第三十一話の②:策謀の結果


「なっ!? そんな馬鹿な?!」




 ディアルドのそんな言葉に反応したのはいつの間にか戻っていたロナウドたちだった。


 どうやら逃げ出したのは良かったものの黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴンとの戦いの攻撃の余波を受け、飛んできた巨木を喰らって三人そろって気絶していたところを一先ず戦いが終わった後、周囲の偵察に出た冒険者が見つけてきたのだ。


 見つけた冒険者はとても嫌そうな顔をしていた。

 既に彼のペテンは白日の下に晒されてしまったとはいえ、一応貴族である以上は下手なことは出来ない。

 ギルドの職員と相談した結果、とりあえず保護されていた彼らはディアルドの言葉に嚙みついてきた。



「そんなわけがない! 確かに何度探しても遺児は見つからなかったと家でも調査を行い結論を出している」


「ふーはっはァ! ……単に見つけられなかっただけでは? 当時の混乱の中、更には家臣であったはずのサーンシィター家がまるで一帯の領主のように振舞い始めたのを見て隠れ潜んでいた可能性は?」


「そ、そんなの……だとしたら国にでも……」


「領地を失ったことは紛れもなくベルリ家の失態だ。国に助けを求めるということも出来なかったのだろう。それでもいつかは自らの子孫が旧領を奪還し、ベルリ家を再興する――そんな夢のために隠れ潜み生きていたのだ! まあ、病にやむなく倒れる羽目になり、ルベリは孤児院に行くことになったのだがな」


「なっ……んだと!? そんなことあるわけ……」


(勝手に言ってらー)


 調子良さそうに喋るディアルドの姿にルベリは白い目を向けた。

 彼が言っているのは当然の如く嘘である。

 そんな事実はない。


 いや、ルベリの両親は不明なので可能性がゼロとは言えないが……それはともかくとして。

 ディアルドは楽しそうに喋り続ける。


「だが、否定はできないだろう? サーンシィター家の目をかいくぐり、ベルリ家の人間が生きていた可能性。それが絶対になかったと否定できるだけの根拠が貴様にはない」


「それは……っ!」




「それに何よりも――だ」


 ディアルドはそこで言葉を区切ると改めて言い含めるにように言った。




「サンシタ、貴様は何を見ていた? ルベリは魔法を使ったのだ、間違いなくな。そうだろう、ワーベライト」


「そうだね、見事な魔法だった。イーゼルの魔法は時間に干渉することが出来る稀有な魔法体系……それによって黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴンが目覚める前へと戻したわけだ。資料には載っていたけど実物を見るのは初めてだなぁ。キミはいい魔導士になれるよ」


「あ、ありがとうございます?」




「ふーはっはァ! 聞いたか、サンシタども。魔導協会ネフレインの幹部である彼女もルベリの魔法を認めたのだ。使! つまりはルベリも貴族の血が流れているということだ!」




 ルベリは素直に思う。


(冷静に考えて無茶な理屈だ……)



 魔法は貴族の血を引く者にしか使えない。

 ならば、魔法を使えるということはそれ自体が貴族の血を引いているという何よりの証明だ、ディアルドは堂々とそれ言って見せたのだ。


 理屈の上では確かに成り立つ話ではある。

 魔法の真実である、本来なら誰にでも使える技術であるということを敢えて無視をすれば……。



 そう一言でディアルドの温めていた作戦というのは詰まるところ――



 ディアルドは国が欲しかった。

 自らが好き勝手が出来る場所が欲しくなった。


 とはいえ、当人は自由が利かなくなるのは嫌だというわがままっぷりでファーヴニルゥを前面に押し出すのは無し。

 そこで白羽の矢が立ったのがルベリであった。


 彼女を今は亡きベリル家の血筋として改めて貴族として取り立てて貰おうと考えたのだ。


(私もよくこんな話に乗ったよな。まあ、もう後がなかったのは事実だけど……)


 旧ヒルムガルド跡地に残っていた魔導書、それを見つけて思いついた作戦らしい。


(どうでもいいけど、ロナウドたちのことをよく言えたもんだよなこんな作戦)


 人のものを奪おうとしている行為に対した差はありはしないようなものだが、ディアルドはそこらへん「それはそれ! これはこれ!」で流していた。


 ルベリはその図太さは尊敬できるなと素直に思ったものだった。


(――欲しいものがあるならそれくらい図太くならなきゃいけないってことか……。本来の予定なら今回はロナウドたちの事実を暴露して貶めるだけで、兄貴曰く進めるにはもう二、三手必要だったらしいけど……)


 それをする必要はなくなった。

 既にディアルドに指示を受けており、ルベリは軽く息を整えてから改めて口を開いた。



「ワーベライト様、一つ確認したいことがあります」


「ふむ、何かな?」


黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴンの討伐の件ですが……」


「ああ、終わってみれば変なことになったものだね。最初の報告は結局は君の言った通り嘘であったのは間違いないだろう。彼らでは黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴンを倒すことは出来ない。となるとなんで最初に黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴンは死んでいたのか、という疑問は出てくるんだけど……まあ、それは今は置いておこう。順序は逆になったがキッチリと黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴンの討伐は確認された」


「復活した黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴンの討伐、それらは我々の功績になるのでしょうか? ワーベライト様の手助けもあったわけですし」


「認められるかわからないってことかい? 私はそこまで浅ましくないさ、私一人では倒せなかったのは間違いない。君たち三人を含めた四人での功績として報告することになるだろう」


 ディアルドたちが気にしていたのはその部分だった。

 想定外だったとはいえ、黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴン討伐という功績が手の中に転がり込んできたのだ、これを利用しない手はない。




「一連の報告の為に私は一度王都に戻ることになる。国を脅かしていたモンスターを討伐したんだ、莫大な恩賞は期待していいけど何か希望か何かあるかい? それが通るかはわからないけど伝えておこう」


「それならば私、ルベリ・カーネリアンにベルリの名を。ベルリ家の復興と先祖の地を頂きたいと」


「……ふむ、偉大な功績を為した冒険者が貴族の地位をいただくというのはなかった話じゃない。とはいえ、それが認められるかは保証はしかねるよ?」


「ふーはっはァ! とりあえず、言ってみるだけ言ってみてくれ元老院の連中にな」


「私としてはそんなことを気軽に言える、君の正体が気になるんだけどな」


「俺様は天才だぞ? あんな連中相手に畏まるものか。成功した暁には俺様がさっき使った飛行魔法の術式を渡さないことも――」


「全力で任せたまえ! 私を誰だと思っているんだ。「幻月」のワーベライトだぞ、約束だからな!」




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