第三十一話の③:策謀の結果
ドルアーガ王国の王都アルバリオン。
そのとある場所にて話し合いは行われていた。
「そうか、
「王国を悩ませていた忌々しい存在が一つ減った。これは慶事だな」
「正しく。遺骸の回収の方も順調に進んでいるとのこと」
「強大なモンスターの素材は途轍もない価値を生み出す、それは歴史が証明している」
「時期もよかったな、コーラル公爵が生きていた頃だったらどれだけ抜かれていたか」
それも無理はないだろう。
何せ今のドルアーガ王国の国内では重大な事件が発生していたからだ。
その中心人物の名はヴィルフレム・コーラル公爵。
王国の建国の代から続く名門中の名門、コーラル家の当主であった男だ。
始まりは一つの謎の報告が上がったことからであった。
曰く、それは十三年に渡り王国の財務を担当する役職についていた彼に不正な蓄財を行っているという告発の内容だった。
提出者は不明。
だが、証拠として提示された一見何の変哲もない本は不正蓄財に関わっている人間が連絡に使っている暗号とその解読法が丁寧にが書かれており、悪戯には手が込んでいるということで調べてみると――出るわ出るわの大騒ぎ。
「十三年という時間があったとしても今わかっているだけで王国の一年の国家予算より大きいというのはどういうことだ?!」
「あのバカ者め! 加減というのを知らんのか?!」
ここにいる人間はそれなりに経験を重ねている。
多少の不正ぐらいで目くじらを立てたりはしないが、それにしたって限度というものはあるのだ。
国家の財務を担当する役職に居たためか、ヴィルフレムの悪行は想定以上に手が広かった。
今、調べてわかっているだけでこの状況。
全てが明らかになるのはどれぐらいの労力を割くことになるか。
そして、今回の事件一番最悪なのは――
「あの男、おめおめと死におって」
ヴィルフレムが事実の解明をする前が進む前に死んでしまったということだ。
謀殺ではないかと噂されたが真偽は不明、一応はただの事故死ということになっているのだが……。
とにかく、全てを知っているであろう人間が死に逃げしてしまったのは紛れもない真実だった。
「それにしてもオーガスタの名で思い出したが――奴め、やはり関わっていたわ!」
「金の流れが怪しいとは思っていたのだが……やってくれる!」
オーガスタには特別な公金――つまりは国からの助成金が入っていた。
だが、その公金を過大に請求したり、不明な資金の流し方をしていた疑惑は前からあったのだ。
勿論、それはヴィルフレムが単独で出来ることではない。
協力者、いやこの場合は共犯者ともいえる人物がいた。
それこそがそこをオーガスタを治めていたサーンシィター家である。
「国から毎年のように金をせびりながら、一部はヴィルフレム、一部は自らのポケットに、一部は地元の犯罪組織に流して言うことを聞かせる。……なるほど、やりたい放題だな」
「まぁ、サーンシィター家を取り潰したところで次に誰が治めるかという話になる。誰だって近くに強大なモンスターが居る領地など好きこのんで治めたくはない、その辺の足元を見ていたのだろうさ今の当主は」
「だが、それも無くなった。小気味いい」
「そういった意味でも討伐の話はちょうどよかったな。それで……真に討伐をした「幻月」を除く三人への褒美に関してだが」
「国家への脅威の排除という国防的な意味での功績、それに王都の人間に久しぶりに慶事な話も広められるわけだ。多少の無茶でも叶えてあげるべきじゃないかね?」
「今の王都は誰もが息を殺して周囲の顔色を窺っていますからな。市民に限らず、貴族までも」
「むしろ、貴族の方が多いだろうな」
ヴィルフレムはやり過ぎた。
そもそもが公爵家という立場が背景にあるのだ。
彼に逆らえる人間というのは少なく、また彼の直臣も似たような性質の人間も多く手足となって色々とやっていたらしい。
らしい、というのは数が多すぎて把握できていないという意味でだ。
「此度の事態、王は随分とお怒りだ。関係の深かったとされた貴族の本宅に強制調査が入った」
「それは随分と……身に覚えのある者たちにとっては生きた心地はしないだろうな」
「身に覚えのない人間とて生きた心地はせんよ。あの男のことだ、知らない間に巻き込んでいた可能性は十分にあるし、付き合いのある貴族の家がそういう家だったと知られれば疑いの目がこちらにくるのではないかと冷や冷やものだ」
「聖王騎士団は物騒ですからな……」
「何はともあれ、そういった理由で空気の悪い王都の雰囲気を変えるにはいい話題なのは間違いない」
「確かにな、そういった意味では確かに報いてやってもいいかもしれない」
「では?」
報告をしたっきりずっと黙っていたエリザベスが初めて口を開いた。
「ルベリ・カーネリアンだったか。ベルリの家を復興し、彼女のベルリ性を戻すことを許そうじゃないか。それと出来れば旧領を……だったか? それもよかろう」
「最終的判断は王がなさるとはいえ、王も反対はしないであろう。――八十年の時を超え、舞い戻ってきたベルリの血を継し者が
「詩吟にしても良いほどのいい話ではないか」
誰もがこの決定には異論はないようだ。
だが、エリザベスは敢えて問うことにした。
「よろしいんですね? 私が持ってきた話ではありますけど、彼女が本当のベルリの人間かは――」
「どうでもよいことだ。彼女は魔法を使えた。それも「イーゼルの魔法」を……「幻月」よ、貴様自身の報告であったが間違いとでも?」
「いいえ、あれは確かに「イーゼルの魔法」でした」
「ならば、それが答えなのだ。……それにしても古式魔法か、良いところに目を付けたな」
「確かに。ただの「セレスタイトの魔法」では王国の魔導士であればだれもが使える故、大した証明にはなりはしないが……」
「気になるな。そのディーとかいう男」
「とはいえ、その三人が求めたのは「ベルリの家名の復権」と「旧領であるヒルムガルドの受領」……ふむ、弁えているとみるべきか」
「
「そういって意味では身の程を弁えているな」
彼らにとってルベリがそれを騙っているだけの可能性など十分に考慮していた。
考慮していたが見て見ぬふりをしても良いとも考えていた。
これで「どこかの領地を伯爵家相当でください」など厚かましい要求であったならばともかく、王国の歴史においてそういった家名の乗っ取りというのが無かったかと言われると――
「それに下手をすると貴族の数が思った以上に減る可能性があるからな」
「ヴィルフレムめ……」
「少なくとも繋がりが確実に無いと言える貴族が増えるのは悪いことではない」
「うむ、元の伯爵――は難しいかもしれんが子爵ぐらいにはしてもらえるように働きかけておこう」
「他の褒賞に関しても十分にな。これは慶事なのだから」
そういうとあっさりと貴族位と領地について話は決まり、彼らは次の議題に取り掛かっていた。
話は終わりだと言外に示している雰囲気を察し、エリザベスはその場から去りながら人の目が無い廊下の途中にたどり着くと無言で握りこぶしを作った。
(よっしゃ、飛行魔法!)
元老院の決定から十日後。
ディアルドたちにその話は届いたのだった。
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