第三十七話:再びの遺跡探索・Ⅱ


「へえ、ここがフレイズマル遺跡か」


「前に近くまでは来たことはあっただろう?」


「あの時はそれどころじゃなかったらね。遠目から見るだけで……ああ、そういえば忘れていたけどこれって入っていいのかな? 一応、所管のギルドの許可が必要なんだよね確か」


「ふーはっはァ! それなら昨日、ファーヴニルゥがオーガスタまで飛んで申請してきたから問題はない。形式上は依頼を受けての探索だ。だから、手に入れたものは好きにしていい」


「相変わらず兄貴は手が早いというか、手回しが上手いというか」


「まあ、フレイズマル遺跡はだいぶ辺鄙なところにある遺跡で管理も杜撰だからな。勝手に入って中の物を回収してもバレやしないだろうが、ルールというのは盾にするものだ」


「守るものでは?」


「いや、盾にするものだ。「ルールを守っている以上、認められた権利をするのは当然だ!」と言い張るためにな。相手がそれを捨ててきたからこっちも捨てればいいのだ。ルールというのは盾に出来る時は盾にするべきだし、盾に出来ないときは隙間を狙うのが鉄則だ。覚えておくがいい」


「うん、わかったよマスター」


「ファーヴニルゥに変なことを教えないでくださいよ……」


 などなどとディアルドたちはフレイズマル遺跡内へ入りながらそんな会話をしていた。


「これが遺跡……壁の素材に使われている建材も見たことのないものだ。……微弱だが魔力を遮断する効果がある? 見たことも聞いたこともないな」


「ほう? そんなこともわかるのか。流石……と言っておくべきか」


「その様子だと何か知っているのかな?」


 尋ねてくるエリザベスに対し、ディアルドはしばし思案にくれると結論を出したのか口を開いた。


「俺様の推察だとこの施設は恐らく太古の研究施設か何かだと思う。恐らくはその関係によるもので特殊な処理が行われているのだろう」


「確か古代アスラ文明……だったか。その研究施設――根拠はあるのかい?」


「この施設の奥まで行くことが出来た時、色々と調べた結果の推論だ。最もただの仮定でしかなかったからギルドにも報告はしなかった。元々、潜った時は金になりそうなものを見つけるのが目的だったわけだからな……特に必要じゃないと思った」


「ふむ、なるほど。それでその研究内容ってのが必要になったから……またここに?」


「ああ、そうだ。土壌関係の――って、そこら辺説明していなかったな。……じゃあ、なんで付いてきたんだ?」


「単に古代アスラ文明の遺跡、という存在に魅了されてね。まあ、あくまで私が興味を持っているのは魔法学の分野であって、考古学とかそういうものではないのだけど」


 エリザベスはチラリとディアルドと片手を繋ぎながら歩いているファーヴニルゥへと目を向けた。

 そこには隠し切れない興味の色が見える。


「今のセレスタイト式の魔法の源流となったと言われる古代アスラ文明の魔法体系、太古に途絶えていたはずの魔法体系がこうして目の前に……。気になってくるのも当然じゃないか。オーガスタとの間をあっさりと往復できる高速飛翔魔法、瞬間的な加速魔法も素晴らしい。ここまでの道程、多少のモンスターに襲われたけどその何れもを一撃で終わらせる手腕……」


 じっとりと見つめる視線に熱っぽさを感じる。


(ねえ、マスター。彼女が有能な人間であるのは認めるけど、ここで処分しておいた方が良くない?)


(うーむ、ちょっと悩むがとりあえず今はキープで)


 エリザベスは既にファーヴニルゥという存在を特別であると認識ているようであった。

 まあ、滅んだはずの術式を使っているのだから仕方が無いと言えば仕方がない。

 一応、何故ファーヴニルゥが古代アスラ特有の魔法術式を使えるのかは、ディアルドが古代アスラ文明の書物の解読をする過程で見つけ出したものをよほど適性があったのか彼女は習得できてしまった――と説明することにした。

 本当に納得しているのかはわからないが、表面上はエリザベスは納得して見せた。


 当然の如く、その見つけ出した古代アスラ文明の魔法術式の情報もねだられたが、そこら辺は後の交渉材料にするためにディアルドは突っぱねた。


(ワーベライトが居るとファーヴニルゥが動きにくいから面倒なのだがなぁ)


 エリザベス自体はそこまで危険性はないように感じているが、彼女のつながりを考えるとやはりファーヴニルゥについては隠すが上策。

 最も領地の開拓作業に彼女の力が不可欠なので、ある程度は力がバレるのは仕方が無いとあきらめているが。



(ファーヴニルゥが普通ではない少女であるのはバレているだろうけど、兵器云々が隠せれば一先ずはいいとするか……)



 ディアルドがフレイズマル遺跡についてある程度情報開示しているのもそのためだった。

 彼が相応に古代アスラ文明について詳しい様子を見せれば、ディアルドがファーヴニルゥへと教えたという嘘にも信憑性が増すというものだ。


(まっ、面倒な女ではあるが利用価値が高いのも確かだ。精々、天才らしく使うとしよう)


 そうディアルドは心の中で改めて決意すると口を開いた。




「さて、この奥だ。ルベリも初めてだな? 説明するとここには扉を通るための仕掛けがあってだな。ちょっと面倒ではあるが指示されたとおりに手続きをすれば――」



                   ◆



 前に来た時と違って二人分の手続きとなるとそれなりに時間がかかった。


 ファーヴニルゥはそもそも存在自体がID登録されているし、ディアルドも元は仮IDではあったがファーヴニルゥのマスターとして登録された際に、正式に登録されてしまったらしい。

 結果として発行が必要になったのはルベリとエリザベスだけだ。


 どちらも当然古代アスラ文字など読めない以上、全てディアルドの指示によって打ち込むしかなった。

 だからこそ、結構な時間がかかってしまった。


(ワーベライトのやつ、あのブーツって上げ底だったのか……)


 身体的な情報は勝手に機械の方がスキャンして読み取ってくれるのだが、その結果は画面に表示されディアルドにも見えてしまった。


(うむ、とりあえず説明文が全部古代アスラ文字でよかったな。そのお陰で乙女的なデータが晒されたことに気付かれなかったわけだし。それにしても結構胸が――)




「ふう、これで終わりかな? 結構手間がかかるんだな。それにしても凄い技術だな……」




「ふ、ふーはっはァ! うむ、これで終わりだ。俺様たちもまたされたし、さあ奥に行こうではないか!」


「兄貴、なんか動揺してる?」



 ルベリの言葉を無視してディアルドは慌てて足を踏み出した。




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