ。
とはいえ、
(まあ、誰も入ってないなら都合はいい。俺様たちとしても
「ふーはっはァ! それでは始めるとするか」
「おー! だよね、マスター!」
とにかく、ディアルドとファーヴニルゥが最後に去ってから何も変わっていない研究区画の様子を確かめると、改めて四人で探索を行うことにした。
「うひゃー、なんかよくわからないものがたくさんある。っていうかその資料ってどこに置いたか覚えてないのか兄貴ー」
「ふーはっはっはっはァー!! ……ぶっちゃけ必要になると思ってなかったからどこに置いたか忘れた」
「ダメじゃん」
「仕方ないだろう。いや、確かにあるはずなのだが」
「前にやった宝さがしみたいで楽しいよ、ルベリ」
「ははっ、そうかもな。確かにこんな遺跡の中を探索するのってワクワクするし……。けほっけほっ、でもこの埃臭いのどうにかならないかな」
ファーヴニルゥと一緒に棚に並んでいた本を取り出して調べていたルベリだったが引き抜いた時に落ちてきた埃に咳き込んでいた。
「おや、大丈夫かい? では、≪
その様子を見ていたエリザベスが彼女のそばへと近づくと杖を一振りして魔法を使った。
一瞬、魔法陣が現れたかと思うと室内に風が吹き荒れ埃を一ヶ所に集め、かと思えば水流が床や壁の汚れをもののついでと言わんばかりに洗い流してピカピカにする。
更には念動力も使っているの雑多に床に置かれていたものが浮かび上がり整頓するように並んでいき――
「うわっ、なんという無駄のない洗練された無駄に高度な魔法術式を駆使した無駄に贅沢な魔法!」
その光景を見ていたディアルドは思わず呟いた。
彼女が使って見せた術式は、魔法文字をすぐに解読できる彼だからこそ正確にわかったが途轍もなく複雑で高度で繊細な魔法だった。
(術式の情報量的に間違いなく上級魔法に区分されるのは間違いないが、水と風の混成、ついでに物体干渉と対象に対して最適な形で洗浄が行われるように自動化まで組み込まれている)
明らかに既存魔法の術式の改変ではなく、一から組み上げた術式であることを察しさしもの天才であるディアルドとてちょっと引いた。
何が引くってここまで高度な知識と技術を駆使してやっていることがただの掃除魔法だからだ。
「ふっふー、これこそが私の発明した自慢の魔法――お掃除魔法、さ。君たちには色々と驚かされることが多いから日頃のお返しにって感じかな」
「へー、こんな魔法があるんだ。便利だなー」
「だろう! この魔法の価値が分かるなんてベルリ子爵様は優秀だ。それに比べて王都の貴族どもときたらっ! やれ、「魔法をこんなことに使うとは……道楽には困ったものだ」とか「庭師の真似事が好きとは酔狂な御仁だ」とか嫌味ばかり、
エリザベスのやっていたことがどれだけ高度だったのか、いまいちよくわかっていない初心者魔導士のルベリ。
だからこその彼女の素直な称賛の声に機嫌をよくするもエリザベスはブツブツと愚痴を呟いた。
この様子だと結構言われたらしい。
あるいは披露する度に似たような反応だったのか。
(まあ、ルベリには早かったとはいえそれなりに経験を積んだ魔導士なら構成自体は理解できなくとも術式量と複雑さからどれくらいのレベルの魔法か、ぐらいは推察は出来るからな。そして、それだけ高度な魔法術式を展開して行うのがただの掃除ではな……)
特に魔法を力の象徴と見る者からすれば受け入れがたい魔法だろう。
貴族たちは嘲笑うだろうし、
「そんなこんなでこの間の競技会は散々なものだったよ。自信作だったのに……」
「競技会?」
「聞いたことがあるな、確か
「へえ、詳しいじゃないか。まあ、そういうことだね」
「褒賞って何が貰えるの? やっぱりお金とか」
「それもあるね。魔法学の研究はやはり研究資金がかかるから、他には珍しい素材とかの融通をして貰ったり、あと一番の目玉は
「
「ふーはっはァ! よく覚えていたな、偉いぞ。よし、頭を撫でてやろう」
「えへへ」
「全く、兄貴たちは……。それでその
「まさか、あくまで所有権は
王都から離れた僻地であるというのもあるのだろう、エリザベスの愚痴は止まらない。
結構ストレスをため込んでいるらしい。
(もしかしてワーベライトがこっちに居座っているのは単に魔法の研究のためだけというわけでもないのか?)
ルベリたちの魔法などに興味があるのは間違いないが、それだけというわけでもないようだ。
ちょっとだけディアルドのエリザベスを見る目は優しくなった。
「それならば今度の競技会とやらには飛行魔法の発表をすればいいのではないか? あれなら確実に最優秀の評価を貰えるはずだ」
「えっ、いや、それは不味いよ。確かにあの飛行魔法なら間違いなく認められるとは思うけどキミの作った魔法だろう? 競技会で認められた魔法術式に関しては発表者の者として登録されるわけで……あっ、共同制作者としてなら」
「却下。
「ええぇ……キミって魔導階級も持ってないし、本当に
「探るつもりならこの話はなかったことに」
「あー、冗談! 冗談だから! 確かにあの飛行魔法術式なら確実に……でも、タダってわけじゃないんだろう?」
あっさりと追及を諦めたエリザベスは次にそう尋ねてきた。
「貸し一つということで」
「了解。覚えておくよ」
二人のやり取りはそんなあっさりとしたものだった。
実際問題、すでに魔法術式自体はエリザベスに渡してある以上、彼女はこれを自身が作ったものだと発表しようと思えば簡単にできる。
故にこれには口約束以上の意味を持たないものではあった。
「ふふふっ、これで
「質問なんですけど、ワーベライト様って
「ああ、幹部の一人とはいって私もまだまだ若いからそこまで力があるわけじゃないってのもあるけど、如何に幹部と言えども自由には読めないように厳正な管理がされているからね。とはいえ、私の階級は
「へぇ、階級によって閲覧制限があるんだ」
「そういうこと。でも、上級魔法の
「ああ、確か666冊あるんだっけ? それを
「いや、少し違うな」
「あれ、聞き間違えてた?」
「ちょっとだけな。正確に言えばセレスタイトの
「大部分? それって――」
「そう……セレスタイトの
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