第二十二話:悪巧み
「それでは今回の緊急依頼に同行させていただく。
「よろしくお願いいたします。私は此度の依頼の全体の指揮を任せられましたアレグというものです。本日は遠いところからご足労を」
「いえ、今回の一件は事実であるとするならば王国にとっても重要な事項となりますのでお気遣いは無用です。……それで彼が?」
「はい、彼ら三人が件のモンスターを討伐した冒険者でして――」
オーガスタの街の東。
朝方のその日、多くの冒険者と大きな荷車がそこには集結していた。
今一番、オーガスタの街を騒がせている
場所が街からだいぶ離れた奥地であり、回収するべきモンスターの巨体さを勘案しても大所帯になるのは当然と言えば当然。
解体のための業者や運ぶための大規模な荷車、それを守るための冒険者、そしてそれだけの数の人数分の食料などを考えるとかなりの規模である。
ざっと見ただけでも三桁に届きそうなほどの人の数が居た。
「こうして見ると壮観だな。いやはや、中々に大事なことで」
「それはそうだけどさ、兄貴……ロナウドさ――じゃなくて、ロナウドの奴がこっちを凄い目で睨んでるんだけど」
ディアルドの呟きに応えたのは隣で息を殺すようにフードを目深く被ったルベリであった。
彼女の言った通り、ロナウドは忌々しそうな視線をこちらへと向けていた。
今にも食って掛かりそうなのを必死に抑えている様子だ。
「それはそうだろう。手っ取り早く処分して終わりにするつもりだったのに消え失せたと思ったら、色々と敵対視している俺様と一緒に現れたのだからな。サンシタが今考えていることを想像するだけで面白くないか?」
「まあ、奴からすれば秘密を知っているはずのルベリが一緒に居るってだけで落ち着けないよね。そもそも僕たちは知ってたんだけど、そんなことも知らないだろうし」
隣にいたファーヴニルゥが相槌を打った。
「ふははっ、やつにとっては晴れの舞台だからなそれを台無しにするような俺様たちの組み合わせは腹に据えかねるだろうさ。だが、これだけ人の目もある以上迂闊に手出しは出来ん。ほら、にっこり笑って手でも振ってみるがいい。楽しいぞ、ほら!」
ディアルドがにっこり笑って手を振るとロナウドの顔色は面白いように変わった。
真っ赤になって今にも喚き散らしそうだが、近くにエリザベスもいるからか必死に耐えているようだ。
「うわっ、凄い顔……」
「ほれ、やってみろ。スカッとするぞ」
「…………」
あくどい顔をしたディアルドに唆されるようにルベリも笑顔を作って手を振ってみると、完全にキレた顔をしてこちらへ向かって来ようとするロナウド。
そんな彼を必死に抑えるオルレウス、その様子に気付かれないようにエリザベスらの注意を引くように焦った顔をして話しかけるエレオロール。
三人の姿を見てルベリは……。
「兄貴……やばい、楽しい」
「だろう? もっともっと楽しくなるぞ。よし、ファーヴニルゥも一緒にいくぞ」
「うん、わかった」
「「「ロナウド様、ばんざーい!」」」
■
「さて、こうして出発したわけだが大まかなことは把握しているな?」
「ああ、結局のところ今日をどう上手く切り抜けるかで話は決まるんだっけ?」
「そういうことだ」
散々、遠くからロナウドたちを煽り倒した後、出発した一行の中でディアルドたちはひっそりと会話を行っていた。
「現状、俺様たちの目的を成功させるには上手くサンシタ達には転んでもらわなければならない。
「外聞が悪いから?」
「そういうことだな。わざわざ人まで派遣して確認しておいて、後で「違いました」なんてことは王家も難しいだろう。下手をすればそれを隠すために敵に変わるかも」
「いつの時代も変わらないんだねぇ」
「だから、そうならないために。今日という日に明確にサンシタ達の功績を否定させる必要があるわけだ」
「なるほど」
「それがまあ……前提条件というやつだ」
ディアルドの言葉にルベリは頷いた。
「ということは一番の問題はあの女性?」
「あれが例の王都から来たっていう
ファーヴニルゥたちがこっそりと視線を向けたのは隊列の先に居るであろう女性、若草色の髪を持った翡翠色の瞳の美女、エリザベス・ワーベライトだ。
「ああ、名前だけは話に聞いたことがある。確か
「
「王国でもその位階は両手足の数で足りる程度しかいなかったはずだな。
「そんなに違うものなのか」
「おおよその見立てだが単独でも
「討伐難度350を超える相手なのにか? えっ、350って言ったら350だろ?
