第十四話:冒険者としての日々・Ⅲ
「
「ええ、そうなんですよ。結構な騒ぎになって王都の方からも増援を呼んで討伐しようとしているらしいんですけど……これが思いの外、手こずっているようで」
「なるほど、具体的にはどういった風に?」
「なんでも消息が不明らしくて……一度は遠目で確認できたらしいので近隣に来ていることまでは間違いないんですけど、その後の足取りが掴めずに」
「それで依頼に参加した冒険者たちが帰ってこない、と」
「そういうことです。討伐するために集めたので、見つからないからと解散させるわけにもいかず……。はあ、
討伐難度350を超えるモンスターなど、良くも悪くも周辺被害的な意味でもその巨体さの意味でも目立つ存在だ。
ギルドとしては倒せるか倒せないかは一先ず置いておくとしても、すぐに見つかる想定だったのに消息不明でわからないなどという事態は予想外だったに違いない。
(まあ、もう死んでるからなぁ)
「あんな巨体のモンスターなんですし、飛んでる姿なんて遠目から見ても目立つはずなんですけどそれらの情報も特に……」
「それはそうだろうね。だって僕が――もがもが」
「ん? ファーヴニルゥさん、何か言いました? というかなんで手を……」
「何でもないぞ?」
うっかりと言ってしまいそうになったファーヴニルゥの口をディアルドは塞ぎつつ思い返した。
(そういえば
天才であるディアルドとてうっかりすることはある。
(冷静に考えると素材の一つや二つ、回収していた方が良かったか? それこそ金貨百枚なんて余裕で――いや、流石にこのレベルのモンスターの物だと出所を探られたりと換金するにも面倒ごとの方が多いか)
目立つことは好きだが悪目立ちは好きではない。
(……うん、無し! 無しだな。知らないふりをしておくとしよう。どうやらまだフレイズマル遺跡までは捜索の手が及んでいないらしいが、そのうち誰かに見つかるであろう。俺様たちはその間に討伐依頼をこなして軍資金の調達と功績稼ぎに勤しむとするか)
今後の方針をある程度定めつつ、ディアルドは口を開いた。
「まあ、事情は分かった。そういうことであればこの慈悲深き天才の手を貸してやろうではないか」
「ほ、本当ですか? ディーさん」
「ああ。討伐依頼が溜まっているんだろう? 俺様たちがバンバンと達成してやろうではないか」
(まあ、戦うのは主にファーヴニルゥだけど)
「いやー、助かります。時期的なものもあってモンスターたちの動きも活性化してくる頃なので困ってたんですよ」
「ただいくら俺様たちが天才で優秀でイケメンであったとしても、だ。依頼を連続でこなすのは相応の労力が必要となる。ギルドの都合に協力してやろうというのだから、それなりの何かがあってもいいんじゃないのかと思うのだがな?」
「……報酬の増額は無理ですよ?」
「昇格のための功績評価。それへの加算ならどうだ? そこなら裁量の範囲内だと思うが」
「上の者と相談……ですかねぇ」
「それでいい」
(言ってみただけだしな。無いならなくても別に損をするわけではないしな)
「さっきロナウド様にディーは言っていましたけど、私としてもディーさんにそこまで向上心があるとは思いませんでしたよ」
「なに、一人でやるのは気楽ではあったが面倒も多かった。だが、パーティを組むとなると思いの外快適なことにも気づいてな。これならばもう少し昇格しておいた方が何かと便利だな……っと」
「ああ、なるほど。そういった人、結構聞きますね。それならどうです? ギルドとしても積極的に依頼を受けてくれるようになるなら大助かりですから、もう少しお二人のパーティーも数を増やしたりとか……何なら斡旋とか手伝いますよ?」
「とはいえ、今はこの手のかかる従者の教育の方が大事だからな」
「教育……やっぱり……」
「やっぱりってなんだおい。やはり例の俺様が少女を育て上げて手を出そうとしているとかいう悪意に満ちた噂を本気には――って、おい目をそらすな」
「たはは……」
「それからパーティーの増員だったな。確かに人が増えるとやれることが格段に増える。その有用性は認めよう。とはいえ、この天才である俺様のパーティーに加入するとなればそれなりの条件がある」
「その条件とは?」
