第三十六話:再びの遺跡探索・Ⅰ


 フレイズマル遺跡にまた足を運ぶ。


 そう決めたディアルドの行動は早かった。

 狩りから帰ってきたファーヴニルゥに対し、そのことだけを伝える。



「フレイズマル遺跡に? 勿論、僕もついていくよ!」


「もうちょっと事情とか聴こうぜ、ファーヴニルゥ」


「マスターと一緒ならどこまでも。それが従者ってものなんでしょう? 理由なんてものは大して重要なものじゃないさ」



 ルベリの苦言に対し、ファーヴニルゥはあっさりとそう答えた。

 「お出かけだー」などとこぼす様子はひたすらに楽しそうであった。




「うむ! まあ、ファーヴニルゥに関しては問題はなかったな。あとは――」




 さて、ここで一つ説明しておかなければならない事柄があった。

 それはベルリ領の現状に関するもの。


 現在、正式にベルリ領の住民と言えるのは領主であるルベリとその家臣、あるいは側近、オブサーバー……まあ、そんな感じのポジションを主張して収まっているディアルドとその従者であるファーヴニルゥの三人だけである。

 仮にも子爵領であるというのに三人しか居ないという現状が、今のベルリ領の実情を表しているともいえるのだが――一先ず、それは置いておくとして。


 このベルリ領の人間としては三人。

 だが、お客様……というべきだろうか。

 ともかく、そういう立場で当たり前のように住み着いている人物が一人――



「はい、はいはい! 私も当然、ついて行かせて貰うよ。フレイズマル遺跡に関しては興味があって探索したかったというのに」


「ふははー! 別に勝手に行けばよかったのではないか? そして、さっさと帰ればよかったのに」


「兄貴、言い過ぎ言い過ぎ」


「私は古代文明に関する知識はそれほどでもない。だからこそ、一度は奥にまで入って見事に遺跡物を持ち帰ってきた功績を持つ……ディーさん、君の協力が欲しいんだよ」


「俺様は今、とても忙しいと言っているのに」


「でも、用件が出来たそうじゃないか。私はそれに同行させてくれるだけでいいんだよ、勿論遺跡調査の協力は惜しまない。これでも≪王位キャッスル≫の階位の魔導士。居れば便利だと思うんだけど……」


 そう自分を売り込む真っ白な女性こそエリザベス・ワーベライト、魔導協会ネフレインの幹部にして王国において有数の魔導士の一人。

 先の黒骸龍事件にて縁ができ、ルベリのベルリ領の拝領にも大きく関与してくれた彼女であったが、何故未だに元の王都へと戻らずにこっち残っているのかといえば彼女の趣味――というよりもライフワークが関係している。


 天才たるディアルドからすれば見ればわかるようなことではあったが、エリザベスという女性はいわゆる魔法オタクといっても過言ではないほど魔法の研究に明け暮れているタイプの人間だ。

 そんな彼女にとって今注目をしているのは復活した古式魔法体系である「イーゼルの魔法」の使い手のルベリ、それに古代アスラ文明の術式を使うファーヴニルゥ、極め付きにはディアルドも……目をつけられているらしい。


(事件の時に約束をしてしまったから渡したファーヴニルゥの飛行魔法術式をセレスタイト式の魔法術式へと変換した飛行魔法術式……あれがどうにもよくなかったな)


 一応、あからさまに暴こうとはしないもののディアルドという存在自体に興味を抱いているのは丸わかりだった。


 つまりはディアルドたち三人は三人とも、エリザベスの興味をそそるような魔法の使い手で、彼女としてしては――「こいつらから離れるなんてとんでもない!」という状態なのだろう。

 とても迷惑なことに。


(色々と助けられたのは事実だから強く言えないが厄介だ。出来れば飛行魔法術式を渡して距離を置きたかったんだが……)


 珍しい魔法術式を渡せばそれの研究に意識をそらせられると考えてディアルドはふっかけたのだ。

 なんだかんだ言っても王都でもかなり発言力のある立場な女性というのもあり、将来的なことを考えるなら縁自体は繋いでおいては損はない……そういった判断だったのだが。


(まさか、こうなるとはな。……天才だって失敗はする)


 王都とのパイプ役と考えればこうして打算は有れど好意的なのは悪くない関係と言えるが、やはりディアルドとしては彼女の後ろにある魔導協会ネフレインが気になっていた。


 長い歴史を持つ組織なだけあって色々と厄介なのが魔導協会ネフレインという存在だ。

 ディアルドはそれを知っている。


 だがら、正直なところ距離を置いておきたいのだが――


(まあ、なるようにしかならないか)


 エリザベスを無理やり追い出すことが不可能な以上、潔く諦めて他の手段を考えた方が建設的ではあるのも確かだ。

 特に今は大事な領地作りの最中、これが軌道に乗るかどうかで後々の動きも変わってくるわけで……。


「仕方ない、ついてくるのは仕方ないとはいえ容赦なく働かせるからな? 俺様は」


「ワーベライト様相手によくもまあ……」


「ルベリ、貴様はむしろ大人しすぎだ。仮にも子爵、この地の領主であろうが。相手が王都で立場のある人間だったとしても遜り過ぎるのは良くない。シャキッとしろ、シャキッと」


「うっ、いや……だってさぁ」


「ふふふ、そうだね。確かに子爵様ともあろう者があまり低く振舞うのも良くはない。――ご同行、許可をいただき心より感謝をベルリ子爵」


「あっ、えっと……はい」


 エリザベスの言葉にあわあわと答えるルベリの様子を眺めながらディアルドは考える。



(やはりもう少し慣れるまで時間と経験が必要か)



 しばらくの間、余所者を入れないと決めたのは何も領地がまるで出来ていないから――ということだけでもないのだ。




「まあ、ともかくだ。ワーベライトも同行するということで……それでは明日、遺跡探索に行こうではないか!」




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