「いや、
「まあ、どちらにしろ僕の敵ではないということだけどね」
「ファーヴニルゥが口を挟むと色々とわからなくなるから黙っておけ。まあ、それぐらいの大魔導士だと思っておけばいい。こんな地方ではまず見かけることもないレベルのな」
どこかちょっと自慢気に宣言したファーヴニルゥの頭をグリグリとしながらディアルドは言った。
実際に彼女からすればロナウドもエリザベスも大差のないレベルなのだろうから話がややこしくなる。
「あ、ああ。何となくわかった。それだけ凄い魔導士ってことは信任とかも強いってことだよな。つまりは発言力だってある」
「ということは彼女が認めるかどうかで全てが決まるってこと?」
「そういうことになるな。ギルド側からも人は出ているとはいえ
「んー、でもさ。それなら大丈夫じゃないのか?」
「どういう意味だ?」
「いや、さ。それだけ凄い魔導士ならロナウドがそこまで強くないってことはわかるんじゃないか?
「ふむ……」
「まあ、実際に遺骸があるわけだから真正面から否定はしないかもだけど何かおかしいとは思うんじゃないか」
「いい視点だ。ルベリ……なかなかやるな」
「え、えへへ……そ、そうかな?」
「むー」
「正直なところ既に疑ってはいるだろうな。天才である俺様から見てもワーベライトは傑出した才覚を持っている。サンシタの実力が
それも実物を見ればすぐにわかるだろうとディアルドは推察していた。
討伐難度350以上という数値は伊達ではなく、
中級以上の魔法では傷一つつけることが出来ない耐魔力を秘めていた。
「つまり上級魔法を使えない
「それなら……別に何もしなくてもロナウドたちの功績は認められないんじゃないか?」
ルベリの言葉は正しい。
恐らく実物の遺骸さえ見ればエリザベス程の魔導士ならば、天地がひっくり返ってもロナウドたちが
とはいえ、だ。
「そうなるかは……五分五分だな」
「えっ、なんでだよ」
「王都からすればオーガスタ一帯は所詮は地方でしかない。正直なところどうでもいいはずだ。
この世界においてモンスターの素材というのはとても貴重だ。
特にそれが伝説級のモンスターともなればその価値は計り知れない。
下手をすれば
「要するに王都からすれば最優先事項は
「な、なるほど……。なんというか色々と考えてるんだなぁ、そういうのさっぱり考えが及ばなかったよ」
「なに気にすることはない、こういうことは経験だ。ルベリもそのうちわかるようになる。……というかなってもらわなきゃ困るのだが」
「う……が、頑張るよ」
「ああ、期待している」
ディアルドの言葉に少し嬉しそうにルベリははにかんだ。
「つまり話をまとめると今回の一件はあの女が一番の重要人物になるけど、現状だとどう動くかわからない……って感じかな、マスター?」
「そうなるな。あとはまあサンシタ達も動こうとはするだろうから気を付けないとな。さて、どう立ち回るのが俺様へ最も利益を与え、そしてサンシタ達へとダメージを与えられるか……くくくっ、悪だくみをするのは楽しいなぁ!」
「うわーっ、悪そうな顔」
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