「まずは俺様に認められるほどの一芸を持っていることは前提だ」
「まあ、実力は大事ですよね」
「あともっと肝心なのは俺様に絶対服従であること。天才である俺様がパーティーで一番なのだから当然だ。優秀であり、俺様を崇め、褒めたたえ、絶対の忠誠心を持ち、それから――」
「次の方どうぞー」
■
「依頼終わりはやはり何か旨いものを食べるに限るな。終わったーという感じになる。疲れが吹き飛ぶ……リフレッシュというやつだ。大事だぞ、ファーヴニルゥ。何か買い食いでもするか? 食べたいものあるか?」
ギルドからの帰り道、ディアルドはふとファーヴニルゥへと尋ねた。
「いえ、マスターに負担をかけるなんて」
「俺様の従者ともあろう者がケチケチするな。言ってしまえばメンテナンス代だと思え、体と心の……な。おっちゃーん、この氷飴一つー!」
「聞こえてるよ、はい一つね。ディーさんが食べるのかい?」
「俺様は食べんよ、甘いものは嫌いではないがな。あっちの従者のファーヴニルゥにやるのだ」
「ああ、例のディーさんが連れ回しているという……」
「うむうむ」
「それで将来的に育ってきたら妾にしようっていう」
「違うから。たぶん、サンシタ相手の言い合いでいろいろ混ざってるから……」
「それにしてもえらく綺麗な子だねぇ。よし、別嬪さんにはサービスをしないとな。二つ持って行っていいぞ、ディーさん」
「おお、マジか! 返せと言われても返さんからな!」
「ディーさんにやったんじゃなくて彼女にやったんだよ」
などと少しの間、話をしつつディアルドはホクホク顔でファーヴニルゥのところに戻ってきた。
ご機嫌なのはタダで氷飴が一つ手に入ったからだ。
天才でであるディアルドだが、タダという言葉は大好きだった。
「ほら、買ってきてやったぞ」
「マスター、申し訳ない。僕の財布から払うから」
ファーヴニルゥはディアルドの様子に慌てて下げていたポシェットに手をかけた。
彼女には報酬の一部をお小遣いとして渡している。
最初こそ拒絶しようとしたものの、そこは命令ということで渋々とファーヴニルゥは可愛いらしい水色の財布を持っていた。
とはいえ、遠慮があるのかまともに自分から使った様子を見たことはなかったが。
「あー、よせよせこれは俺様が勝手に買ったものだ。それなのに従者からせせこましく金など徴収できるか。天才だぞ? 俺様」
そう言って強引にディアルドは氷飴を押し付けた。
「食え、冷たくておいしいぞ? お前のために買ったものだ」
「……はむ」
ディアルドの言葉に促されるようにファーヴニルゥは食べ始めた。
街ある広場の一つ、そのベンチに並んで腰かけながら夕焼けに染まる空を眺めた。
無言で氷飴を食べながらディアルドはぼんやりと口を開いた。
「まあ、隣で聞いていたんだし話はわかってはいるとは思うが、ちょっとばかしこれからやる依頼が多くなるが大丈夫か?」
「うん、問題ないよマスター。僕はマスターの従者であり、剣であり、翼。兵器である僕にできることなんて戦うことぐらいだからね、だから任せて」
「ああ、期待しているぞ。さて、そろそろ帰るか――っと?」
氷飴も食べ終え、立ち上がろうとした瞬間……ディアルドの目の前にリンゴが現れた。
「す、すいませーん。それ、私のでーす!」
いや、正確に言えば転がってきたというのが正しい表現だ。
広場にたどり着く道の一つが坂道になっている、恐らくはそこで落としてしまったのだろう。
その証拠に慌てた様子で坂を下りてくる一人の女性――というよりも少女といった方がいい年齢で。
「拾ってやったぞ。天才である俺様だからこそこうやって慈悲深い行為をするのであって、不注意には気を付けるべきだろう」
「ご、ごめんなさい……。それとありがとうございました、リンゴを止めてくれ――ってあれ? この口調もしかして……」
「むっ、貴様確かどこかで……というかついさっき見た顔だな。確かサンシタの取り巻きの――」
「その節はどうも……迷惑をかけてしまったようで。私はルベリ、ルベリ・カーネリアン。先ほどはご迷惑をおかけしました。ここに謝罪をいたします」
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